山村紅葉が読む北欧ミステリー 美しい土地で事件が起きやすい理由

山村紅葉が読む北欧ミステリー 美しい土地で事件が起きやすい理由

インタビュー・テキスト
麦倉正樹
撮影:伊藤惇 編集:川浦慧

ガイドブック代わりに母の小説を持って、京都の街を歩くっていう楽しみ方もある。北欧ミステリーにも、きっとそれがあると思うんです。

—それにしても、なぜ人々は、ミステリーに惹かれるのでしょうね。

山村:それはやっぱり、殺人を起こすというのは、よほどの理由があるわけで、普通の人の人生で起こり得ないことだからじゃないですかね。だけど、もしかしたら明日、自分に起こらないとも限らないわけですよね。当事者ではなくとも、そういう事件に巻き込まれる可能性はあるわけで。

だから、もし自分がそういう状況になったらどうするかっていう想像力を喚起させられるんじゃないでしょうか。あと、私の母は、数学の幾何が得意で、幾何の証明が大好きだったんですよね。

—ほう。

山村:それと同じ面白さがミステリーにもあると思うんです。普通の計算問題だったら、正解できて当たり前で、間違えたら悔しいだけだけど、幾何の証明って、自分が思いついた論理を組み立てていって、物事を証明するわけじゃないですか。その快楽があると思うんです。それが難しい問題であればあるほど、解けたときの喜びが大きい。

それはミステリーも同じで、誰が犯人で、どういうトリックを使ったとか、自分で推理していって当たったときの喜びはすごく大きいんです。他のジャンルでは、なかなか得られない快感ですよね。テレビで2時間サスペンスを見ながら、家族で「あの人が犯人じゃないか?」なんて推理して言い合ったり。そういう楽しみ方もあると思うんです。

—なるほど。では、『ミレニアム』シリーズを筆頭に、いま「北欧ミステリー」が注目を集めている理由については、どんなふうに思われますか?

山村:いちばんは、知らなかったっていうのが大きいでしょうね。北欧について詳しいわけじゃないし、実際行ったこともないなかで、ただ想像だけが膨らんでいく。何となく想像できる場所だから読んでいても楽しいんですよね。まったく知らない国の話だと、なかなか頭のなかで絵が浮かばないので。北欧が舞台となると、例えば雪が降っていても、陰気に降っているイメージではなく、トナカイがソリで走ってきそうなイメージがあったりとか(笑)。

—(笑)。そういう意味では、ちょっと観光小説的なところもありますよね。

山村:そうですね。母の小説は京都が舞台になることが多いですけど、若い女性たちのあいだで、母の小説に出てくるお寺やレストランを実際に訪問するのが、ちょっと流行ったことがあって。

だから母は、全部実在の場所やお店にしたんですよね。で、美味しくないお店は載せないっていう。だから、ガイドブック代わりに母の小説を持って、京都の街を歩くっていう楽しみ方もあるんですよね。北欧ミステリーにも、きっとそういう楽しみ方があると思うんです。

—『ドラゴン・タトゥーの女』も、冒頭に舞台となる場所の地図がついていますし、実際行ってみたくなりますよね。

山村:なりますよね。その小説を読みながら、さらに想像が膨らんで、いつか自分も行ってみたいと思ったり。食べ物が出てきたら、それはどんな味なんだろう、本当に美味しいのかなと想像してみたり。北欧という美しい土地だからこそできる、ミステリー小説の楽しみ方だと思います。

山村紅葉
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プロフィール

山村紅葉(やまむら もみじ)

早稲田大学在学中にANB「燃えた花嫁~殺しのドレスは京都行き~」で女優デビュー。以来在学中に20数本出演するが、国税庁国税専門試験に合格し、卒業後は国税局に勤務。結婚退職を機に、ふたたび女優の道へ。400近い原作を残した、亡き母・山村美紗さんの作品を中心に、「赤い霊柩車」「名探偵キャサリン」「京都祇園芸妓」「狩矢警部」などの代表シリーズ出演。また、バラエティーや舞台にも活動の幅を広げ、2006年9月 山村美紗没十年追悼「京都 都大路謎の花くらべ」(南座)や新春喜劇公演「俺はお殿さま」(新宿コマ劇場)。2010年10月 山村美紗サスペンス「京都花灯路恋の耀き」(南座、東京、他地方公演)に出演。日本喜劇人協会理事でもある。

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