カジヒデキが90年代を再考 渋谷系とスウェディッシュポップを語る

カジヒデキが90年代を再考 渋谷系とスウェディッシュポップを語る

インタビュー・テキスト
黒田隆憲
撮影:タイコウクニヨシ 編集:山元翔一

スウェディッシュポップは、僕にとって「希望の光」だった。

—カジさんはThe Cardigansのどこに魅力を感じたのですか?

カジ:彼らの初期の代表曲というと、『Emmerdale』に入っている“Sick and Tired”だと思うんですけど、あの曲ってFrance Gallの“夢見るシャンソン人形”(1965年発表、原題は“Poupée de cire, poupée de son”)をベースにしていると言われていて。

僕もFrance Gallは大好きで、BRIDGEでカバーしたからこそ、あのすごくオシャレなアレンジには「一枚上手だな」と思わされました。しかもトーレは機材もこだわっていて、ビンテージ機材を使ったあたたかいサウンドがとてもよかったんです。

カジヒデキ

The Cardigans『Emmerdale』を聴く(Apple Musicはこちら

—たとえばレニー・クラヴィッツがヴァネッサ・パラディをプロデュースして、ビンテージっぽいサウンドのアルバムを作るなど、1990年代前半には世界中で同時進行的にそういう動きがありましたよね。レニー・クラヴィッツが愛用していたウォーターフロントスタジオ(充実したビンテージ機材が有名で、Mr.Childrenのアルバム『深海』なども録音された)でレコーディングされた作品が注目を集めたり。

カジ:そうですね。日本でスウェディッシュポップがウケた背景として、「古今東西、いい曲であればOK」みたいな認識があったのは大きいと思います。「渋谷系」という言葉が生まれる前から、ピチカート・ファイヴの小西(康陽)さんやフリッパーズ・ギターの2人(小山田圭吾と小沢健二)、ORIGINAL LOVEの田島(貴男)さんとか、みんなレコードを掘りまくっていて。

そういう音楽の聴き方が1980年代後半にはあって、リスナーの興味がアメリカやイギリス以外の国にも向くようになっていった。ちなみにスウェディッシュポップ界隈の人たちはみんな、フリッパーズ・ギターやピチカート、カヒミ(・カリィ)さんが大好きだったんです。BRIDGEのことも、すごく気に入ってくれていたりして。

—のちに世界中で大ブレイクするThe Cardigansとその周辺の音楽が、東京の渋谷界隈の音楽と強く共振し合っていたというのは不思議な感じがしますね。カジさん自身も、Eggstoneを聴いて「やりたい音楽はこれだ!」と思い、彼らの拠点である「タンバリンスタジオ」でレコーディングして、ご自身の「居場所」のようなものを見つけた気持ちはありましたか?

カジ:それはものすごくありましたね。1995年にBRIDGEが解散して、当時の自分はこの先何をやったらいいのかがわからなかったんです。ギターポップは全然元気がなくなって、みんなフリーソウルへ向かっていってて。

カジヒデキ

カジ:もちろん、当時所属していた「Trattoria Records」(小山田圭吾が主宰したレコードレーベル)は居場所の1つではあったし、バンドもスタッフも大好きで仲はよかったんです。でも音楽的には、たとえばCorneliusが『69/96』(1995年)というアルバムを出したりと、小山田くんを筆頭にみんなギターポップからどんどん変化していって。

—BRIDGEの解散、Cornelius『69/96』とThe Cardigans『Life』のリリースは、どれも1995年のことなんですね。

カジ:そうなんですよね。ギターポップから違う音楽性に移っていく流れに僕がついていっても、単なる真似になるし自分が本当にやりたいことでもない、って悩んでいたときに現れたのがスウェディッシュポップ。僕にとっては「希望の光」というか、「僕はこういう音楽が好きだったんだ」と、心から思えたのは大きかったですね。

カジヒデキがはじめてスウェーデンでレコーディングした1stアルバム『MINI SKIRT』(1997年)収録曲 / 『MINI SKIRT』を聴く(Apple Musicを開く

カジヒデキ『THE BLUE BOY』(2016年)を聴く(Apple Musicはこちら

「こういう街に住んでいる人たちだからこそ、ああいう音楽になるんだな」って思わず納得しました。

—スウェーデンにはレコーディングなどで何度も訪れていると思いますが、どんな印象をお持ちですか?

