大槻ケンヂが読むミステリー 小説もロックも古い名盤に手が伸びる

大槻ケンヂが読むミステリー 小説もロックも古い名盤に手が伸びる

インタビュー・テキスト
麦倉正樹
撮影:豊島望 編集:川浦慧

ミステリーではあるんだけど、お父さん層に訴えかけるものが、結構あったんじゃないかな。

―扱っている事件は残酷だったりしますが、ものすごくユーモアがありますよね。

大槻:分かります。だから、スルスルと読めてしまえるんですよね。この『笑う警官』っていうタイトルにも、ちょっとユーモラスな仕掛けがあったりとかして。人物描写の巧みさとユーモアのバランスが、すごくいいんですよね。

あと、この小説には、銃と車がいっぱい出てくるんですけど、そのあたりにも興味があるので、「このワルサーは、どういうワルサーなんだろう?」とか、「このころは、VOLVOのアマゾンっていう車種が流行ってたんだよな」って思ったら、やっぱりVOLVOのアマゾンが出てきたり。そういうのをスマホで検索しながら読んだんですけど、そこは、当時の男性読者にもウケたところなんじゃないかと思いました。

VOLVOのアマゾン(写真はP1200 / P120AMAZON)
VOLVOのアマゾン(写真はP1200 / P120AMAZON)

―車の車種や事件に使用された銃が、実は大きなヒントになっていたり。

大槻:そうそう。あと、主人公であるマルティン・ベックが、大して活躍しないところがいいですよね。いつも体調悪そうだし、奥さんともあんまりうまくいってないみたいだし、趣味は帆船の模型作りって、ものすごく渋いじゃないですか。そういう中年男の切なさというか、オヤジの寂しさみたいなものも、すごくよく描かれていて。そこらへんに共感する読者も多かったんじゃないかな。

だから、いま読んでよかったなって思いました。そのあたりのニュアンスは、多分小学生男子にはわからなかったと思うし……中年期以降に読むと、よりいっそう楽しい小説かもしれないですよね。

大槻ケンヂ

―主人公のマルティン・ベックのみならず、同僚の刑事たちも、どこか中年男性の悲哀みたいなものが漂っていて……。

大槻:そうなんですよね。これが50年前の小説だから、その後に出てきたいろんな刑事ドラマに、きっと大きな影響を与えたんでしょうね。特に日本の刑事ドラマとか、その後に出てきた「火曜サスペンス」とかにも、相当影響を与えたんじゃないかな。

探偵小説って1人で事件を解決することが多いけど、この小説は、刑事たちがみんなで協力して、事件を解決していく。こういうタイプのミステリーは、きっと少なかったと思います。あと、このころは、警察といったら、体制側とか、民衆の敵みたいな意識もあったと思うんですよね。『笑う警官』に出てくる刑事たちも、警察という仕事自体、まわりの人たちからあまりよく思われてないという気持ちを背負いながらやっているみたいなところも描かれていたし。

―いわゆる熱血刑事みたいな感じではないんですよね。もっと、淡々と事件を捜査していくみたいな。

大槻:正義感はその内に秘めているんでしょうけど、もっと職人気質というか、与えられた仕事をきっちりやるみたいな感じですよね。そういうところは、日本人にも馴染みがあるんじゃないですかね。ミステリーではあるんだけど、お父さん層に訴えかけるものが、結構あったんじゃないかな。家では奥さんに小言を言われたり、子どもに相手にされなかったりするけど、仕事はきっちりやっているっていう。そのあたりに共感を持って読まれたのかもしれないですよね。

大槻ケンヂ

―そういう実直さって、日本人の気質にも合っているのかもしれないですよね。

大槻:そうですね。ただ、この『笑う警官』は、秋から冬にかけての話で、その間にクリスマスを挟むんですけど、みんな休暇はガッツリ取るんですよね。事件は解決してないのに(笑)。そこはやっぱり、日本とは違うなあと思いました。

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リリース情報

大槻ケンヂミステリ文庫
「アウトサイダー・アート」

2018年12月5日(水)発売
価格:3,240円(税込)
TKCA-74739

1.探偵はBARにいてGHOSTはブレインにいる
2.退行催眠の夢
3.オーケンファイト
4.ぽえむ
5.去り時
6.美老人
7.スポンティニアス・コンバッション
8.タカトビ
9.奇妙に過ぎるケース
10.企画物AVの女

イベント情報

『大槻ケンヂミステリ文庫 2019年ツアー』

2018年1月13日(日)
会場:大阪府 Music Club JANUS

2018年1月14日(祝・月)
会場:岡山県 Desperado

2018年1月25日(金)
会場:愛知県 名古屋 Electric Lady Land

2018年2月6日(水)
会場:東京都 渋谷 duo MUSIC EXCHANGE
ゲストに、NARASAKI(COALTAR OF THE DEEPERS / 特撮)が出演決定

プロフィール

大槻ケンヂ(おおつき けんぢ)

ミュージシャン・作家。1966年2月6日生まれ。82年、中学校の同級生だった内田雄一郎と共にロックバンド・筋肉少女帯を結成。88年にアルバム『仏陀L』でメジャーデビューし、人気を集める。筋肉少女帯としての活動の他、ソロやバンド・特撮のメンバーとしても活動。また作家としても多数の作品を執筆しており、活躍の場は多岐に渡る。

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