グラミー&アカデミーW受賞 ルドウィグ・ゴランソンって何者?

ラップと映画音楽、2つの分野でグラミーを手にした初の作曲家

今年2月に開催された、『グラミー賞』の授賞式。例年通り、式はロサンゼルスのステイプルズ・センターで執り行われ、アメリカのーーいや、世界を代表するアーティストらが一堂に会した。今年は、チャイルディッシュ・ガンビーノが放った“This Is America”が「年間最優秀レコード賞」と「年間最優秀楽曲賞」のほか全4冠を獲得し、アメリカのラップ史ならびに音楽史に深くその名を刻んだことも大きな反響を呼んだ。会場に姿を現さなかったガンビーノの代わりに、本楽曲のミキシングを担当したエンジニアの「ミックスドバイ・アリ」ことデレク・アリとともにステージに登壇してスピーチを行ったのが、本曲の共同プロデューサーであるルドウィグ・ゴランソンである。

胸元まである長髪を揺らしながらステージに立ったゴランソンは、「チャイルディッシュ・ガンビーノと一緒に音楽制作できることは、人生において最高のチョイスだ」と切り出し、「スウェーデンで育ち、アメリカの音楽が好きだった。ドナルド・グローヴァーをはじめ、いろんなアーティストと制作できて感謝している。ドナルドもここにいればよかったんだけど」と続け、「どこで生まれていても、どこの国の出身であっても、あなたは“This is America”と繋がっているし、この曲は、人々のソウル(魂)に直接語りかけている。僕はこの楽曲に参加してくれた全てのラッパーに感謝したい。21サヴェージもここにいるはずだったのに」と結び、感動的な受賞スピーチを披露した。

ポスト・マローンのヒット・シングル“rockstar”にフィーチャリングアーティストとして参加していた21サヴェージは、この日、2部門にてノミネートされるもグラミー開催の1週間前にICE(米移民局)によって不法滞在の罪を問われて逮捕され、レッドカーペットを歩くことができなかった。そして、まるで見せしめのように逮捕されてしまった人気ラッパーについて触れたのは、この日、ルドウィグ・ゴランソンただ1人であった。

しかし、『グラミー賞』授賞式の夜、ゴランソンに大きなスポットライトが当たったのはこの1件のみではない。彼は、ライアン・クーグラー監督による大ヒット映画『ブラックパンサー』のスコアも手掛けており、『ブラックパンサー』は同『グラミー賞』において「最優秀映像スコア賞」も受賞した。よって、ルドウィグ・ゴランソンは、スコアとラップ楽曲のプロデュースにおいて、一晩で3つのトロフィーが授与された史上初の作曲家となったのだ。

スウェーデン出身の作曲家と、チャイルディッシュ・ガンビーノとの出会い

自身のスピーチでも述べていた通り、ルドウィグ・ゴランソンはスウェーデンの出身だ。余談だが、スウェーデンはこれまでにも、ブリトニー・スピアーズ“Baby one more time”で米ポップ史を塗り替えたレジェンドプロデューサーのマックス・マーティンから、EDMからポップフィールドを革新的に攻めた故アヴィーチーまで、音楽シーンに世界規模の変化をもたらしてきた超優秀なクリエイターを輩出してきた地でもある。

スウェーデン南部の地、リンシェーピンに生まれたゴランソンは、ストックホルムの音楽学校に入学した後、2007年にアメリカのロサンゼルスに位置する南カリフォルニア大学へと留学し、映画やテレビのスコア音楽を学ぶ学科へ籍を置く。そこで出会ったのが、同校にて映画監督への道を志していたライアン・クーグラーだ。その後、ゴラッソンは2009年よりテレビ・ドラマ『Community(邦題:コミ・カレ!!)』の音楽を手がけるようになる。『コミ・カレ!!』に役者としてシーズン1から参加していたのが、ドナルド・グローヴァーだ。グローヴァーは、役者や脚本家、コメディアンとしてキャリアをスタートさせるとともに、「チャイルディッシュ・ガンビーノ」という名義を使ってラッパーとしても活動していた。主にネット上でフリーのミックステープをリリースしていたガンビーノが、サウンドプロダクションのパートナーとして声をかけたのが、まさにルドウィグ・ゴランソンだったのだ。

