ビョークは、アイスランド国民にとっての国民的歌手ではなかった

ビョークは、アイスランド国民にとっての国民的歌手ではなかった

インタビュー・テキスト
黒田隆憲
撮影:廣田達也 編集:山元翔一

ビョークの自宅から5分くらいのところに高級マーケットがあって、そこに行くとよく見かけますよ。

—あとはやはり、言語の影響も大きいのかなと思いました。先ほどおっしゃったMugisonのように、アイスランド語で歌っているほうが「私たちの音楽!」という意識が強くなるのかもしれないですよね。たとえばアウスゲイルが、全編アイスランド語で歌ったアルバムを、グローバルデビューの際に英語で歌い直しましたが、あのときの現地の反応はどうだったのでしょうか。

小倉:「やっぱりアイスランド語のほうがよかったね」っていう声が多かったかな。

“Leyndarmál”の英語歌唱バージョン

—そうなんですね。小倉さんはアイスランドに移り住んでちょうど1年だそうですが、ビョークと遭遇することってあります?

小倉:ビョークの自宅から5分くらいのところに高級マーケットがあって、私もたまに使っているのですが、そこに行くとよく見かけますよ。でも、なんか変に居心地悪くなるんです。向こうはもちろん、私のことなんて知らないんですけど、「目が合ったらどうしようかな」とか「向こうが気を遣ったらどうしよう」「ぶつかったらどうしよう」って。

—確かに、スーパーマーケットにビョークがいたら緊張しますね。そういえば、『Norður og Niður』でも彼女を見かけしました。普通に受付のところに並んでいるから、なんだか不思議な気持ちでした。着ているのは普段着なのに、ピンクの派手なマスクをつけていて。そのギャップは何なんだと(笑)。

小倉:本当に(笑)。さすがにマーケットでは普通にすっぴんでしたけど、目立ちたいのかそうじゃないのかよくわからないですよね。

小倉悠加

—今日こうやってお話を聞くまでは、アイスランドって人口の割にはアーティストが多いし、国全体がアートへの造詣も深く、なんなら庶民も含めて大部分の人が普通にポストロックを聴いているのかと思っていたのですが(笑)、そんなこともないのですね。

小倉:私も実際に行くまではそう思っていました(笑)。確かに狭い社会ではあるんですけどね。たとえば、アウスゲイルの甥っ子アクセル・フロヴェントが最近デビューしましたが、その腹違いのお兄さんもシンガーソングライター(Þórir、読み:ソゥリル)で、以前Fighting Shitというメタルバンドをやっていたんですが、オーラヴル・アルナルズが友情参加で何曲かドラムを叩いているんです。Sigur Rosの身内だけを集めたフェス(『Norður og Niður』)が成立してしまうくらいですからね(笑)。とにかく狭い。

『Norður og Niður』の模様

アイスランドでは、男の人が子育てを「手伝う」のではなく「する」のが当たり前。やってないほうが常識を疑われます。

—せっかくなので、アイスランドという国についてお話を伺いたいのですが、かなり日本と共通点は多いみたいですね。

小倉:アイスランドの広さは10万平方キロ、よく「四国と九州を足したくらいの大きさ」と言われています。総人口は34万人。日本の人口密度は1平方キロメートルあたり338人で(2017年)、アイスランドは1平方キロメートルあたり3.4人だから、およそ100分の1ですね(笑)。共通点は、島国で火山大国であること、温泉もあって捕鯨もする国。あと、ミス・ワールドを何人も輩出するくらい美人が多い(笑)。

—アイスランド人の気質はどうなのでしょう。日本人はよく「島国根性」なんて言われますが、アイスランドもそういうところがあると感じます?

小倉:今はすっかり受け入れてもらっているけど、私がアイスランドに通い始めた15年前は、コミュニケーションに壁を感じました。初めて行ったときは、まだ「観光客」という扱いで歓迎してくれたのですが、実際にビジネスを始めるとなると急にハードルが上がったんですよね。ちょっとした内弁慶気質はあるかもしれないです。

アイスランドの人って、近くにあるフェロー諸島に遊びに行くと、ちょっと大きな顔をするんですよ。「僕らアイスランド人は、フェロー諸島に行くとアメリカ人のように振る舞えるんだ」なんて冗談を言う人もいます(アイスランドは歴史的に、ノルウェーやデンマークの植民地だった過去がある。一方、フェロー諸島は現在もデンマークの自治領となっている)。

—アイスランドは女性の社会進出が進んでいるというイメージもありますが、男女平等問題や、結婚・子育てに対する意識の高さについていかがですか?

小倉:世界経済フォーラム(WEF)が独自に分析、発表している「ジェンダー・ギャップ指数(Gender Gap Index:GGI)」というものがあるのですが、アイスランドは2年連続1位で最も男女格差が少ない国です。ちなみに日本は114位。昨年の111位から3ランク下がってしまいました(苦笑)。

小倉悠加
内閣府男女共同参画局が発表した結果を見る(サイトを開く

小倉:日本がなぜ低いのかというと、女性政治家の数や、企業における女性の扱いなどが響いているみたいなんですよね。アイスランドの前首相はハンナ・シグルザルドッティルさんという、レズビアンであることをカミングアウトした初の首相です。当時、外国のメディアは、アイスランドの首相がレズビアンだと騒いでいましたけど、アイスランド人はそんなこと一切気にしていませんでした。政治手腕と、性的傾向は全く関係ないですからね。ちなみに現首相はカトリーン・ヤコブスドッティルさんという方で、アイスランド人にしてはごく小柄の可愛らしい女性で、3児の母です。

—育児に関する意識も、日本よりアイスランドのほうが高いと感じますか?

小倉:まず、男の人が子育てを「手伝う」のではなく「する」のが当たり前。やってないほうが常識を疑われます。そんなの当たり前のこととしてやっているから、いちいち語られもしないほどですね。ただ、私みたいな外から来た人間からすると、「すごいなぁ」と感心させられます。育児休暇も普通に男女で均等に取れますしね。

あと、事実婚も進んでいて、法的に結婚していてもしていなくても、同居届けを出していれば結婚しているのと同等の権利がもらえます。なので、あえて結婚する必要がないと考えている人も、結構多いようです。ちなみに、70%が私生児。出生率も高いですよ。

—そういった話を聞くと、ビョークがイギリスに渡ってからいわゆる男女平等問題などを訴えているのは、アイスランドで生まれ育ったからこそと言えるかもしれないですね。

小倉:それはきっとあると思います。

小倉悠加

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企画情報

『アイスランド・エアウエイブスとオーロラの旅』

アイスランド在住の音楽ジャーナリスリト / コーディネーターの小倉悠加が企画し、今年で12回目を迎えるツアー。アイスランド最大の音楽フェス参加や自然観光に加え、アーティストを迎えての食事会やバスツアー、プライベートスタジオ訪問での独占ライブなど、音楽ファンの夢を叶える企画を毎年実現させています。会場を出るとオーロラが見えるときもあり、音楽ファンがアイスランドへ行くならこのタイミングが一番でしょう。

プロフィール

小倉悠加(おぐら ゆうか)

1970年代半ば洋楽に目覚め、単身アメリカへ留学。大学時代から来日アーティストの通訳に従事し、レコード会社勤務を経てフリーに。以来、音楽業界で幅広く活動。カーペンターズの解説の殆どを書いているためカーペンターズ研究家と呼ばれることも。2004年自らアイスランドの音楽を扱うアリヨス・エンタテイメントを設立。ミュージック・ペンクラブ会員。

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