『TOKION』創刊者ルーカス・B.B.。ムダが雑誌を伝説にした

『TOKION』創刊者ルーカス・B.B.。ムダが雑誌を伝説にした

インタビュー・テキスト
唐川靖弘
撮影:升谷玲子 編集:久野剛士(CINRA.NET編集部)

マクドナルドを24時間観察。一見ムダなことの連続が伝説の雑誌を生んだ

日本に住み始めて最初の数年は、右も左もわからないまま、英語教師をしたり、英語メディアに記事を書いたりして食いつないだ。毎日が新鮮な驚きの連続。日本の食べものや人の接し方、畳の上に寝る生活文化など、ごくありふれた日常に感動した。同時に、「なぜ日本人は、自分たちの目の前にある素晴らしい価値に気づかないのか」と不思議に思った。日本文化の素晴らしさに、日本人にこそ最初に気づいてもらいたい。その思いが募るとともに、真っさらな紙に表現することが大好きだった昔の自分を思い出した。そして1996年、自身の会社を設立。『TOKION』(トキオン)という名前の雑誌を創刊した。

ルーカスさんが創刊した『TOKION』のバックナンバー。現在は廃刊している
ルーカスさんが創刊した『TOKION』のバックナンバー。現在は廃刊している

ルーカス:雑誌はその時代その時代の空気を吸っているから、まるで生きもの。『TOKION』は、漢字で書くと「時音」、つまり、その時代の音を伝えるという意味も込めたんだ。

『TOKION』のコンセプトは「ワイドスクリーン」。幅広い視点やさまざまな角度から遊び心ある企画を発信し続けた。「マクドナルド」をテーマにした号では、当時としてはまだ珍しかった24時間営業で話題の新宿歌舞伎町店で、24時間、ただひたすら人の出入りを観察しつづけた。マクドナルドを舞台に展開される人間模様を5分間隔でカメラに記録していったのだ。24時間休みなくシャッターを切り続ける。想像するだけで気が遠くなる。その無謀ともいえるチャレンジを支え、ルーカスさんと交代で撮影を担ったのは、妻の香織さんだった。

また「Dream」をテーマにした号では、当時まだ無名の新進アーティストや文化人に登場してもらい、夢を見るための相棒でもある自分の枕を紹介してもらいつつ、自身の夢を語ってもらった。その号の表紙を飾ったのは、ファッションデザイナーのNIGOさん。当時、一部の若者たちから熱狂的な支持を受けながらも、まだメディアに顔を出すことはほとんどなかった。彼を起用した表紙は、3パターン存在した。撮影用に手にしているライトセーバーの色が、赤、青、緑と異なっているのだ。時間やコスト、労力ばかりがかかる「一見ムダなこと」にルーカスがこだわった結果だった。

 

「1号店を銀座に出した日本のマクドナルドは、アメリカにあるマクドナルドとは全く別物ではないのか?」「ライトセーバーの色が異なる表紙を用意したら、コレクター文化をもついまどきの日本の若者はコレクションしたくなるのではないか?」大学時代、アメリカ文化をさまざまな角度でとらえ続けたように、ルーカスさんならではの視点で日本のポップな文化をとらえた『TOKION』は読者の共感を呼び、たちまち伝説の雑誌となった。マクドナルドの企画は、当時日本マクドナルド社長だった藤田田さんに大変気に入られ、藤田社長はポケットマネーで掲載号を数百冊と大量に購入。自らたくさんの人に配って紹介して回った。

「すでに世の中にあるものを自分が作る必要はない」との考えでやってきた。だから、『TOKION』が成功してからも、部数を伸ばし続けることより、新しいことに挑戦することにこだわった。そして2002年、日本を始めとする世界各地の美しい文化や自然、ライフスタイルを紹介する雑誌『PAPERSKY』(ペーパースカイ)を創刊した。ガイドブックや団体観光からは決して得ることのできない、ルーカスさんの感性に裏打ちされた深い見聞や経験を提案する独自のコンテンツは、世界のみならず、日本文化の素晴らしさをも再認識する機会を与えることとなった。デジタル版も追加され、愛読者はいまや、日本人だけでなく海外からの旅行客にも広がりつつある。

ルーカスさんが創刊した、日本や世界各地の文化や自然を紹介する雑誌『PAPERSKY』のバックナンバー
ルーカスさんが創刊した、日本や世界各地の文化や自然を紹介する雑誌『PAPERSKY』のバックナンバー

さらに2003年には、「旅」をテーマにした本屋を企画した。「世界を旅しているような感覚」を味わってもらえるよう、 本と雑貨を混在させた空間や、新刊と古本を一緒に陳列する仕掛けにチャレンジ。いまではよく見かけるような光景も、当時は極めて斬新だった。

ある新聞社の依頼で、「植物」をテーマにした雑誌のクリエイティブディレクションを担当したときのこと。クライアントである新聞社は、安定した読者層が見込めるとの理由から「園芸の雑誌にしたい」と言ってきた。しかしルーカスが提案したのは、「植物の大切さや儚さ、植物と調和したライフスタイルの美しさ」をコンセプトにした雑誌だった。クライアントからは「なんでわざわざこんなわかりづらい雑誌を作る必要があるのか」と冷めた反応もあったという。しかしフタを開けてみると、競合の新聞社でさえもその雑誌を好意的に紹介する特集記事を組むなど、大きな話題を振りまいた。

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プロフィール

ルーカス・B.B.(ルーカス・ビービー)

1971年、アメリカ・ボルティモア生まれ。サンフランシスコ育ち。1993年に来日、1996年にニーハイメディア・ジャパンを設立する。カルチャー誌『TOKION』を発行し、斬新な切り口で若者の注目を集める。その後もトラベルライフスタイル誌『PAPERSKY』やキッズ誌『mammoth』を手がけながら、『Metro min.』(スターツ出版)や『Planted』(毎日新聞社)など、数多くのメディアの創刊にクリエイティブディレクターとして関わる。ファミリー向け野外フェスティバル「マンモス・ハローキャンプ」や日本各地を自転車で巡る「ツール・ド・ニッポン」のイベント企画やプロデュースなど、雑誌以外のさまざまなフィールドでもクリエイティブ活動を行う。

唐川靖弘(からかわ やすひろ)

1975年広島県生まれ。外資系企業のコンサルタント、戦略プランニングディレクターを経て、2012年から米国コーネル大学ジョンソン経営大学院 Center for Sustainable Global Enterpriseマネージングディレクターとして、多国籍企業による新規ビジネス開発プロジェクトや新市場開拓プロジェクトをリード。自身のイノベーションファームEdgeBridge LLCを拠点に、企業の戦略顧問や組織・人材育成プログラムディレクター、大学の客員講師としても活動。フランスの経営大学院INSEADにおいて臨床組織心理学を研究中。

連載『イノベーションを生む「うろうろアリ」の働き方』

変化のスピード増す現代において、既存の価値観や会社という枠組みに囚われないない「うろうろアリ」こそがイノベーションをリードする。自由な発想で新たな価値を生み出し続ける彼らの、最先端の働き方を紹介するインタビュー連載です。

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