夏目知幸と映画のすてきな関係。映画が音楽家に与える創作の力

夏目知幸と映画のすてきな関係。映画が音楽家に与える創作の力

インタビュー・テキスト
柴崎祐二
撮影:垂水佳菜 編集:川浦慧(CINRA.NET編集部)

日本映画は、避けていると言っていいかもしれない。

—ずばり、どんな映画が好きですか?

夏目:なんというか……「こうであれ」っていうことを大上段から示してくるような、ためになりすぎる映画は好きじゃないんです。かといって、映像美として完成されているだけでは物足りなくて、たまにセリフとして現れていたり、どこかにその映画が伝えたいこともあってほしいんですよね。

それってポップミュージックにも言えることで、スローガンの押し売りになってしまったときの押し付けがましさったらない。よくできているポップスは楽曲としてもできがいいのはもちろん、そこに作家の主張も押し付けがましくない程度に入れ込まれていると思うんです。

去年観たものだと、ポール・トーマス・アンダーソンの『ファントム・スレッド』はすごくよかったですね。いかめしい教訓めいたことは何もないけど、美しいしポップでもある。

—日本映画も観ますか?

夏目:いやあ、実は最近ほとんど観てないんですよね。というより避けていると言っていいかもしれない。もちろん素晴らしい作品もあるだろうということも分かっているんですが、自分が音楽を作ろうとする時、拭い去りたいと思っている「日本的な狭い内向性」みたいなものに過敏に反応してしまって、それがシミのように抜けなくなってしまうんじゃないかという恐れがあって……。

—海外映画にはそういうところをあまり感じない?

夏目:日本と海外をやたらに比べるのも本当は嫌いなんですが、あえて言うと……『キャプテン・マーベル』もそうだし、『スウィート17モンスター』(2016年)も、苦悩やルサンチマンを抱える人間が何かを越えるときって、「この先も大変なことがあるかもしれないけど、これを越えられたから自分は多分大丈夫だ」っていう感覚とか、「今も何かに屈しそうだけど、あのときも超えてきたしできるはずだ」っていう、人間の持つ強さの方にフォーカスしていく感覚があって、それらが教訓臭くない形で物語の推進力になっていると思うんです。

けど、僕が観たここ2~3年の日本映画って、「ダメな自分」をそのまま肯定してしまって、内輪で小さい自意識をイジリあうみたいなものがわりと評判になっている印象があって……。でも、そういうことに囚われていい作品を見逃すのはいやなので、なるべく妙な偏見は持たないようにしたいのですが。

夏目知幸

映画や音楽って、抽出される共通部分をうまく提示することができるものなんだと思うんです。

—近年ではアジア映画をよく観ているらしいですね。

夏目:ツアーでアジアの各国に行くようになって、国ごとの文化を体験してから観ると、今までと入ってくるものが違うんですよね。それと、友達とのコミュニケーションツールとして映画の話をするのは、日本以外も同じで。

先日、友達の韓国人ミュージシャンと話しているとき、「ホン・サンスの映画が好きで最近よく観るんだけど、彼の作品はどう思う?」って聞いてみたら、「あんなのどこがいいの? 男女が本とか映画の話して、はい、じゃあセックスしましょうねっていう映画でしょ」ってバッサリ言われて(笑)。そういう違った意見を聞けるのは新鮮ですね。

—実際に音楽制作にインスピレーションを与えた映画もありますか?

夏目:そういうのはしょっちゅうあります。『Virgin Graffiti』に入っている“逃亡前夜”という曲には、アジア映画からインスピレーションを受けて、友達が実際にしゃべって録音してくれた台湾語と韓国語のモノローグが収録されています。

シャムキャッツ『Virgin Graffiti』ジャケット
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夏目:各国の友達と話していると、抱えている悩みは僕たちと根本的には変わらなくて。お金の話、その街の住みづらさ、上の世代が作りだした習慣に対する憤りだったり……。なんというか、パラレルワールドにいるような感覚になるんです。同じ時間に現実として起こっていることなんだけど、少しずつその形が違う。映画や音楽って、そこから抽出される共通する部分をうまく提示することができるものなんだと思うんです。

だから、他の国の昔の映画を観たとしても、まるで自分が思春期に抱えていた苦しみをそのまま描いてくれている感覚になったりするんですよね。むしろ、国や環境の違いによる表層的な差異のおかげで、余計に心へ響いてきたりもする。そういうとき、音楽家としてもピュアな創作意欲を掻き立てられるんです。その刺激を純粋な形で残しておきたかったから、台湾語や韓国語の語りをそのまま曲に入れたんです。

—エキゾチック性やオリエンタル性を演出するためではなく。

夏目:そう。全然違います。同時に、全面的な共感ではないものに宿る美しさを描きたいというか。やっぱり僕は、違う境遇で生活し、全く違う人によって体験される感動というものに興味があるんですよね。自分と同じような人達の物語が繰り返し描かれても、それは面白くない。

「あいつとおれは同じだから、わかるなあ」っていう単純な共感って、ときに同調圧力や排除の力を生んでしまったりするけど、そこからはこぼれてしまう、もっと繊細な感覚……違う世界を見ているはずの個人と個人がふと繋がる時に現れるもの、そういうものに感動しますね。それは、音楽や映画の大きな魅力のひとつだと思います。

夏目知幸
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リリース情報

『Virgin Graffiti』
シャムキャッツ
『Virgin Graffiti』(CD)

2018年11月21日(水)発売
価格:2,916円(税込)
TETRA-1012

1.逃亡前夜
2.もういいよ
3.完熟宣言
4.She's Gone
5.おしえない!
6.Stuffed Baby
7.カリフラワー
8.BIG CAR
9.俺がヒーローに今からなるさ
10.あなたの髪をなびかせる
11.まあだだよ
12.Cry for the Moon
13.このままがいいね (Album Mix)

プロフィール

シャムキャッツ
シャムキャッツ

メンバー全員が高校三年生時に浦安にて結成。2009年のデビュー以降、常に挑戦的に音楽性を変えながらも、あくまで日本語によるオルタナティブロックの探求とインディペンデントなバンド運営を主軸において活動してきたギターポップバンド。サウンドはリアルでグルーヴィー。ブルーなメロディと日常を切り取った詞世界が特徴。2016年からは3年在籍したP-VINEを離れて自主レーベルTETRA RECORDSを設立。より積極的なリリースとアジア圏に及ぶツアーを敢行、活動の場を広げる。代表作にアルバム『AFTER HOURS』『Friends Again』、EP『TAKE CARE』『君の町にも雨は降るのかい?』など。2018年、『FUJI ROCK FESTIVAL ’18』に出演。そして2018年11月21日、5枚目となるフルアルバム『Virgin Graffiti』を発売した。

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