トクマルシューゴが北欧楽器を初体験。国境を超える音と曲を探る

トクマルシューゴが北欧楽器を初体験。国境を超える音と曲を探る

インタビュー・テキスト
黒田隆憲
撮影:朝山啓司 編集:木村健太
2018/02/28
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北欧の冬はめちゃくちゃ寒かったけど、向こうの人たちはすごく楽しそうにしていたんですよ。

—榎本さんは、スウェーデンに留学していたとき、ニッケルハルパの職人さんとも交流があったそうですね。

榎本:はい。音楽学校に行っていたときに、ニッケルハルパの職人さんが近くに住んでいたので、修理とメンテナンスをテーマに、その職人さんのところに通いました。

榎本翔太

—印象に残っていることはありますか?

榎本:みんな伸び伸びと暮らしている感じはしましたね。夏の間に森に木を伐りに行って、夜が長い冬になると作業場にこもって製作に打ち込む。楽器づくりにはこだわりながらも、余暇はたっぷりと楽しんでいました。

—トクマルさんも、何度か北欧ツアーを行っていますよね。

トクマル:スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、アイスランド……フィンランド以外の国は全部行ったと思います。現地の人たちと触れ合ったわけではないんですけど、とにかく自然がたくさんあって。街から街までが遠かったなあ、という思い出が(笑)。

榎本:ひたすら森、湖、森、湖っていう感じですよね。

トクマル:そう。景色はものすごく綺麗だから感動したんですけど、見わたす限り絶景だらけなので、わけわかんなくなってました(笑)。何度か行ったので、いろんな季節を経験しています。冬はめちゃくちゃ寒かったけど、向こうの人たちはすごく楽しそうにしているんですよ。「北欧の人たちは暗い」って言う人もいますけど、夜になるとちゃんとパーリーピーポーたちが出歩いていましたし(笑)。

トクマルシューゴ

榎本:お酒が入ると陽気になる人が多くて、その落差には僕も驚きました(笑)。スウェーデンって、お酒の入手がすごく大変なんですよ。昔から教会がお酒の管理をしていたので、いまでも「システムボラーゲット」という国営のお店じゃないと、3.5パーセント以上のアルコールが入った飲み物を買うことができない。飲食店やライブハウスで飲むことはできるんですけどね。

トクマル:だから、ライブハウスにいる人たちはあんなに楽しそうだったのかな。

榎本:お酒を買うためだけに、隣の国に行く人も多いですよ。船の中にある免税店でお酒を買って、向こうで一泊してたっぷり飲んで、帰りの船でもまた買って、スウェーデンに着いたらバスの中でヘベレケになる。

そんな国民性だからか、スウェーデンのフォークミュージックには、お酒のことを歌った歌が多いんです。「お金が手に入ったら、あの子に1杯奢ってあげよう」とか「今日は値段を気にせず飲み明かそう」とか(笑)。

トクマル:お酒の歌が多いんですね(笑)。オススメのスウェディッシュ・フォークはありますか? できればスウェーデン語で歌っているものがいいです。

榎本:地域によって差があるのですが、ウリカボーデンという人がモダンなフォークミュージックを歌っていて有名ですね。あとクラヤという、女の子4人のアカペラグループもおススメです。ものすごく綺麗なハーモニーで、昔の歌を聴かせるんですよ。

最近よく思うのは、「日本語ってハーモニーよりユニゾンで歌いたくなる言葉だな」ということなんです。

—スウェーデン語で歌われている、というところがいまのトクマルさんにとって重要なポイントなのでしょうか?

トクマル:はい。いま、ローカルな言葉で歌われている曲に興味があるんです。たとえば日本語のまま大ヒットした坂本九の“上を向いて歩こう”のように、その言葉のまま海外で通用する音楽というのもありますよね。国が違えど、異なる言葉のまま伝わるって素敵だと思っていて。僕自身も日本語詞のまま海外で歌っているので、そういったことを研究したいなと思っていて。

トクマルシューゴ

—言葉も楽器の一種と捉えると、歌っている言語によっても響きは変わりますし、メロディーの成り立ちにも大きな影響を及ぼしていますよね。

トクマル:そうですね。その言語自体が持っているテンポ感とか、言葉遊び的なものも、すごくおもしろいです。

—Ásgeirのデビュー盤(『Dyrd i dauoathogn』)は、アイスランド語で発表した後、英語でもリリースされていますが(『In the Silence』)、両方を聴いてみると全然違うんですよね。母国語のほうが神秘的だし、なじみがいいというか。

トクマル:アイスランドのSigur Rósもそうですけど、最初に聴いたときの衝撃がすごかったんです。「なんだろうこの言葉の響き!」って。まるで呪文のように聞こえるのに、違和感なくすっと体に入ってくる感じが不思議だった。

榎本:スウェーデン語には母音が9個あって、日本語の発音にはないものもあります。そういう言葉で歌われたメロディは、日本では思いつかないかもしれないですよね。

トクマル:ああ、なるほど。面白いですね。最近よく思うのは、「日本語ってハーモニーよりユニゾンで歌いたくなる言葉だな」ということなんです(笑)。みんなで一緒に、同じ音程で歌いたくなるというか。

—みんなでそろって歌うのが得意とか、日本人の気質によるところも大きいかもしれないですね。あらためて今回、初めてニッケルハルパに触れてみた感想はいかがですか?

トクマル:やっぱり、僕にとっては構造の面白さが一番の魅力ですね。「最果て」ともいえる北欧の楽器というのは、いわば「1つの到達点」なのかなと思いました。アラブで広がったバラエティに富んだ楽器が、ヨーロッパを伝わって行くなかで、いい部分がくっついたり、要らない部分が省かれたりして。「全部足しちゃえ!」みたいな楽器もあって、ニッケルハルパはそういう楽器なのかもしれないですね。

—たしかに、いろんな楽器の特徴を併せ持っていて、キメラっぽいですよね。

トクマル:そう、見た目もカッコいいですしね。やっぱり欲しいな。持ち帰っていいって言われたら、すぐバラバラにしちゃうと思いますけど(笑)。

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プロフィール

トクマルシューゴ

さまざまな楽器や非楽器を用いて作曲・演奏・録音をこなす音楽家。2004年NYのインディレーベルより1stアルバムをリリース、各国のメディアで絶賛を浴びる。以降、国内外ツアーやフェス出演、映画・舞台・CM音楽の制作など幅広い分野で活動。2016年、4年ぶりとなるアルバム『TOSS』をリリース。現在、日本テレビにて放送中の、東京03×山下健二郎(三代目J Soul Brothers)×山本舞香5人による新感覚シチュエーション・コメディ『漫画みたいにいかない』の劇伴音楽を担当。同作のサウンドトラックCDをリリースするなど、活動のフィールドをますます広げている。

Drakskip(ドレクスキップ)

スウェーデンの伝統楽器ニッケルハルパ、ノルウェー生まれの弦楽器ハルダンゲル・ダモーレ、12弦ギター、パーカッションというユニークな編成の4人組バンド。北欧を中心に世界中の音楽を取り込んだサウンドで人気を集める。フィンランドとスウェーデン計4都市の伝統音楽フェスティバルにて演奏、本場でも高い評価を得ている。

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