現金を持たない市川渚が綴る、キャッシュレス決済の良し悪し

財布を忘れたことにも気づかないほど浸透している、キャッシュレス生活

スマホを片手に自宅を出て、電車に乗り、仕事場へ向かう。道すがらスタバに立ち寄って、カフェラテを購入。お昼ご飯はUber Eatsでチャチャっと済ませ、打ち合わせを数本、コラム執筆のためにAmazonで気になっていたガジェットをポチって、仕事を一通り終えたら、今夜は古くからの友人たちと食事の約束がある。

「あ、お財布忘れた。」

割り勘だから現金を下ろしておかねばと思い、コンビニのATMの前に立った瞬間、ようやく気づいたのである。今日は、お財布を忘れていたんだということに。もともと、自分は忘れ物が多いタイプでは決してなかったのだけれど、最近そんなことが増えた。

基本的に決済はクレジットカードに集約している。スマホをピッとかざして支払えるお店が増えてからコンビニや自動販売機、各種交通機関ではモバイルSuicaやApple Pay、スタバは専用の決済アプリで支払えばいいので、日常生活では、現金だけでなくカードを提示するシーンも減ったなあと感じる。

無論、それ以上に出番が激減しているのは現金である。もはやカードが使えない行きつけのワインバーでの支払いや友人との割り勘くらいでしか必要に駆られない。

後者はスマホ決済サービスのLINE Payを使って済ませることも増えてきた。友人と旅行に出かけたとき、食事に行ったとき、LINE Payを使って友人に送金し、割り勘を済ませる。メッセージを送る感覚で送金できるので、お店のテーブルに現金を広げて、支払いをし合うよりも、よっぽどスマートだ。

我が家は夫婦でもお財布が別なので、2人で使うものを買った時、どちらかが立て替えた時なども、LINE Payを通じて精算をするようにしている。LINEであれば、多くの人がアカウントを持っているから、サインアップも簡単なので、まだ使っていないという人にもおすすめしやすいのも、ポイントである。クレジットカードとは違い、銀行の口座からお金をチャージして使うので、使いすぎるということもない。

わたしがクレジットカードやスマホ決済サービスを使う魅力のひとつとして、「お金の出入りを『見える化』しやすい」という点がある。銀行口座や各種クレジットカード、決済サービスと連携して、ひとつのアプリでお金の出入を管理できる家計簿アプリもたくさんリリースされている。そういったアプリを使って、一元管理するのだ。

「現金で支払ったほうがお金の重みを感じれるから、無駄遣いが減らせる」という意見もよく耳にするけれど、私はお金の質量を感じることだけが人の金銭感覚を大きく左右するとは思わない。それよりもまず大切なのは、自分の資産がいくらあって、どのくらいのお金が出入りしているのか、それを把握することではないだろうか。

わたしのような個人事業主は、経理や税務的観点からもお金の出入りの記録を残しておくことが重要である。家計簿アプリ感覚で使える帳簿サービスを使って銀行口座やカードなど連携しておけば、手間も省けるし、漏れもない。お金の管理にかける労力や時間は、キャッシュレスによって確実に減っている。

世界に比べてまだまだ普及しない、日本のキャッシュレス事情

日本でも、今年10月の消費増税にあわせて、政府がキャッシュレス化を推奨し、法律や補助金制度などを整えはじめたところである。昨今大胆なキャンペーンで話題になったPayPayや前出のLINE Payなど、大手企業やベンチャーが手がけるスマホ決済サービスが続々と登場。とはいえ、日本ではまだまだ浸透していないのが現状だ。

一方、世界に目を向けてみると、日本とは比べ物にならないくらいキャッシュレス化が進んでいる地域がいくつかある。そのひとつが北欧諸国だ。

もともとデビットカードやクレジットカードが普及しており、キャッシュレス決済に対して抵抗のない人が多いという背景もあるが、今ではカードだけでなく、スウェーデンではSwish、デンマークではMobilePayといった銀行が立ち上げたスマホ決済サービスが国民の1/3~約半数ほどに浸透しているという。

キャッシュレス化の指標となるGDPに対する現金流通量は、日本ではまだ2桁%代なのに対して、これらの国は1桁代。公共交通機関からマーケット、美術館、公衆トイレまで、街のいたるところにQRコードが提示され、スマホで決済をすることができるようになっていて、「現金お断り」のお店も増えてきているという。現金やクレジットカードの入ったお財布を持たずとも、スマホさえ持っていれば、生活できてしまうのである。

