福祉国家に暮らす若者は幸せ?留学もした古市憲寿が北欧を語る

福祉国家に暮らす若者は幸せ?留学もした古市憲寿が北欧を語る

インタビュー・テキスト
麦倉正樹
撮影:西田香織 編集:青柳麗野
2018/06/12
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日本は何かに失敗した人に対して社会が厳しい

—ちなみに、フィンランドは、今年3月に国連が発表した「世界幸福度報告書2018」で、幸福度ランキング1位の国になりましたが(日本は54位)。

古市:さまざまな幸福度調査がありますが、一般的に北欧の国々は上位にくることが多いですよね。GDP(国内総生産)とか、社会支援、社会の自由度と寛大さなどを指標にした調査では当然上位にランクインするでしょうし、主観的な幸福度も高い場合が多い。

ただ、主観的な幸福度って、「多くを望まない人ほど幸福度や満足度は高い」ということにもつながる。「足るを知る」北欧の人々の幸福度が高いのは、驚くことではないと思います。あとやっぱり、期待とのギャップという面があるというか、国の未来に不安がないというのは大きいんでしょうね。

—なるほど。

古市:フィンランドの友だちとかと話していて、「そんなラフな計画で、起業家になるの?」ってビックリするときがありました。彼らからすると、失敗しても福祉があるからという考えみたいなんです。福祉国家というのは、人々を怠けさせるのではないかと考えられていた時期もありましたが、じつは「挑戦しやすい土壌」をつくるという意味合いもあるんです。失敗しても何とかなるから、個人がリスクを取りやすい。実際、最近の北欧では起業率が決して低くないんです。

それに比べると、日本は挑戦がしにくい国なのかもしれません。それは、失敗したら何もかも失っちゃうんじゃないかっていう恐怖感があるから。なおかつ、何もかも失った人や、再チャレンジする人に対して社会が厳しいじゃないですか。

古市憲寿

—そういう意味では日本も、社会制度自体はもちろん、その考え方自体も変えていかないといけないのかもしれないですね。

古市:日本って、いろんなことが「掛け声」だけなんですよね。財政のために企業を増やしましょうとか、起業立国にしましょうとか。でも本当は制度を変えないと人々は動かない。少子化対策にしても、起業率を増やすにしても、若い世代が安心して暮らしていける社会をつくることが必要なはずなのに、表面を取り繕って終わっているケースがとても多いと思います。

—そういうなかで、日本は今後、どういう道をとるべきだと思いますか?

古市:うーん、いろいろな問題があるとはいえ、やっぱり日本は世界と比較すると暮らしやすい国ですよね。人口がこれだけいるから、マーケットが大きくて……なおかつ、物価が安いじゃないですか。コンビニやファストフードが充実しているから、食環境もいい。たとえば、ロンドンで暮らそうとすると、物価が毎年数パーセントずつ上がっていくから、生活レベルを維持しようと思ったら、毎年給料を上げていかないといけない。だけど、いまの日本は、良くも悪くもそうではない。

日本にとって一番の問題は、少子高齢化です。少子化対策には失敗し続け、高齢化率は高まる一方で、人口減少も始まりました。人口が減ること自体はいいのですが、問題なのはバランスです。働く現役世代が少なくなるなかで、増える一方の高齢者をいかに支えればいいのか。たとえば、2025年には認知症または予備軍の人が1,300万人になると予測されています。認知症の特効薬がまだ開発されないなか、あまり楽観的なことばかりを言っていられない状況になりつつあります。

古市憲寿

—そういう社会のなかで、若者たちはどのように生きれば。

古市:国民生活に関する世論調査で、「今後の生活の見通し」について「良くなっていく」「同じようなもの」「悪くなっていく」「わからない」の四択を聞いているんですが、「同じようなもの」と答えた人が6割以上なんです。なんとなく、「こんなふうにやっていけるんじゃないかな」って思っている人が多いのではないでしょうか。

いまの20代、30代の親は高度成長期の恩恵を受けている世代が多いので、家族で考えた場合、比較的裕福な人が多い。だから親を頼れば、なんとかやっていける場合も多いのですが、問題はその次の世代ですよね。

—これから少子高齢化が加速していくわけですしね。

古市:日本の高齢者の定義って、65歳以上ですよね。それを、75歳まで働いて、年金も75歳に引き上げたら、いまと変わらない水準でやっていけるという考え方があります。労働力不足が進んでいるうえ、技術革新で本当に体力が必要な仕事は減っていくかもしれない。そんなふうにして、日本は何とかやり過ごしていけるのかもしれません。

北欧に関していえば、明るい話題が多いですよね。温暖化の影響で、これからどんどん北極航路が開通していけば、地理的にも非常に便利な場所になっていく。また、温かくなることで、これまで北欧では無理だった農作物をどんどんつくれる可能性も出てきた。温暖化によって、暖房需要が減ったり、森林が増加したり、北欧はチャンスにあふれた場所になってきましたね。

—なるほど。それぞれの国の未来予想図は違いますが、北欧であっても日本であっても、自分自身にとっての「幸せな生き方」を見つけて、選択していくことが大切なのかもしれませんね。本日は貴重なお話をありがとうございました。

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プロフィール

古市憲寿(ふるいち のりとし)

1985年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。若者の生態を的確に描出した著書『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)で注目を集め、テレビ番組のコメンテーターなどでも活躍中。ほかにも、トゥーッカ・トイボネン氏との共著『国家がよみがえるとき持たざる国であるフィンランドが何度も再生できた理由』(マガジンハウス)など。また、大学在学中にノルウェーに留学経験がある。

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