週刊連載、政治性のバランス、北欧から見た日本漫画文化の不思議

週刊連載、政治性のバランス、北欧から見た日本漫画文化の不思議

テキスト
黒田隆憲
撮影:垂水佳菜 編集:久野剛士(CINRA.NET編集部)

スピードと言語。外国人漫画家が日本に定着できない背景

たまきは司会者から、「日本とスウェーデンの仕事の違い」について尋ねられた。彼女は2001年に漫画家デビューを果たし、『ウォーキン・バタフライ』(宙出版)や『フール・オン・ザ・ロック』(少年画報社)、『ジャンヌ・ダルク(小学館版学習まんが人物館)』(小学館)など多くの作品を海外で出版している。現在は、仮想通貨を扱った体験漫画『ビットコイン投資やってみました』(ダイヤモンド社)や、「漫画村」(漫画違法サイト)に対する裁判の模様を描いた漫画が話題だ。

たまき:私は21歳でデビューし、すぐに週刊連載が始まりました。なんの準備もスキルもなくいきなりだったので大変でしたね。アシスタントを5人雇い、アシスタントに教えてもらいながらのスタート。週刊連載を持つと、7日のうちの2日をネーム(ストーリー作り)、3日で作画、残りの2日で来週のストーリーの準備、というルーティンを繰り返すことになります。休みなどまったくなく、夢の中でも漫画を考えている状態です。そうなってくるともう、人間らしくなくなってくるんですよ(笑)。

ある程度はクオリティー面で妥協しないと、とても間に合わない仕事です。そういう意味では、時間をかけ納得いくまで描きこんでいるヨーロッパの漫画のほうが、日本の大量生産的な漫画に比べて「アート」に近いかもしれないですね。

たまきちひろ
たまきちひろ

オーサ以外のスウェーデン、あるいはヨーロッパの漫画家が日本で活躍できないのは、「そうした日本の仕事のやり方が彼らの肌に合わないからだ」とオーサは指摘する。たとえばキムの最新作は、たったひとりで1年半かけて128ページを描き上げている。そんな創作ペースの作家たちにとって、日本の「週刊連載」という仕組みは想像を絶するものがあるだろう。

オーサ:それに、日本人の編集者が漫画のストーリーやキャラ設定について、色々と口を出してくることに対してスウェーデンの漫画家たちは、少なからずストレスを感じるかもしれません。第一、そうしたやり取りを日本語でできる語学力がなにより必要です。そう、言語の壁が最初の難関でしょうね。

 

日本でも海外でも。これからの漫画における課題

またトーク後半、「日本と海外での漫画の読まれ方の違い」について尋ねられたたまきは、非常に興味深いエピソードを紹介した。

たまき:ヨーロッパ、とりわけフランスのジャーナリストからは、私の漫画は「フェミニズムの漫画」だと指摘されます。実をいうと、そこは意識して描いていたのですが、日本で大っぴらにすると売れなくなると言われているため、ファンタジーバトルのエンターテイメントを前面に出しつつ、自分の思想をほんの少し入れるようにしているんです。なので、日本で指摘されたことはほとんどないのですが、フランス人に伝わっていることが嬉しかったですね(笑)。

左から:キム・アンダーソン、オーサ・イェークストロム、たまきちひろ

それに対しキムは、「自分の作品にもフェミニズムの精神は入っており、それをオープンにしている」と述べた。スウェーデンの漫画は「子ども向け」と「大人向け」にはっきりと分かれており、大人向けの作品は大半が政治や社会をテーマにしているという。

しかも半分以上が女性作家なので、フェミニズムをテーマにしたものも多い。日本では、漫画だけでなく音楽や映画でも政治的、社会的メッセージの強いものは敬遠される傾向にある。この辺りは、エンターテイメントに対する考え方の大きな違いと言えるのかもしれない。

左から:キム・アンダーソン、オーサ・イェークストロム、たまきちひろ

インターネットが発達し、漫画のみならずさまざまな作品が国境を越え自由に行き来できるようになれば、自国の文化が他国によって「再発見」されることもあるだろう。たまきの作品がフランス人に「再定義」されたのも、そのひとつのケースと言えるかもしれない。

たまき:ただ、問題は「違法のウェブサイト」が存在し、作者の権利が脅かされていることです。私はいま、「漫画村」というサイトにサーバーを提供する会社を相手に訴訟を起こしているのですが、その会社が海外にあるため非常に手こずりました。国際間のルールの違いもあり、著作権を守るシステムがまだまだ確立されていないんですよね。

キム:フランスのグレナ(Glénat)という、30年くらい漫画を取り扱っている出版社によれば、フランスでも「違法サイト」は大変大きな問題になっているそうです。スウェーデンではまだ問題になっていませんが、そうなる前に手立てが必要です。

国際的に活躍する、スウェーデン人と日本人の3人の漫画家によるトークセッション。漫画に対するスタンスや働き方、作品におけるエンターテインメント性と政治性のバランスなど、センシティブなトピックについても率直に意見を交換し合う、非常に有意義な内容だった。

 
 
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イベント情報

スウェーデンの漫画を世界へ オーサ・イェークストロム X キム・アンダーソン

2018年11月19日(月)
会場:東京都 六本木 スウェーデン大使館 展示ホール

プロフィール

たまきちひろ

2001年、ビックコミックスピリッツでデビュー。「Walkin' Butterfly」全4巻(宙出版)「スカートの中はいつも戦争」(朝日新聞出版)「婚活の達人」(講談社)「ビットコイン投資やってみました」(ダイヤモンド社)など、様々なジャンルでの著書多数。2008年「Walkin' Butterfly」がドラマ化。同作品は6カ国後に翻訳され、2010年にはアメリカ図書館協会アワードでノミネートされた。「FOOL ON THE ROCK」(少年画報社)はフランスで青少年優推薦図書に選出。2008年にはパリで開催されるJAPAN EXPOでサイン会、2013年にはフランスのニースでのマンガアニメイベント「cartoonist」で、サイン会やトークショーを行う。2013年、著者自身の体験を綴ったエッセイ作品「婚活の達人」がオール男性キャストで舞台化される。2018年、スウェーデンで開催されるマンガイベント「Stockholm International Comics Festival」にゲスト出演。現在は仮想通貨漫画家として、雑誌やテレビに出演多数。

オーサ・イェークストロム

1983年生まれ、スウェーデン出身。子どもの頃、アニメ『セーラームーン』と漫画『犬夜叉』に影響を受けて漫画家になることを決意。スウェーデンでイラストレーター・漫画家として活動後、2011年に東京へ移り住む。一番好きなアニメは『少女革命ウテナ』、一番好きな漫画は『ナナ』。これまでに『北欧女子オーサが見つけた日本の不思議』1~4、『北欧女子オーサのニッポン再発見ローカル旅』、『さよならセプテンバー』を発表。

キム・アンダーソン

1979年生まれ。スウェーデン出身。15年間オリジナルコミックとして漫画家活動。ホラーやSFで物語を作り出し、米国、韓国、仏国など10カ国で漫画を出版。「ロマンチックなホラー」は、キムの最初の漫画シリーズ『Love Hurts』で7年間描いたのショートストーリーの特徴。ホラーテーマを続けて、最初の単行本「Alena」は、2015年に映画化された。米国でも有数な出版社の一つでもある、ダークホース社で『Astrid、Cult of the Volcantic Moon』という最新の単行本を出版。「アストリッド」というヒロインの壮大なSFの冒険を語る。

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