津野青嵐に訊く、元看護師だから実現できる希望ある「服作り」

津野青嵐に訊く、元看護師だから実現できる希望ある「服作り」

インタビュー・テキスト
黒田隆憲
撮影:テラウチギョウ 編集:石澤萌(CINRA.NET編集部)
2019/02/12
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自分では当たり前だと思っていたことが、他人から見るとすごく特殊だということがあって、創作活動のヒントにもなる。

—新たな考えで、とのことですが、どのように気持ちを切り替えていったのですか?

津野:「ここのがっこう」では、自分のルーツを掘り下げるんです。両親はどんな幼少期を過ごし、どんなことに興味を持ったのか。両親が住んでいた地域の歴史や習慣は、どんなものだったのか。そんなところまで広げていくと、自分では当たり前だと思っていたことが、他人から見るとすごく特殊だということがあって、創作活動のヒントにもなる。

そうして見出したコンセプトの1つが、「人が目に見えない世界と交信する『媒介』としての装い」でした。看護学生時代の過剰なメイクや巨大なヘッドピースも、民族衣装や、古代の儀式で生贄や神、祖霊といった目に見えない世界と媒介するシャーマンなどに施されたメイクや装飾に行き着くんです。

—なるほど。

津野:なぜ、そういう過剰な装飾を儀式で用いたのかというと、例えば村が飢餓や災害で苦しみ怯えているときに、神様や見えない世界と交信するためには非日常のスタイルが必要だった。それは日本だけじゃなくて、ヨーロッパやアフリカなど、さまざまな場所で同時多発的に登場したものなんですよね。

津野青嵐

—人類共通の気持ちがあったわけですね。

津野:自分も、過剰なメイクやファッションを行なっていたのは「別世界へ行きたい」という気持ちの表れだったんじゃないかなと。現実世界である、看護師としての病院での勤務が日常のレールの上を走っている気がして、そこから「逃避」したいという気持ちもあったのかもしれません。

古代の儀式的な装飾が発展してきた歴史に比べると、私の装いはただ私的な感情が作らせた表現だったかもしれない。ですが、人々が過剰な装いに対して抱いていたであろう希望や、ある意味で心の癒しのような部分に深く共感しているんです。

津野の制作したヘッドピース作品『What do you feel this red in Japan?』 / Photo by Teppei Takazawa
津野の制作したヘッドピース作品『What do you feel this red in Japan?』 / Photo by Teppei Takazawa

—それを、服飾作りのテーマにしようと。

津野:ただし「現代」において、どんなマテリアルやツールを使うのが最も有効なのかを考える必要がありました。そんなときに、先生から「『ITS』において、日本人の強みは素材探求だ」と言われて、パッと思いついたのが、プラスチックを使用した造形が可能な3Dプリンターだったんです。

まずは実際に体験してみようと、東急ハンズへ見に行ったんですね。そこには2体のサンプルが置かれていて、1つは3Dプリンターで作った精密で美しい造形だったんですけど、その横には素材は同じでもすごく哀れな造形があって……(笑)。それが、3Dペンで作ったものだったんです。

3Dペンを使って手作業するということは、自分の想像次第でどんなものでも作れるわけですよね。

—3Dペンは、3Dプリンターと同じ素材を使って「手作業」でものが作れるわけですよね?

津野:そうなんです。手作業ということは、自分の想像次第でどんなものでも作れるわけですよね。そのサンプルはとても小さいものだったけど、やろうと思えばヘッドピースや服も作れるんじゃないかと。

最初は、今までと同じようにヘッドピースを作ろうと思っていたんですけど、学校の講師である坂部三樹郎さん(「MIKIO SAKABE」デザイナー)に「お前、ヘッドピースずっと行き詰まっていたから、服作れよ」と急に言われて(笑)。確かに行き詰まっていたし、新たな試みとしてテーマやコンセプトをそのまま服にシフトしてみようと思いました。それでトルソー(マネキン)を買って試行錯誤し始めたんです。

津野青嵐

—ヘッドピースから洋服に変わったのは、津野さんの中ではかなり大きかったでしょうね。

津野:そもそもファッションに関する技術もないし、教育も受けてない。周りのみんなはファッションの学校を出ていて縫製の技術を持っているし、『ITS』を受ける海外のデザイナーは当然、一流の教育を受けている。そんなレベルに、たった数か月で追いつけるわけがないし、教育も技術もゼロだからこそできることを探していたら、「3Dペンで服を作る」という方向性に行き着いたわけです。

津野が初めて制作した衣装。着用しているのは、津野の実父
津野が初めて制作した衣装。着用しているのは、津野の実父

—『ITS』では、2018年6月に行われたショーも大反響だったそうですね。

津野:5体のワンピースが歩いている姿は、自分でも全く想像できないものでした。私に向かって「Winner!」と叫んでくれる人もいたし、隣で見ていた韓国人の子たちは「これ……夢ですか……?」みたいに呆気にとられていて(笑)、本当に嬉しかったですね。先生たちも「グランプリあり得るかもね」って興奮してたんですけど、でも、実際に賞を総ナメにしたのは私とは正反対の、モノトーンでミニマルな、プロダクト寄りの服たちでした。

『ITS』のショーの様子 / Photo by international talent support
『ITS』のショーの様子 / Photo by international talent support
グランプリの『ITSアワード』を獲得したコレクション

—それは悔しかったですね。

津野:ものすごく悔しかった。準備を夜通し手伝ってくれた学校の後輩たちにも「グランプリ獲ったよ!」って言いたかったのに。「この数か月は一体何だったんだろう」という気持ちになり、帰国してしばらくは燃え尽き症候群みたいになっていましたね。最近はようやく立ち直ってきましたけど。

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プロフィール

津野青嵐(つの せいらん)

1990年長野県出身。看護大学を卒業後、精神科病院で約5年間勤務。大学時代より自身や他者への装飾を制作し発表。病院勤務と並行してファッションスクール「ここのがっこう」へ通い、ファッションデザインの観点から自身のクリエーションを深める。2018年欧州最大のファッションコンペ『ITS』にて日本人唯一のファイナリストに選出。

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