カジ:スウェーデンはとにかくオシャレだなって思います。自分の好みと近いのもあると思うんですが、色使いがとてもキレイなんですよね。たとえばIKEAって、日本だと比較的日本人向けにしているところはあるんですけど、特に1990年代のIKEAは本当にカラフルなんですよ。基本原色ですし、発色もいい。お皿も家具も、「赤! 黄色! 青!」みたいな(笑)。

特にマルメ(スウェーデン第3の都市)という街が、すごくオシャレだったんですよ。「タンバリンスタジオ」も、スタジオの壁を(ピエト・)モンドリアンっぽくDIYでデコレートしたりして。レトロっぽいというか、60sっぽいかわいさに溢れていた。「こういう街に住んでいる人たちだからこそ、ああいう音楽になるんだな」って思わず納得してしまいました(笑)。

「タンバリンスタジオ」の内装
「タンバリンスタジオ」の内装

マルメの「タンバリンスタジオ」でレコーディングされたThe Cardigans『First Band on the Moon』(1996年)収録曲

—スウェーデンは「フィーカ」というコーヒーブレイクを大切にする文化があるそうですね(参考記事:北欧のおやつ&休息習慣「フィーカ」を体験するパンケーキレシピ)。カジさんは、実際に現地で「フィーカ」を経験しましたか?

カジ:もちろん。1996年にスウェーデンでの初レコーディングがあって、そのときに、「やたらとみんな休憩するなぁ」って思ったんですけど、それが「フィーカ」との出会いでした。

朝9時からレコーディングがはじまるんですけど、初めて1~2時間で「ちょっと休憩」って。スタジオにキッチンがあって、コーヒーが常時いれられた状態で置いてあるんです。あと、スイーツとかも買ってきてあって、それをみんなで食べます。で、レコーディングが再開したと思ったら、また1~2時間で休憩になる(笑)。もう、何度も何度もコーヒーを飲むんですよね。「レコーディング終わらないんじゃないか?」って心配になったくらいです(笑)。

「フィーカ」を体験するカジヒデキ
「フィーカ」を体験するカジヒデキ

カジヒデキ『MINI SKIRT』収録曲

カジ:とにかくみんなで休憩を取って、そこでは仕事の話は抜きで雑談して、10分くらいしたらまた集中するっていう。それがスウェーデンの人たちの集中力を養っているんですよね。スウェーデンの人たちにとって「フィーカ」は、ただのコーヒーブレイクではなく、自分たちの3大発明のうちの1つっていうくらい大事な文化みたいです。

Page 2
前へ 次へ

リリース情報

『秋のオリーブ』
カジヒデキ
『秋のオリーブ』(CD)

2018年9月5日(水)発売
価格:1,620円(税込)
DDCB-12104

1. 夏の終わりのセシルカット
2. 秋のオリーブ
3. きみはちから
4. 大好きな街 -My Fav City -
5. ピーキャン音頭

イベント情報

『LIVE「秋のオリーブ」』

2018年11月20日(火)
会場:東京都 渋谷WWW
出演:
カジヒデキ
おとぎ話
堀江博久
※レコーディングに参加したおとぎ話、堀江博久のサポートで行うスペシャルライブです

プロフィール

カジヒデキ
カジヒデキ

千葉県富津市出身。1989年、BRIDGE結成。1992年にメジャーデビューし、1995年7月に解散。1996年にソロデビュー。「ラ・ブーム ~だって MY BOOM IS ME~」など数々のヒット曲を放ち、90年代の渋谷系を牽引した。2008年には映画『デトロイト・メタル・シティ』の音楽を担当。主題歌「甘い恋人」がスマッシュヒット。またDJイベント「BLUE BOYS CLUB」主宰やTBSラジオ『オーディナリーミュージック』、bayfm『SPACE SHOWER MUSIC RADIO』、渋谷のラジオ『渋谷のラジオの渋谷系』パーソナリティ、音楽フェス『PEANUTS CAMP』キュレーションなど、 音楽の紹介者としても幅広く活躍中。

Category カテゴリー

Latest Articles 最新の記事

What's "Fika" ? フィーカとは

「Fika」はCINRA.NETとVOLVOが送る、北欧カルチャーマガジンです。北欧デザインの思想の基盤を「クラフトマンシップ×最先端技術」と捉え、そこに学びながら、これからのカルチャーやライフスタイルにまつわるコンテンツをお届けします。