マルコメ社員と料理家、世界一くさい缶詰を食べて発酵を語る

マルコメ社員と料理家、世界一くさい缶詰を食べて発酵を語る

インタビュー・テキスト
大北栄人
撮影:鈴木渉 編集:中田光貴、石澤萌(CINRA.NET編集部)

発酵から見た日本の甘酒とフィンランドの「シマ」

発酵マイスターであり料理家の榎本美沙さんはフィンランドの「シマ」というドリンクを作ってきてくれていた。フィンランドで5月1日はヴァップという春を祝う日で、シマはそのときに飲むイーストやレーズンなどで作られる発酵ドリンクだそうだ。飲んでみるとさわやかな香りが口のなかに広がる。シュールストレミングと同じく、初めて味わう発酵食品であるがこれはおいしい……!

榎本:甘くて飲みやすいですよね。イースト菌がこのなかでいまも発酵しているので、この微炭酸も自然の泡。イースト菌小さじ1/16杯で、シマを2リットルつくることができます。発酵のパワーがすごいんですよね。ちなみに「ムーミン」シリーズのレシピ本『ムーミンママのお料理の本』(講談社)でもシマは取り上げられています。

一方、マルコメの広報である尾田さんには同じく発酵食品である自社製品の甘酒を持ってきていただいた。

左から:マルコメの甘酒、榎本さんお手製のシマ
左から:マルコメの甘酒、榎本さんお手製のシマ

─実際にシマを飲んでみて、いかがですか?

尾田:甘酒はお米と米麹でできているのですが、シマにはイーストとお砂糖が入ってますね。同じ発酵の過程を経てるんですけど、甘酒は麹菌でシマはイースト菌なので、こんなにも香りや味がちがうんだと驚きます。日本はお米を中心とした文化なので麹菌由来の甘酒が生まれて、フィンランドだからイースト菌で作るシマができたんだろうと思います。レーズンが入るのも、北欧の文化が表れていて面白いですね。

 

─シュールストレミングみたいな個性が強すぎる食品から優しい甘酒まで。いや、もうなんでこんなに幅広いものが発酵から生まれるんだろうと。そもそものところなんですが、発酵ってなんですか?

尾田:ある物質をある物質に変えてくれる微生物の働きですね。味噌の場合だと大豆を酵素の力でアミノ酸に変えてくれて、そのまま食べても感じられなかった旨みを感じられるようになります。甘酒だと米のデンプンを分解してブドウ糖に変えて甘みが出たりする。食品を微生物がおいしく変化させてくれることが発酵ですね。

 

─発酵っておいしい変化限定なんですか? まずくなったりしないんですか?

榎本:発酵と腐敗って自然界ではまったく同じ現象なんですよ。微生物の活動でものを人に「有益」なように変化させるのが発酵で、「有害」なものに変化させるのが腐敗なんです。なので自然界からしたらやってることは一緒です。

さっきシュールストレミングを食べてるときに「これは腐敗ではないのか?」って思いましたよね。たとえば納豆を他の国の人が食べても同じ感想を持つと思います。それも自然界のなかでは発酵と腐敗は同じ現象なので、文化や民族の違いで感じかたが変わってくるんでしょうね。

なんと自然界では腐敗と発酵は一緒! 究極のところ、腐っているといえば腐っている、ということになってしまった。あれ? こんな「気の持ちようだよ」みたいな結論でいいのだろうか? 実家の母みたいになってきたぞ。

尾田:ただ、くさいものでも発酵食品であれば保存性は高まってるのでシュールストレミングを食べてもおなかは壊さない。むしろ機能性成分としては高まっているかもしれない。昔の人は魚を保存させる方法がなかったところ、発酵させることで次の年も食べられるようになった。保存性が高まったり栄養が高まったりするのが発酵のいいことですね。

榎本:そうそう、発酵食品が健康にいいと最近すごく言われていますが、もともとは保存をするためのもの。日本は島国で海に囲まれてお魚がいっぱいとれるけれど、全然日持ちしないからどうしようという状況からできたのが発酵なので、まず保存という役割がありますね。

 

「くさいなあ」とか「でもそれがいいんだよなあ」の前に、シュールストレミングは「保存させるため」という理由がある。なんでもフィンランドで塩が貴重な時代に塩の量を減らした塩漬けが、シュールストレミングなんだそうだ。

─北欧も海に囲まれている大きな島という点では日本と同じですね。

榎本:日本は高温多湿で腐りやすいから発酵させて腐敗菌をブロックさせてたのが大きいと思うんです。一方、北欧は寒くて食料をとれない時期があるので、その間に必要な食べものを保存する必要から発酵の技術が高まったんじゃないでしょうか。海に囲まれている点も通じるものがあるし、発酵が得意という意味でも日本と北欧は通じてますよね。

『世界のベストレストラン50』(イギリスの雑誌『Restaurant Magazine』主催のレストランアワード)で世界1位に何回も選ばれている「noma」というレストランがデンマークにあるんですけど、そこのレネ・レゼピという有名なシェフが先日発酵の本を出しました(日本では『ノーマの発酵ガイド』(KADOKAWA)として2019年3月20日発売予定)。その本には味噌や醤油、麹のことも書いてあるんです。今の食のトレンドである新北欧料理の、それも一番と言ってもいいほど有名な人が日本の発酵技術に興味を持っている。これってすごいことだと思います。

尾田:保存だけでなく、発酵という過程を経ることで栄養価も高まります。人間の体に吸収されやすい栄養素に微生物が分解してくれるので、体の負担がなく栄養を吸収しやすい。

たとえば甘酒の甘さって酵素の力でデンプンを分解して糖分にしてくれているからなんですが、それってごはんを口のなかでずっと噛んでると甘くなってくるのと同じなんですね。口ですることが甘酒のなかですでにされている。だから胃腸の調子が悪いときでも、甘酒ならそのままごくごく飲んでも負担なく栄養を吸収しやすいんです。

 
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プロフィール

マルコメ株式会社(まるこめかぶしきがいしゃ)

だし入りの味噌「料亭の味」や液状タイプで使いやすい「液みそ」を主力とする食品メーカー。近年は味噌づくりに欠かせない米糀と発酵技術を活かしたアルコール0%の「糀甘酒」が大ヒット。同じく味噌の主原料にある大豆では、高たんぱくで低脂質な「大豆のお肉」やグルテンフリーの「大豆粉」関連の商品が話題に。ベジタリアンやヘルシー志向の方にとどまらず、罪悪感のない食事を意味するギルトフリーの食生活を提案している。

榎本美沙(えのもと みさ)

料理家、発酵マイスター。広告会社勤務の傍ら、夫婦で一緒に料理を作るレシピ紹介サイト「ふたりごはん」を開設。その後、調理師学校を卒業し独立。「季節の手仕事・季節の料理」を忙しい人にも気軽にをモットーにレシピ開発をおこなう。主に「旬野菜、発酵の手軽料理」などの領域で、雑誌やWEBへのレシピ提供、企業のレシピ開発、料理教室、イベント出演などを行う。

大北栄人(おおきた しげと)

ウェブのライター、コントのユニット「明日のアー」の主宰。映像作品で『したコメ大賞2017グランプリ』受賞。アーは恥ずかしいことを思い出して出るうめき声のこと。いましてることはすべて明日のアーであるという自覚がある。

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