野中モモ×枇谷玲子 性別問わず生き易い社会のためのフェミニズム

野中モモ×枇谷玲子 性別問わず生き易い社会のためのフェミニズム

インタビュー・テキスト
黒田隆憲
撮影:池野詩織 編集:山元翔一

科学者やパイロット、宇宙飛行士になりたい女の子も、バレエダンサーや保育士になりたい男の子も、どんどん増えてほしい。(野中)

—人事・賃金制度などは、日本でも多くの人が不公平と感じている問題だと思うのですが、なかなか改善されないのはなぜなのでしょうね。

野中:男女を問わず低賃金の非正規労働者が増え、そこで特に女性が不利な立場に追いやられやすい社会の仕組みがありますよね。変えるためには法の整備としっかりした運用が必須です。そして、そこに至る前の教育と文化全般に大きな不公平が染み渡っているように感じます。大人になって仕事をしたり、出産・子育てしたりする前に、やはり教育の機会の時点で差がついてしまっているように思うんですね。

たとえば、理系の専門職は現在でも圧倒的に男性多数ですが、それは「男の子は機械や数字に強く、女の子は情緒的で家庭的」みたいなメッセージにあふれた環境で育てられているからだと思うんです。働く女性のロールモデルに幅がなかったり、メディアに出てくる博士や研究者は男性ばかりだったり。そういうものを見ているうちに、「男はこういうもの」「女はこういうもの」と思い込んでしまっているのではないかなと。

左:野中モモ

野中:そういう固定観念にとらわれず、男性も女性もいろんな可能性を試してみてほしいですし、その知的好奇心を応援したいですよね。科学者やパイロット、宇宙飛行士になりたい女の子も、バレエダンサーや保育士になりたい男の子も、どんどん増えてほしい。そういう風潮が国際的に広がるといいなと思います。

身近なところでは、ここ10年くらいでだいぶ状況が変わってきたのを感じます。音楽業界でも、表舞台に立つミュージシャンだけでなくPAやエンジニアなどの裏方にもすごく女性が増えていて。レーベルを運営したり、イベントを企画したりするオーガナイザーも女性が多くなったように思います。素晴らしいことですよね。今日、写真を撮影してくれているフォトグラファーさん(池野詩織)も女性ですし。まあ大きなメディア企業の役員が男性ばかりだったり、相変わらず平等にはほど遠いのだけど、少しずつよくはなってきているんじゃないかな。

—野中さんが翻訳された『世界を変えた50人の女性科学者たち』(レイチェル・イグノトフスキー著、2018年訳)は、第一線で活躍している女性を素敵なイラストで紹介した本ですが、こういう読みやすいテキストが子どもたちの選択肢を増やすといいですよね(参考記事:科学は男性だけのものじゃない。絵本『世界を変えた50人の女性科学者たち』)。

枇谷:そう思います。また本だけでなく、教科書もとても大事だと思うんです。今回の企画を訳そうと決意する少し前、With You さいたま 埼玉県男女共同参画推進センターに行った際、「ねりま24条の会」が編集した『写真とイラストで学ぶジェンダーから見た日本女性の歴史』(2005年)をもとにしたパネルが展示されているのを見ました。

古代以前から平成までの女性の歴史がわかりやすく展示されていて、知らないことばかりで大変感銘を受けて。学校では「女性史」ってほとんど学ばないじゃないですか。日本でも男女の不平等を何とかしようと声を上げてきた人がいるのに、その存在がほとんどなかったかのようにされている。

『世界を変えた50人の女性科学者たち』(創元社)表紙
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フェミニズムの思想では、男と女が、また置かれている状況の異なる女性同士が、お互いにわかり合えないことをわかり合うという難題に向き合っている。(枇谷)

—他の国の「女性史」を知ることも大切だと思うのですが、北欧では女性の権利はどのように推進されてきたのでしょうか。

枇谷:たとえばノルウェーでは、1950年代まで子どもを持つ女性のうちフルタイムで働いていたのは、たったの5%だったんです。1970年代に女性解放運動が盛んに行われ、少しずつ法律が改正されていきました。北欧も、昔から男女平等だったわけじゃないんですよね。

おっしゃるように、そういう歴史を、もっと子どもたちや、普段あまり本を読まない人にもわかりやすく伝えられたらと思います。そうすれば、「他の国ではこうやって女性の権利を勝ち取ってきたんだ。だったら私たちはどうすべきか」という道筋を立てることもできるし、励みにもなるんじゃないかと。