グローヴァーとゴランソンのコンビは『Culdesac』や『Camp』『ROYALTY』『Because The Internet』といったミックステープやアルバムを次々と世に送り出し、音楽シーンにチャイルディッシュ・ガンビーノの名前を刻んでいった。並行して、ゴランソンはHAIMやチャンス・ザ・ラッパーといったアーティストらのプロデュースも手がけていき、幅広く音楽シーンに食い込む新鋭プロデューサーとしての実力を確かなものにしていった。

ヒップホップの分野でも活躍する作曲家が本領発揮を果たした映画音楽

もちろん、もともとの専門分野であった映画のスコアにおいても、ゴランソンは着々とキャリアを進めていく。学友のライアン・クーグラーが手がけた『フルートベール駅で』(2013年)や『クリード』(2015年)にスコアを提供し、相性の良さを証明すると同時に、クリス・ロックによる自伝的映画『トップ・ファイブ』(2014年、クリス・ロック監督)や、ドゥエイン・ジョンソン&ケヴィン・ハートのコンビによる『セントラル・インテリジェンス』(2016年、ローソン・マーシャル・サーバー監督)といったコメディー映画のスコアも世に送り出していった。

そして、クーグラー&ゴランソンコンビ作品の真骨頂が、『ブラックパンサー』のスコアだろう。もともと、学生時代にアフリカへ研修旅行に行ったことがあると語っているゴランソンだが、『ブラックパンサー』のスコアを完成させるべく、彼はクーグラーからもらった脚本を読むとすぐに西アフリカのセネガルへ渡ったという。映画の雰囲気をスコアで表現するには、まずは自分自身をアフリカのカルチャーへとどっぷり浸からせねば、と思ったそうだ。実際にセネガルからいくつかの楽器を持ち帰り、現地のミュージシャンとも交流したゴランソンは結果、アフリカンドラムとヒップホップサウンドには欠かせないドラムマシンであるTR-808と、映画のスコアらしいシンフォニックなハーモニーを奏でるオーケストラとを掛け合わせ、架空の国「ワカンダ」のイメージをサウンド面から見事に作り上げていった。

「まずは人ありき」天才作曲家の人の魅力を引き出す根源的なエネルギー

『ロサンゼルス・タイムズ』紙の取材において、「なぜドナルド・グローヴァーはあなたと仕事したがるのか」との記者の質問に、ゴランソンは「(ドナルドは僕が)彼のビジョンの中に入り込むことができると感じているからだと思う」と答えていた。2016年、チャイルディッシュ・ガンビーノが発表したアルバム『Awaken, My Love!』でゴランソンはプリンスやザ・パーラメントといった不朽のファンクサウンドを見事に再構築し、シングル“Redbone”とともにその年の『グラミー賞』の主要部門にノミネートされた。「stay woke(目を覚ましておけ)」と呼びかけるこの作品は、前作よりさらにメッセージ性を色濃く帯びており、アルバムとして完成度を高めることができた背景にはまさにガンビーノのビジョンを明確に譜面に落とし込むことができるゴランソンのサポートがあってこそだったのだろう。

そして、冒頭にも触れた今年の『グラミー賞』である。『ブラックパンサー』で「最優秀映像スコア部門」を、そしてチャイルディッシュ・ガンビーノとの楽曲で「最優秀楽曲」、そして「最優秀レコード部門」を授与され、ゴランソンは計3つのトロフィーを持ち帰った。

そして、『アカデミー賞』では、『ブラック・クランズマン』や『ビール・ストリートの恋人たち』といった作品を抑えて、見事、最優秀オリジナル・スコア部門でオスカーのトロフィーも勝ち取った。『アカデミー賞』の授賞式後の取材で、『ブラックパンサー』やドナルド・グローヴァーとの諸作など、メッセージ性(特に人種や文化にまつわるもの)が強い作品とコラボレーションすることへの意義を問われたゴランソンは「もともと、アメリカの映画や音楽に憧れてアメリカへ移った。学生時代からの付き合いであるライアン・クルーガーとはもう12年も一緒に、その頃から同じように制作をともにしている。素晴らしいコラボレーターに恵まれたことに感謝している」と答えていた。まずは人ありき、なのだ。

そして、その人が持つ信念やビジョンを、見事にサウンドへと具現化してみせる才能に長けているのが、このルドウィグ・ゴランソンなのである。稀代の映像クリエイターやアーティストらとともに、スウェーデンからアメリカへと身を移したゴランソンのビジョンがどこまで広がって行くのか、早くも次のプロジェクトが楽しみである。



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スウェーデンの人々が大切にしてい「Fika」というコーヒーブレイクの時間のようにリラックスしながら、さまざまなアイデアが生まれる場所をめざします。

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