起業家のためのフェス。Slushが提案するワクワクする働き方

起業家のためのフェス。Slushが提案するワクワクする働き方

インタビュー・テキスト
加藤将太
撮影:豊島望 編集:原里実、木村健太

ぼくはシリコンバレーって、場所じゃなくて、マインドセットだと思っているんです。

—スタートアップ文化がフィンランド国内に浸透できた原因には、考え方の面ではどのようなことがありますか。

アンティ:「新しい物事を始めたい」というマインドセットは、ひとつ大事だと思います。いまの時代に急成長を目指す会社をつくりたいのであれば、技術力があるにこしたことはありません。フィンランドにはノキアのような会社がたくさんあり、エンジニアの人数も少なくない。もともと教育システムが優れているともいわれていますし、そこに新しいものをつくりたいという価値観がリンクして、スタートアップの国に成長したのだと思います。

アンティ・ソンニネン

アンティ:あともうひとつ、スタートアップにはさまざまなつくり方がありますが、ヘルシンキの『Slush』は、ソフトウェア開発の世界でいう「オープンソース」の考え方を大切にしていました。自社で採用している方法論や、成功したやり方などを、秘密にせずコミュニティー全体でシェアするんです。フィンランドのスタートアップという小さなコミュニティーのなかで、誰が偉いか、強いかと勝負するより、どうやって助け合い、いかに海外から人を呼び込むか、というマインドセットが大事だと思うんです。

—いかに海外から人を呼び込むか。まずは観光地として魅力を感じてもらうという考え方に近いのでしょうか。

アンティ:そうですね。フィンランドって、ヨーロッパの北の端っこにポツンとあって、それこそシリコンバレーのあるカリフォルニアなんかと比べたら、寒くて暗い国だねって思われていると思うんです(笑)。放っておいても「来てみたい!」と思ってもらえるような要素がないんだったら、自分たちの強みを活かして、どうしたらみんなが来たくなるのかを考えなきゃいけない。

「slush」というのは、もともと英語で「溶けかけた雪」という意味なんですよ。「温かくて魅力的なシリコンバレーじゃなくたって、面白いことはできる」というメッセージが込められています。ぼくは「シリコンバレー」って、場所じゃなくて、マインドセットだと思っているんです。

—というのは?

アンティ:シリコンバレーのようなすぐれたスタートアップコミュニティーをつくりたいと思ったとき、倣うべきは表面的なものではなくマインドセットだということです。彼らのやり方をそっくりそのまま真似するのではなく、そもそもなぜシリコンバレーが成功したのかを考える。その理由には、多国籍の人々を積極的に迎えることもありますが、ぼくが最も重視しているのは「Pay it forward」という文化。成功した人が、次に続く人を育てるという考え方です。大変な状況を乗り越えた自分の経験を活かして、他の人の成功を手伝う。この助け合いの文化はフィンランドや東京でも育てていきたいですね。

アンティ・ソンニネン

—助け合うという意味では、フィンランドには「talkoo」(助け合い)という国民性を表す言葉があるそうですが、それはスタートアップが増えてきた背景にも影響しているのでしょうか。

アンティ:あると思います。「talkoo」というのは、引越しなど労働力が必要な場面での、共同体のなかでの助け合いが根源にあるんですね。助ける代わりに、お金はもらえませんが、お礼にご飯をご馳走してもらえたりします。「talkoo」の根本には、引越しのように1人ではできない、しかしいずれ誰もが助けを必要とする仕事を、いちいちお金を受け渡しして手伝うのはナンセンスだ、という考え方があるんです。誰かが助けを必要としているときは助け、逆に自分が困っているときは助けてもらう、そのほうがシンプルではないかと。

だからフィンランドのスタートアップコミュニティーでも、誰かが海外から投資家を呼ぶときは、招待制ではなくオープン参加のパーティーを開くことが多いです。いちいち損得勘定を考えていたら、共同体全体の利益にはならない。そもそも何かいいことがあったり、いいものが手に入ったりするのは単純にラッキーのこともありますから、そこで得たものを少しくらい、他の人に分けてもいいんじゃない? と。そこで誰かがメリットを享受したら、何かしらのかたちで、いつか自分にも返ってくるから。

—日本のことわざ「情けは人のためならず」と同じ考え方ですね。

アンティ:数百人規模のイベントは世界中に無数にありますが、数千人規模のものは限られて、数万人ともなるとほぼありませんよね。同じ国のなかで別の団体が、数百人規模のイベントを延べ100回やるより、みんなで1万人のイベントを数回開催するほうが、世界で目立って影響力も増す。コミュニティーのなかで小さな駆け引きをするよりも、みんなで対外的に大きな勝負をしたほうがいいんです。その意識は『Slush』にも共通しています。

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プロフィール

アンティ・ソンニネン

フィンランド出身。2007年に東京大学への留学生として初来日。米スタンフォード大学でのインストラクター従事を経て、2012年から、「アングリ―バード」で知られるRovio Entertainmentの日本担当カントリーマネジャーを務める。2015年よりSlush TokyoのCEOを務める。

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