グラミー&アカデミーW受賞 ルドウィグ・ゴランソンって何者?

グラミー&アカデミーW受賞 ルドウィグ・ゴランソンって何者?

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渡辺志保
編集:久野剛士(CINRA.NET編集部)

ヒップホップの分野でも活躍する作曲家が本領発揮を果たした映画音楽

もちろん、もともとの専門分野であった映画のスコアにおいても、ゴランソンは着々とキャリアを進めていく。学友のライアン・クーグラーが手がけた『フルートベール駅で』(2013年)や『クリード』(2015年)にスコアを提供し、相性の良さを証明すると同時に、クリス・ロックによる自伝的映画『トップ・ファイブ』(2014年、クリス・ロック監督)や、ドゥエイン・ジョンソン&ケヴィン・ハートのコンビによる『セントラル・インテリジェンス』(2016年、ローソン・マーシャル・サーバー監督)といったコメディー映画のスコアも世に送り出していった。

そして、クーグラー&ゴランソンコンビ作品の真骨頂が、『ブラックパンサー』のスコアだろう。もともと、学生時代にアフリカへ研修旅行に行ったことがあると語っているゴランソンだが、『ブラックパンサー』のスコアを完成させるべく、彼はクーグラーからもらった脚本を読むとすぐに西アフリカのセネガルへ渡ったという。映画の雰囲気をスコアで表現するには、まずは自分自身をアフリカのカルチャーへとどっぷり浸からせねば、と思ったそうだ。実際にセネガルからいくつかの楽器を持ち帰り、現地のミュージシャンとも交流したゴランソンは結果、アフリカンドラムとヒップホップサウンドには欠かせないドラムマシンであるTR-808と、映画のスコアらしいシンフォニックなハーモニーを奏でるオーケストラとを掛け合わせ、架空の国「ワカンダ」のイメージをサウンド面から見事に作り上げていった。

「まずは人ありき」天才作曲家の人の魅力を引き出す根源的なエネルギー

『ロサンゼルス・タイムズ』紙の取材において、「なぜドナルド・グローヴァーはあなたと仕事したがるのか」との記者の質問に、ゴランソンは「(ドナルドは僕が)彼のビジョンの中に入り込むことができると感じているからだと思う」と答えていた。2016年、チャイルディッシュ・ガンビーノが発表したアルバム『Awaken, My Love!』でゴランソンはプリンスやザ・パーラメントといった不朽のファンクサウンドを見事に再構築し、シングル“Redbone”とともにその年の『グラミー賞』の主要部門にノミネートされた。「stay woke(目を覚ましておけ)」と呼びかけるこの作品は、前作よりさらにメッセージ性を色濃く帯びており、アルバムとして完成度を高めることができた背景にはまさにガンビーノのビジョンを明確に譜面に落とし込むことができるゴランソンのサポートがあってこそだったのだろう。

そして、冒頭にも触れた今年の『グラミー賞』である。『ブラックパンサー』で「最優秀映像スコア部門」を、そしてチャイルディッシュ・ガンビーノとの楽曲で「最優秀楽曲」、そして「最優秀レコード部門」を授与され、ゴランソンは計3つのトロフィーを持ち帰った。

そして、『アカデミー賞』では、『ブラック・クランズマン』や『ビール・ストリートの恋人たち』といった作品を抑えて、見事、最優秀オリジナル・スコア部門でオスカーのトロフィーも勝ち取った。『アカデミー賞』の授賞式後の取材で、『ブラックパンサー』やドナルド・グローヴァーとの諸作など、メッセージ性(特に人種や文化にまつわるもの)が強い作品とコラボレーションすることへの意義を問われたゴランソンは「もともと、アメリカの映画や音楽に憧れてアメリカへ移った。学生時代からの付き合いであるライアン・クルーガーとはもう12年も一緒に、その頃から同じように制作をともにしている。素晴らしいコラボレーターに恵まれたことに感謝している」と答えていた。まずは人ありき、なのだ。

そして、その人が持つ信念やビジョンを、見事にサウンドへと具現化してみせる才能に長けているのが、このルドウィグ・ゴランソンなのである。稀代の映像クリエイターやアーティストらとともに、スウェーデンからアメリカへと身を移したゴランソンのビジョンがどこまで広がって行くのか、早くも次のプロジェクトが楽しみである。

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