野中モモ×枇谷玲子 性別問わず生き易い社会のためのフェミニズム

野中モモ×枇谷玲子 性別問わず生き易い社会のためのフェミニズム

インタビュー・テキスト
黒田隆憲
撮影:池野詩織 編集:山元翔一

「自分は自分、他人は他人」と思って、比べないのは大事。それと同時に「自己責任」という言葉に押し流されないように注意が必要だと思います。(野中)

—「家庭を持って初めて一人前」という考え方は、男性社会にも強くあるなと思いす。

野中:確かに、家やお金を借りたり仕事を探したりする際に家族の有無が社会的信用度の判定に使われると聞きますね。おかしな話だと思いますけど。家庭を持つ / 持たないの違いを乗り越え、どちらが恵まれているとか、立場が上かを競うのではなく、協力し合ってみんなが生きやすくするのはどうしたらいいのかを、探っていかなければいけないのが現状なのだと思います。

そのためには、お互いが何を感じているのか、何が不満なのかを、まず自分の立場から言わないと話にならない。黙って我慢していると「それでいいんだな」って思われてしまいますから。

左から:枇谷玲子、野中モモ

枇谷:だんだん野中さんがロクサーヌ・ゲイに見えてきました。

野中:えっ、そんな(笑)。そういえば、『バッド・フェミニスト』では、まさにそういった問題について書いている「奇妙な特権」というエッセイに特に感銘を受けました。どちらのほうが恵まれているか、優遇されるべきかを競うのをやめて、自分の特権を受け入れて何ができるかを考えよう、という。ロクサーヌ・ゲイは黒人として女性としてさまざまな差別を受けてきたけれど、同時に裕福な家庭の出で大学教授の職に就いている「恵まれた人」でもある。どんな人にも恵まれている部分と恵まれていない部分があって、真実はひとつではないんです。

それに「女の子同士は陰湿だ」とか「女は怖い」みたいな言説が世の中に溢れていますけど、それって大抵は「人間は陰湿だ」「人間は怖い」ってことだと思うんです(笑)。

—男の嫉妬のほうが、陰湿だと思うことはよくありますからね。基本マウントの取り合いですし。

枇谷:え、そうなんですか? どんなことでマウントを取り合うんですか?

—あらゆることです。年齢から年収、社会的地位、持っている車やカードの種類まで(笑)。女性は共感で繋がりあうことが多いのに対し、男性社会ではお互いの関係性を決める際にマウントの取り合いを避けられない場合も多い。出世争いの足の引っ張り合いなんて、まさに男の嫉妬の最たるものだと思います。

野中:きっとそういう人の多くは価値判断の基準が自分の外側にあるんでしょうね。自分自身の価値というより、持っているものの価値が大切な人たちというか。

—コンプレックスやルサンチマンのような個人的な要因も大いにあると思いますが、おそらく、男性社会のほうが価値判断の基準が少ないんだと思います。「いい大学を出ていい企業に入って、家族を養う」のがスタンダード。「勝ち組」「負け組」なんて言葉も男性社会から生まれたものですよね。男性のほうが自殺率も高い(厚生労働省調べ)というのは、生き方の選択肢が女性よりも少ないことと無関係ではないと思います。

枇谷:『バッド・フェミニスト』に書いてある、「自分が最も親しい友達であるはずの女性に対して意地悪、毒、競争心を抱いているのに気づいたら」って、男性にも言い換えられますね。「それはなぜか、どうやって解決すればいいかを考えて、解決するのを助けてくれる人をみつけましょう」と書いてありますが、野中さんは誰が解決してくれるのだと考えますか?

右:枇谷玲子

野中:うーん、1人で思い詰めてしまっているときに助けになるのは、やっぱり第三者なんだろうなと思います。客観的な意見で視点が変わるかもしれないですよね。

—同じコミュニティーに属していない人と交流を持つとか。価値観の違う人に助けてもらうというのは、1つの道なのかなと思います。

枇谷:ああ、確かにそうですね。私もフリーランスで働いていて、異業種の人と話すとちょっと心が楽になったりすることはありました。

—以前、川上未映子さんに取材したとき彼女もおっしゃっていたのですが、選択肢をなるべくたくさん持って、自分と他人を比べない生き方をするのが大切なのかなって思います。野中さんの訳した『世界を変えた50人の科学者たち』も、選択肢を増やす一助になると思いますし。その上で「自由で自立した生き方」を探すことが大事なのかなと。

野中:そうですね。「自分は自分、他人は他人」と思って、比べないのは大事。それと同時に「自己責任」という言葉に押し流されないように注意が必要だと思います。社会のシステム上の不公平を無視して困った状況をすべて個人のせいにする自己責任論と、自由に伴う責任を見極めることは、とても大切じゃないかなと。頭ではわかっているんですけどね、難しい。

野中モモ

枇谷:『北欧に学ぶ小さなフェミニストの本』には、「他の人にどう思われているか、気にするのはやめよう」と書いてあります。そして「他の人も好きにさせてあげよう」と。ここが一番重要なポイントじゃないかと。他の人の生き方を、勝手に決めたり干渉したりするのがトラブルのもとなのかなと思いますね。

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リリース情報

『北欧に学ぶ小さなフェミニストの本』

2018年5月19日(土)発売
著者:サッサ・ブーレグレーン
翻訳:枇谷玲子
価格:1,620円(込)
発行:岩崎書店︎

『世界を変えた50人の女性科学者たち』

2018年4月20日(金)発売
著者:レイチェル・イグノトフスキー
翻訳:野中モモ
価格:1,944円(税込)
発行:創元社

イベント情報

『枇谷玲子「北欧に学ぶ小さなフェミニストの本」&野中モモ「世界を変えた50人の女性科学者たち」刊行記念トーク』

2018年8月4日(土)
会場:東京都 神楽坂モノガタリ
時間:19:00~21:00
料金:2,000円(1ドリンク付)

『「北欧に学ぶ小さなフェミニストの本」読書会&ちゃぶ台返し!』

2018年8月25日(土)
会場:東京都 Readin' Writin'
開演19:00 開場18:30
料金:1,500円

プロフィール

枇谷玲子(ひだに れいこ)

北欧語翻訳者。1980年、富山県生まれ。2003年、デンマーク教育大学児童文学センターに留学。2005年、大阪外国語大学(現大阪大学)卒業。在学中の2005年に『ウッラの小さな抵抗』で翻訳者デビュー。北欧家具輸入販売会社勤務、翻訳会社でオンサイトのチェッカーの経験を経て、現在は子育てしながら北欧書籍の紹介を行っている。訳書に2015年東京都美術館で行われた展示『キュッパのびじゅつかん』の元となった絵本『キュッパのはくぶつかん』(福音館書店)、『カンヴァスの向こう側』(評論社)など。埼玉県在住。

野中モモ(のなか もも)

ライター、翻訳家。東京生まれ。立教大学社会学部社会学科卒業。ロンドン大学ゴールドスミスカレッジで美術史修士課程を修了。自主制作出版物オンラインショップ「Lilmag」の店主を務める。訳書『世界を変えた50人の女性科学者たち』『いかさまお菓子の本』『ミルクとはちみつ』『バッド・フェミニスト』など。共編著『日本のZINEについて知ってることすべて』。単著『デヴィッド・ボウイ 変幻するカルト・スター』。

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