「王様の散歩道」を450km歩いて知った、北欧にある自由の権利

「王様の散歩道」を450km歩いて知った、北欧にある自由の権利

テキスト
阿部美香
編集:青柳麗野
2018/09/28
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スウェーデンの雄大な自然を独り占めしたら、誰もが「王様」になれる

白井さんがクングスレーデン全ルートを走破したのは、8月初旬から月末にかけての27日間。1日数時間かけて15km以上を歩き続ける毎日のなかで、白井さんが「クングスレーデンでしか味わえない」と思った印象的なエピソードはいくつもあったそうだ。

白井:着いてまず驚いたのは、土地の広大さと自然の雄大さです。450kmに渡るクングスレーデンの全景をまず知ろうと現地で購入した地図だけでも合計4枚に及びましたし、歩き出してからも、人の少なさに驚きました。もちろん、地元の家族連れや世界各地から来ているハイカーはいるんですが、なにせ土地が広すぎるんです(笑)。

ハイカー仲間は、出会うとスウェーデン語で「Hej(ヘイ)!」と声を掛け合いますが、何日間も無言で歩き続けることもしばしばで。でも、それがとても気持ちがいい。気に入った場所ならどこでもテントを張れるので、雄大な景色をすべて独り占めできます。

トレイルコースの目印以外、すべて自然のまま
トレイルコースの目印以外、すべて自然のまま
現地で調達した地図
現地で調達した地図
ロングトレイルの場合、食材は道中で買い足していく
ロングトレイルの場合、食材は道中で買い足していく

誰もが「王様」になれるここでは、珍しい野生動物と出会えるのも、手つかずの自然だからこその恩恵。日本では動物園でしかお目にかかれないトナカイも、白井さんが独占している景色のなかにひょっこりと顔を出してくる。

白井:トナカイに出会えたのも嬉しかったですね。ぼくも現地で気づいたんですが、すれ違うハイカーのなかに、トナカイの角をバックパックに下げて歩く人が、何人もいるんですよ。

ちょっと羨ましくなってしまって、ぼくもトナカイの角がないかと行く先々で3~4日探し回り、トレイルコースを外れた湖のほとりに落ちているのを見つけて、大喜びで真似しました(笑)。すごく重いんですけど、それがクングスレーデンに来た誇り、自分へのご褒美のように思えましたね。

トナカイと目が合うこともしばしば
トナカイと目が合うこともしばしば
トナカイの角はクングスレーデンを歩いている証
トナカイの角はクングスレーデンを歩いている証

白夜のなかのトレッキングは、「夜が来れば人は休み、眠りにつく」という常識さえもなくす

クングスレーデンは、水が豊かなのも特徴だ。安全な天然水をどこでも採取できるため、重たい水を持ち歩いたり、汲んだ水を沸騰させたりしなくていいのも、スウェーデンの自然から受ける人への恵み、優しさだ。

白井:そのぶん小川がたくさん流れているので、そこを渡るための手こぎボートが用意されているのも珍しい光景でした。歩く人の自主管理に任され、みんなが譲り合って使うのは、ぼくも初めての経験。アメリカなどの半ば観光地化したトレッキングルートでは、すべてがあり得ないことです。途中の山小屋に有料のサウナがあるのも、サウナ大国スウェーデンならではだなと感心しました。

大きな川では乗り合いの船で移動することも
大きな川では乗り合いの船で移動することも

夏のクングスレーデンは、北極圏ならではの「白夜」を堪能できるのも大きな魅力だ。白井さんが訪れた8月の前半は、夜中の3時でもまだ空は明るかったそうだ。だがスルーハイク後半にいくに従い、徐々に日暮れは早くなり、広い空は夕暮れ時の美しいグラデーションに、どこまでも染め上げられていく。その感動的な光景すらも、クングスレーデンでは誰もが独り占めできる。

