ドトール最高級ブランド「神乃珈琲」のこだわり 代表が語る40年愛

ドトール最高級ブランド「神乃珈琲」のこだわり 代表が語る40年愛

インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:鈴木渉 編集:石澤萌、川浦慧(CINRA.NET編集部)
2019/01/25
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流行りのスペシャルティコーヒーと、日常に馴染むブレンドコーヒーを飲み比べながら「Fika」

菅野:さあできました。まずはスペシャルティのほうをお試しください。コロンビアのシングルオリジン(1つの品種でいれたコーヒーのこと)です。

スウェーデンのお菓子「セムラ」とともにコーヒーを味わう時間は、まさに「Fika」そのもの
スウェーデンのお菓子「セムラ」とともにコーヒーを味わう時間は、まさに「Fika」そのもの

口に含むと、ふわーっと甘みが広がり、そして酸味が後からやってくる。鼻に抜ける、林檎や桃に似たフルーティーな香りもみずみずしい。

菅野:農園をきちんと指定し、作っている生産者が明らかなもの。これが現在流行しているサードウェーブ系のコーヒーです。品評会に出されるような高級な1杯で、単に味を楽しむだけでなく、ワインのように産地や生産年、栽培された地理的な背景もふまえて楽しむものですね。いわばコーヒーごとの「個性」を楽しむのが、スペシャルティ。それでは、ブレンドのほうを試してみてください。これはまったく違う方向性ですよ。

そう促されて飲んでみると、たしかにスペシャルティよりも柔らかな味で、焙煎が深い。ふだん自分がイメージしているコーヒーがさらに美味しくなってやってきた。そんな印象だ。

菅野:これが神乃珈琲や、出店させていただいている「ボルボ スタジオ 青山」で提供している味です。実際には店ごとに微妙にブレンドを変えていて、今日は後者の配合である「インスクリプション」をお出ししています。

左がスペシャルティコーヒー、右がブレンドの「インスクリプション」
左がスペシャルティコーヒー、右がブレンドの「インスクリプション」

菅野:複数の品種を混ぜたブレンドコーヒーは、お肉に例えると加熱されてアミノ酸の旨味がよく出た赤身肉です。一方、スペシャルティやサード系はお肉で言えばレア。「食材そのものの味を楽しみましょう」という発想なので、表現方法が違います。私が提唱したいのは、シーンによってコーヒーの表現が変わるので、その変化を楽しみましょう、ということなんです。

さらに菅野さんは、スウェーデン発祥のお菓子「セムラ」を添えてくれた。甘いパン生地と生クリームの素朴な組み合わせが、ブレンドコーヒーの苦味にちょうどいい。

セムラ
セムラ

菅野:ブレンドは日本の喫茶店で出されるコーヒーのスタンダードだから、和菓子や洋菓子と一緒に飲んでもおいしい。主張のあるスペシャルティの、背筋をぐっと伸ばして飲むような非日常の経験も楽しいですが、リラックスして大福や煎餅を間にはさみながら飲むブレンドは、日本人にとって馴染み深いものなんですよ。

菅野眞博

つまるところ、コーヒー屋は美味しいコーヒーを作るべきだと思ったんですよ。

店内中央にある巨大な焙煎機をエンジニアとともに自作したぐらい、菅野さんのコーヒー愛は大きくて深い。こんなにもコーヒーに焦がれるようになった原点はどこにあるのだろうか?

菅野:個人的な出会いは、7歳の頃ですね。ハワイに移住した叔父から、アメリカ産のコーヒーが届いたんです。1966年は日本に「外食」という概念もなかった頃ですから、外国のコーヒーなんてまったく未知の味でした。その感動が今に続いているんです。中学生くらいになるとお年玉を貯めて、自分でコーヒー豆を買って家で淹れたりしてましたね。

—ずいぶん早熟な(笑)。

菅野:マニアックなことが好きなんですよ。そして第2の出会いが、20才のときにドトールコーヒー創業者の弟との出会い。当時は設計士を目指していたのですが「ウチに来いよ」と言われて、1979年に就職したんです。当時はドトールも40人くらいしかいない小さな会社で、工場の焙煎機も30kgクラスの釜が2つしかありませんでした。

菅野眞博

—会社自体がどこに向かうか模索してる時期ですね。

菅野:創業者の鳥羽博道が会社を始めた1962年は、ちょうど高度経済成長期のさなかで、まだまだ敗戦の痕がそこかしこにある時代です。住居も「うさぎ小屋」と揶揄される狭い長屋だったりする。そういう時代のなかで、家とは違う1人の時間を楽しむものとして喫茶業が求められていた。純喫茶や歌声喫茶もそういったニーズを満たしてくれる場所ですね。

—そのなかで菅野さんが目指したものはなんでしょうか?

菅野:つまるところ、コーヒー屋は美味しいコーヒーを作るべきだと思ったんですよ。営業職として15年間、店舗拡大やマニュアル作りなどに従事してきましたが、1994年に工場での商品開発に配置換えしてもらいました。

しかし、意気込んだものの自分にはなんの技術もない。コーヒーの質を決める原産地にこだわろうとすると、自分自身で開拓するしかないですから、そこから先はひたすらコーヒー探しの世界の旅です。例えばグアテマラSHB(ストリクトリーハードビーン)は標高1350m以上の高地で獲れたグアテマラ豆を指しますが、実際に現地に行ってみると、高度や農園ごとに全然味が違う。そういったことを一つひとつ研究して、自分の血肉にしていって……その成果の最新型が神乃珈琲なんです。

店内にはコーヒー豆をかたどったオブジェが置かれていた
店内にはコーヒー豆をかたどったオブジェが置かれていた
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店舗情報

「ファクトリー&ラボ 神乃珈琲」

日本人による日本人のためのコーヒーを追求するファクトリー&ラボ。コーヒーの提供だけでなく、豆の買い付け、輸入、研究・開発、焙煎も行う。また、定期的に珈琲セミナーを開催。

プロフィール

菅野眞博(かんの まさひろ)

株式会社ドトールコーヒー常務取締役、株式会社プレミアムコーヒー&ティー代表取締役社長。日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)の理事、C.O.E.国際審査員、株式会社ドトール・日レスホールディングスの取締役など、様々な肩書きを持つコーヒーのスペシャリストとして知られ、テレビ出演してコーヒーのおいしい淹れ方などを披露している。

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