こういった国に足を運ぶことになったとき、旅行者としてもキャッシュレスの恩恵を受けられる部分は多い。損をしてしまうようなレートで、使うかもわからない現金を両替する手間を省けるし、トラブルに遭ってしまった時も、キャッシュレス決済は記録が残るので、リスクを回避しやすい。

個人的にも、海外に出かける際、最近は「念のため」両替をする金額が圧倒的に減ったし、カードやスマホ決済が使えない国に行くのは面倒だなと思ってしまうことも。日本に対して、そういった印象を持っている外国人観光客もいるのかもしれない。観光地では、カードすら使えないという場面も多い。

バッテリー切れや端末の故障は、金の切れ目

ここまで、メリットばかりを並べてしまったが、もちろんキャッシュレスにも弱みがある。スマホ決済サービスは、その多くが登録の際に現地の電話番号や銀行口座を紐づける必要がある。旅行者や外国人にとって優しいサービスであるとは限らないのだ。北欧諸国と同様にキャッシュレス先進国であり、スマホ決済が浸透している中国に出かけた際に、自分が苦労した部分でもある。

また、セキュリティの面で不安、という声は周囲の友人や親世代からもよく聞くし、実際のトラブルもニュースなどで耳にする。(これは滅多にないことだとは思うが)システムがダウンしてしまったら不可抗力的に使えなくなってしまうし、もっと身近なところでは、自分のスマホのバッテリーの切れ目が、ある意味、お金の切れ目になってしまう。

筆者も先日、Suicaを使っているApple Watchのバッテリーが切れてしまって、電車に乗れない、ということがあった。幸いその日はお財布を持っていたし、多少の現金が入っていたので、どうにか難を逃れることができたが、過日、新幹線で京都に出かけた際には、Apple Watchの充電器を忘れてしまい、「もしバッテリーが切れたら、チケットレスで予約した帰りの新幹線に乗れないのではないか……」とヒヤヒヤしたこともあった。

無論、普段からバッテリーを切らさないよう充電を欠かさない、モバイルバッテリーを持ち歩くようにする、といった対策を万全にしておけば回避できる部分も大きいが、バッテリー切れではなく、スマホが故障してしまったら……それこそ二進も三進もいかなくなってしまう。こんな時は、代替の決済手段に頼るしかないだろう。

携帯電話が普及したから、街中の公衆電話がゼロになったわけではないように、キャッシュレスも現金も、それぞれ、お金を所持し、使う一手段でしかない。何かひとつのことに囚われすぎず、ライフスタイルに合わせて、心地よく毎日を生きていくための手段を、自分で選んでいく。私はお金に対しても、そんな柔軟な姿勢でいたい。

プロフィール
市川渚 (いちかわ なぎさ)

ファッションデザインを学んだ後、海外ラグジュアリーブランドのPRなどを経て、2013年に独立。フリーランスのファッション・コンサルタントとして、ファッション、ラグジュアリー関連の企業やプロジェクトのコンサルティング、デジタルコンテンツのクリエイティブ・ディレクション、プロデュース、制作などを手がける。ガジェットとデジタルプロダクト好きが高じメディアでのコラム執筆やフォトグラファー、モデルとしての一面も。ファッションとテクノロジーがクロスする領域で幅広く活躍中。



フィードバック 0

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Life&Society
  • 現金を持たない市川渚が綴る、キャッシュレス決済の良し悪し
About

「幸福度が高い」と言われる北欧の国々。その文化の土台にあるのが「クラフトマンシップ」と「最先端」です。

湖や森に囲まれた、豊かな自然と共生する考え方。長い冬を楽しく過ごすための、手仕事の工夫。

かと思えば、ITをはじめとした最先端の技術開発や福祉の充実をめざした、先進的な発想。

カルチャーマガジン「Fika(フィーカ)」は、北欧からこれからの幸せな社会のヒントを見つけていきます。

スウェーデンの人々が大切にしてい「Fika」というコーヒーブレイクの時間のようにリラックスしながら、さまざまなアイデアが生まれる場所をめざします。

「幸福度が高い」と言われる北欧の国々。その文化の土台にあるのが「クラフトマンシップ」と「最先端」です。

湖や森に囲まれた、豊かな自然と共生する考え方。長い冬を楽しく過ごすための、手仕事の工夫。

かと思えば、ITをはじめとした最先端の技術開発や福祉の充実をめざした、先進的な発想。

カルチャーマガジン「Fika(フィーカ)」は、北欧からこれからの幸せな社会のヒントを見つけていきます。

スウェーデンの人々が大切にしてい「Fika」というコーヒーブレイクの時間のようにリラックスしながら、さまざまなアイデアが生まれる場所をめざします。

VOLVO