自由への渇望と恋、ムーミンの物語。『TOVE』監督が語るトーベ

自由への渇望と恋、ムーミンの物語。『TOVE』監督が語るトーベ

2021/09/30
インタビュー・テキスト
村尾康郎
編集:後藤美波(CINRA.NET編集部)

小説、漫画、アニメなどさまざまなかたちで、世界中で愛されている『ムーミン』。その作者であるフィンランドの作家 / 画家、トーベ・ヤンソンはどんな想いでこの物語を生み出したのだろう。

トーベが有名になる前夜にスポットを当てた映画『TOVE/トーベ』では、等身大のトーベが描き出されている。著名な彫刻家だった父親との対立、舞台演出家だったヴィヴィカ・バンドラーとの恋愛など、トーベはさまざまな葛藤を乗り越えて、アーティストとしてのアイデンティティーを見つけ出していく。監督を務めたのはフィンランド出身の女性監督、ザイダ・バリルート。映画のリサーチをするなかで、トーベに対する印象が大きく変わったという彼女に話を訊いた。

トーベ・ヤンソンの有名になる前の日々に光を当てた理由

―映画『TOVE/トーベ』はトーベを身近に感じることができる作品でした。彼女の無名時代に焦点を当てたのはどうしてですか?

バリルート:映画を製作するにあたって膨大なリサーチをしました。40代で出会い、のちに生涯のパートナーとなったトゥーリッキとの関係や島の生活のことはよく知られているので(トゥーリッキ・ピエティラはトーベを公私共に支えたグラフィックデザイナー。二人はトーベが50歳のときに無人島に小屋を建てて、毎夏そこで過ごした。『ムーミン』の登場人物、トゥーティッキは彼女をモデルにしている)、それより前の、若いころのトーベに焦点を当てようと思ったんです。アーティストとして彼女が抱えていた葛藤を描いてみようと。

ザイダ・バリルート<br>1977年フィンランド・キヴィヤルヴィ出身。『僕はラスト・カウボーイ』(2009)、『グッド・サン』(2011)、『マイアミ』(2017)などで知られる。世界各国の映画祭へ出品され、『釜山国際映画祭』や『シカゴ国際映画祭』などで受賞を果たしている。本作は彼女にとって5本目の監督作となる。 ©Marica Rosengard
ザイダ・バリルート
1977年フィンランド・キヴィヤルヴィ出身。『僕はラスト・カウボーイ』(2009)、『グッド・サン』(2011)、『マイアミ』(2017)などで知られる。世界各国の映画祭へ出品され、『釜山国際映画祭』や『シカゴ国際映画祭』などで受賞を果たしている。本作は彼女にとって5本目の監督作となる。 ©Marica Rosengard

―なかでも、彼女が30代前半のころに交際したヴィヴィカとの関係が物語の軸になっていますね。

バリルート:トーベの恋愛模様も描きたいと思いました。トーベはアーティストとしてのアイデンティティーを模索しているときに、初めて女性と恋に落ちる。これはトーベにとって革新的な出来事だったし、彼女の人生に与えた影響は大きかったと思うんです。短い関係ではありましたが、ヴィヴィカとの関係を通じていろんな意味で新しい世界へのドアが開いた。しかし、そのころ同性愛は禁じられた関係であり、ヴィヴィカとの恋愛はトーベにとって大きな葛藤でもありました。

―二人が出会ったのは1946年ですが、当時、フィンランドでは同性愛は犯罪だったそうですね。男性とも女性とも恋に落ちたトーベのセクシュアリティーは『ムーミン』をはじめ彼女の作品に影響を与えたと思いますか?

バリルート:間違いなく与えていると思います。多分、社会のマイノリティーの人たちのために語らなければいけない、という強い思いを抱いたのではないでしょうか。それは『ムーミン』の物語からも感じます。

『ムーミン』の世界の価値観は、連帯や平等、誰でも受け入れるというインクルージョンの精神を体現していますが、そういったことは彼女にとってすごく重要だったと思います。「小さき人々(マイノリティー)」を守らなければ、という思いが作品から伝わってきます。

劇中のヴィヴィカ・バンドラー(クリスタ・コソネン)とトーベ・ヤンソン(アルマ・ポウスティ)『TOVE/トーベ』 © 2020 Helsinki-filmi, all rights reserved
劇中のヴィヴィカ・バンドラー(クリスタ・コソネン)とトーベ・ヤンソン(アルマ・ポウスティ)『TOVE/トーベ』 © 2020 Helsinki-filmi, all rights reserved

「血のつながりだけが家族ではない」。構想していた別のエンディング

―トーベは若いころ、アーティストたちが共同生活を送る芸術村をつくろうとしていたそうですが、そういうコミュニティー志向は『ムーミン』の舞台になっているムーミン谷や、トゥーリッキと小屋を建てて暮らした島の生活につながるように思えます。彼女はずっと仲間や家族と暮らせる理想郷を探していたのではないでしょうか。

バリルート:私もそう思います。彼女のハートは大きくて、恋愛関係が終わっても相手との友情がつづきました。ヴィヴィカとの関係もそうでした。それだけ彼女にとって仲間や家族の存在は重要だった。そこが素敵なところですよね。

じつはこの映画のエンディングとして考えていたアイデアがあったんです。トーベがトゥーリッキと一緒に島にいるところに、トーベのこれまでの恋愛相手や家族が船を漕ぎながらやってくる、というものでした。それでもよかったな、といまでも思います。なぜなら、トーベにとってコミュニティーはとても大切なものだったから。家族は自分でつくれる、血のつながりだけが家族ではない、と彼女は考えていたんじゃないかと思います。当時としては画期的な考え方ですよね。

劇中のヴィヴィカ・バンドラー(クリスタ・コソネン)© 2020 Helsinki-filmi, all rights reserved
劇中のヴィヴィカ・バンドラー(クリスタ・コソネン)© 2020 Helsinki-filmi, all rights reserved
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作品情報

『TOVE/トーベ』
『TOVE/トーベ』

2021年10月1日(金)より新宿武蔵野館、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで全国ロードショー

監督:ザイダ・バリルート
出演:
アルマ・ポウスティ
クリスタ・コソネン
シャンティ・ロニー
ヨアンナ・ハールッティ
ロバート・エンケル
脚本:エーヴァ・プトロ
音楽:マッティ・バイ
上映時間:103分
配給:クロックワークス

プロフィール

ザイダ・バリルート

1977年フィンランド・キヴィヤルヴィ出身。『僕はラスト・カウボーイ』(2009)、『グッド・サン』(2011)、『マイアミ』(2017)などで知られる。世界各国の映画祭へ出品され、『釜山国際映画祭』や『シカゴ国際映画祭』などで受賞を果たしている。本作は彼女にとって5本目の監督作となる。

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