いい映画は、クルマを見ればわかる。その理由を宇野維正が解説

いい映画は、クルマを見ればわかる。その理由を宇野維正が解説

テキスト
宇野維正
編集:山元翔一

『007』シリーズが築いた、プロダクト・プレイスメントの歴史

プロダクト・プレイスメントの歴史においても、象徴的な役割を果たしたのは『007』シリーズだった。『007は二度死ぬ』(1967年、監督はルイス・ギルバート)のトヨタ2000GT、『007 ダイヤモンドは永遠に』(1971年、監督はガイ・ハミルトン)のフォード・マスタング・マッハ1などロケ国に応じての変更はあったものの、それまで「ボンド・カー」といえばアストンマーティン、もしくはロータスやベントレーといった英国車がメインだったにもかかわらず、『007 ゴールデンアイ』(1995年、監督はマーティン・キャンベル)、『007 トゥモロー・ネバー・ダイ』(1997年、監督はロジャー・スポティスウッド)、『007 ワールド・イズ・ノット・イナフ』(1999年、監督はマイケル・アプテッド)と3作品続けてボンド・カーがBMWに。

『007 トゥモロー・ネバー・ダイ』より。ボンド・カーとしてBMW・750iLが登場する。なお、ジェームズ・ボンドはピアース・ブロスナンが演じている

『007 ワールド・イズ・ノット・イナフ』より。ボンドカーとしてBMW・Z8が登場。カーアクションシーンは3:40あたりから

しかも、単にBMWが巨額の協賛費を作品に投じたというだけでなく、『ゴールデンアイ』のZ3のように、そこに撮影当時はまだ市販前のプロトモデルを提供していた。市販前のプロトモデルや、場合によっては発表前のコンセプトモデルを、監督や製作者が作品内容を踏まえて採用することは現実的には不可能なこと。クルマが活躍する大作アクション映画におけるクルマ選びは、監督や製作者の手の届かない場所でのビジネスとなってしまったのだ。

マーベル作品とクルマ。プロダクト・プレイスメントを知れば、見方も変わる

映画に登場したコンセプトモデルで記憶に新しいのは、2012年の『アベンジャーズ』第1作(監督はジョス・ウェドン)において、トニー・スタークが乗っていたホンダNSXロードスター(アメリカではアキュラNSXロードスター)だ。

アキュラNSXロードスターの紹介動画

『アイアンマン』シリーズを筆頭に、それまでのほとんどのマーベル・シネマティック・ユニバース作品では、アウディがクルマのプロダクト・プレイスメントを握っていた。主要登場キャラクターのクルマだけでなく、街中の戦闘で破壊されるクルマもアウディばかりという作品も過去にはあったりするほど、作中におけるクルマのプロダクト・プレイスメントはコンマ秒単位でコントロールされている。さすがにそれはどうなのかと思っていたら、ある時期から破壊されるクルマだけ別のメーカーのものになっていて思わず苦笑してしまったが、マーベル作品におけるアウディの牙城を、(当時の)歴史的ヒット作となった『アベンジャーズ』で果敢にも崩しにかかっていたのがホンダだった。

『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016年)のワンシーンを使用したマーベルとアウディのコラボCM

しかし、あまりにも費用がかかりすぎたからだろうか、ホンダ車がマーベル作品のメインカーとして登場したのは『アベンジャーズ』が最初で最後。そもそも、ホンダNSXが市場に登場したのは『アベンジャーズ』公開から4年後の2016年。コンセプトモデルから微妙にデザインも変更されていたことに加えて、そもそも劇中に登場したロードスター・モデル(オープン・モデル)は2018年の現在も正式発表さえされていない。クルマの開発は市場動向などを見据えた5~10年単位の仕事。近年のハリウッドのスピード感と足並みを揃えるのも、なかなか困難なことがわかる。

クルマ文化から見ても、『ブラックパンサー』は革新的作品であった

その『アベンジャーズ』第1作、第2作(2015年公開、ジョス・ウェドン監督作『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』)をも上回る世界興収を記録して、マーベル作品に革命的変革をもたらした『ブラックパンサー』(2018年、監督はライアン・クーグラー)は、クルマのプロダクト・プレイスメントにおいてもマーベル作品に新風を巻き起こした作品だった。

同作ではブラックパンサーが「乗車」するのではなく文字通りクルマの上に「乗っかって」、アメリカでも日本でもまだ発売されて間もない新型車レクサスLC500が大活躍していた。これまでレクサスのイメージは一般的には「高級車」。『ブラックパンサー』の記録破りの世界的メガヒットは、同メーカーの「若者向け」の「スポーティー」なイメージを広める上で多大なる貢献をしたに違いない。

『ブラックパンサー』より。3:50あたりから、レクサスLC500が大々的に使用されたカーアクションを見ることができる

このようにプロダクト・プレイスメントは、単にブランドを広めるだけでなく、通常の開発や販売、広報活動だけでは何年もかかるようなブランドのイメージチェンジまでをも一瞬で可能にしてしまう(もちろん、作品自体の成功は不可欠だが)。だからこそ、自動車メーカーは莫大な予算を用意して大作のプロダクト・プレイスメント争奪戦へと参加するのだと言える。

一方、そうした行き過ぎたプロダクト・プレイスメントへの反動もあるのだろう。カルチャーシーン全体の1980年代リバイバル、1990年代リバイバルの動きとも足並みを揃えるように、近年は現代が舞台の作品であっても敢えて旧車、もしくは旧車まではいかない「ちょっと古いクルマ」の活躍が目立ってきている。次回はそんな「映画やドラマのなかのクルマ」の最新トレンドを探っていこう。

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リリース情報

『ブラックパンサー MovieNEX』
『ブラックパンサー MovieNEX』

2018年7月4日(水)発売
価格:4,320円(税込)
監督:ライアン・クーグラー
主演:チャドウィック・ボーズマン

『ブラックパンサー 4K UHD MovieNEX』

2018年7月4日(水)発売
価格:8,424円(税込)

『ブラックパンサー 4K UHD MovieNEXプレミアムBOX(数量限定)』

2018年7月4日(水)発売
価格:15,120円(税込)

※2018年6月6日(水)先行デジタル配信開始

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