白井:白夜のなかにいる感覚は、じつに独特で新鮮。さまざまなことも考えさせられました。東京での暮らし、アメリカのトレッキングにおいても、夜が来れば人は休み、眠りに就きます。でもクングスレーデンでは、ルーティーンのように当たり前に訪れるはずの夜が、当たり前には来ない。ハイカーとしては、明るいのでいくらでも歩けてしまいますし、陽があるのに眠りに就く「自由」もそこにはある。

マイペースでいられる喜び、どこでもリラックスできる喜びを、クングスレーデンではとても感じることができます。あの不思議な感覚は、みなさんにもぜひ体験してもらいたいですね。

白夜のなかのトレイルは、北極圏ならでは
白夜のなかのトレイルは、北極圏ならでは

ついゴールを目指して頑張りすぎてしまうけど、大切なのは一歩一歩を楽しむ余裕

クングスレーデンを歩くことで、スウェーデン人の気質にも触れることができたと、白井さんは言います。白井さんが見かけた現地のハイカーたちは、みんな、フェールラーベンを筆頭にスウェーデンのアウトドアブランドが誇る質実剛健なギアを身につけていたそう。自然と母国愛に満ちあふれていることを実感したそうだ。

白井:そもそも、どの現地の一行も荷物がすごく多いんですよ。アメリカなら、軽装で荷物はなるべく軽くコンパクトにして、できるだけ速くルートを走破することだけを目指す人が多い。日本人も気質的に、つい頑張りすぎて速くゴールに着くことを目標にしがちです。

でも、クングスレーデンのハイカーにとって大切なのは、マイペースに自然を楽しむこと。ぼくもよく、「歩いている最中、いったい何を考えているの?」と聞かれますが、「目の前のことしか見ていない」と答えます。自然のなかで人間ができることはそれだけです。クングスレーデンも450kmを歩き終えた達成感を求めるのではない、一歩一歩を楽しむ余裕が必要だと思いました。

森林や雪山など、いろいろな景色を楽しむことができる
森林や雪山など、いろいろな景色を楽しむことができる
ゆっくり休息する時間も必要
ゆっくり休息する時間も必要
自主管理に任されているスウェーデンでは、たき火も自由
自主管理に任されているスウェーデンでは、たき火も自由

効率の良さを求めて、あくせくと目標だけを目指して生きている現代人に、いま必要なものがスウェーデンの自然とクングスレーデンのトレッキングにあるという白井さん。機会があれば、またスウェーデンでのトレッキングに挑戦したいと話し、総長800kmに及ぶ北極圏トレックコース「ノルドカロットレーデン」をいつか歩きたいという。

そして、これからスウェーデンの雄大なトレッキングを味わってみたいという方は、「フェールラーベン・クラシック・スウェーデン」へのチャレンジから始めてみると楽しいことでしょう。

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プロフィール

白井康平(しらい こうへい)

1983年生まれ、東京都出身。世界45か国以上を旅している。観光だけでは飽き足らず世界のトレイルコースをまわり始め、現在では、アメリカンのジョンミューアートレイル、スウェーデンのクングスレーデン、パタゴニア、ヒラヤマのスルーハイクを経験。今年は夏休みを利用して、ジョーシア(旧グルジア)のTobavarchkhili Lakeのトレイルを歩いたばかり。

フェールラーベン

1960年生まれのアウトドアブランドで、スウェーデン王室御用達としても知られている。北極のグリーンランド、熱帯雨林のブラジルなどでフィールドテストを繰り返した商品は、機能性に優れている。また、「買い替える必要がない」と言われるくらい丈夫で長持ちする耐久性も持ち合わせている。設立者のオッケ・ノルディンの、「数日間にわたるトレッキングを通して心から自由を感じてほしい」という思いを継承し、2005年からトレッキングイベント「フェールラーベン・クラシック」を開催している。いまでは世界中からハイカーが集まり、参加者は2,000人を越える人気イベントになっている。

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