野中:そうですね。まず「女性問題」は、第一に「人権問題」であるということが理解される必要があると思います。『北欧に学ぶ小さなフェミニストの本』がユニークなのは、主人公である10歳の女の子エッバが、「権力とは何か?」を考えるところからはじまるところなんですよね。

『北欧に学ぶ小さなフェミニストの本』(岩崎書店)表紙
『北欧に学ぶ小さなフェミニストの本』(岩崎書店)表紙(Amazonで見る

野中:今の社会は、恵まれた人がどんどん豊かになり強くなって、そうでない人は貧しく弱い存在になってしまっています。そういった流れに抵抗し、誰もが安心して豊かに生きられる社会の実現を目指すのが、本来の「人権運動」だったはずですし、「女性解放運動」もそこに含まれていると私は思うんですけど、そこをわかってもらえないことが多くて悲しい。

枇谷:もう1つ、課題だと思っていることがあって。子どもがいる / いない、結婚している / いない、仕事をしている / いない、など、女性同士でも置かれている況が様々なので、お互いに共感しづらいところがあるなと。私が『バッド・フェミニスト』を読んで印象的だったのは、「女ともだちの作り方」という章だったんですね。著者のロクサーヌさんは子どもがいらっしゃらないのですが、この章のなかでこう書いています。

「友だちの子どもを愛しましょう。たとえあなたが子どもを欲しくない、または好きでないとしても。とにかくそうするべき」と。フェミニズムの思想では、男と女が、また置かれている状況の異なる女性同士が、お互いにわかり合えないことをわかり合うという難題に向き合っているのではないかと思うのです。

野中:子育てをしている女性は、していない女性が自分だけのために使っている時間を羨ましく思ったり、逆に子どもがいない女性は世の中から「一人前」と扱われないと感じてしまったり。自分と違う立場にある人のことを理解するのは難しいし、おいそれと「わかる」とも言えなくて。想像力を使って、そうやって女性同士をいがみ合わせて得をしているのは誰なのかを見失わないようにしたいですね。

「子どもを愛しなさい」と言われてプレッシャーを感じる人もいると思うんです。「女性は子どもが好きなはず」「母性があるからどんな苦労もできるはず」って社会の押しつけがありますから。それには警戒しつつ、誰もが「自分もかつては子どもだった」ということを忘れずに、ケアを必要としている人たちに優しくできるようになればいいですよね。

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リリース情報

『北欧に学ぶ小さなフェミニストの本』

2018年5月19日(土)発売
著者:サッサ・ブーレグレーン
翻訳:枇谷玲子
価格:1,620円(込)
発行:岩崎書店︎

『世界を変えた50人の女性科学者たち』

2018年4月20日(金)発売
著者:レイチェル・イグノトフスキー
翻訳:野中モモ
価格:1,944円(税込)
発行:創元社

イベント情報

『枇谷玲子「北欧に学ぶ小さなフェミニストの本」&野中モモ「世界を変えた50人の女性科学者たち」刊行記念トーク』

2018年8月4日(土)
会場:東京都 神楽坂モノガタリ
時間:19:00~21:00
料金:2,000円(1ドリンク付)

『「北欧に学ぶ小さなフェミニストの本」読書会&ちゃぶ台返し!』

2018年8月25日(土)
会場:東京都 Readin' Writin'
開演19:00 開場18:30
料金:1,500円

プロフィール

枇谷玲子(ひだに れいこ)

北欧語翻訳者。1980年、富山県生まれ。2003年、デンマーク教育大学児童文学センターに留学。2005年、大阪外国語大学(現大阪大学)卒業。在学中の2005年に『ウッラの小さな抵抗』で翻訳者デビュー。北欧家具輸入販売会社勤務、翻訳会社でオンサイトのチェッカーの経験を経て、現在は子育てしながら北欧書籍の紹介を行っている。訳書に2015年東京都美術館で行われた展示『キュッパのびじゅつかん』の元となった絵本『キュッパのはくぶつかん』(福音館書店)、『カンヴァスの向こう側』(評論社)など。埼玉県在住。

野中モモ(のなか もも)

ライター、翻訳家。東京生まれ。立教大学社会学部社会学科卒業。ロンドン大学ゴールドスミスカレッジで美術史修士課程を修了。自主制作出版物オンラインショップ「Lilmag」の店主を務める。訳書『世界を変えた50人の女性科学者たち』『いかさまお菓子の本』『ミルクとはちみつ』『バッド・フェミニスト』など。共編著『日本のZINEについて知ってることすべて』。単著『デヴィッド・ボウイ 変幻するカルト・スター』。

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