トクマルシューゴが北欧楽器を初体験。国境を超える音と曲を探る

トクマルシューゴが北欧楽器を初体験。国境を超える音と曲を探る

インタビュー・テキスト
黒田隆憲
撮影:朝山啓司 編集:木村健太
2018/02/28
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1本で、これだけ豊かな響きを出したり、広がりを見せたりする楽器ってあまりないと思う。

—ニッケルハルパを実際に弾いてみて、どんな感想を持ちましたか?

トクマル:実物を見るのも今日が初めてだったのですが、すごく珍しい楽器ですよね。まず、弓で擦る弦のほかに、共鳴用の弦がついていて、それがなんともいえない豊かな響きやハーモニーを生み出している。なおかつ、鍵盤を左手の指で押さえて音程を変えるという。こんな組み合わせの楽器って、ほかにないんじゃないかなって思います。

トクマルシューゴ
トクマルシューゴ

榎本:そもそもニッケルは「鍵盤」、ハルパは「ハープ=弦楽器」という意味なんです。鍵盤がついた弦楽器ということでいえば、日本では大正琴がありますね。中世ヨーロッパから伝わるハーディ・ガーディ(ハンドルを回して音を奏でるヴァイオリンのような楽器)という楽器にも似ているといわれています。

トクマル:ハーディ・ガーディは、ドローン弦(持続音を鳴らすための弦)はついていますが共鳴弦はついていないですよね。細かいニュアンスや高音域を出すのは、ニッケルハルパのほうが得意なんじゃないかな。

スウェーデンを代表するニッケルハルパ奏者ヨセフィーナ・パウルソンと、マルチプレイヤーのヨーナス・オーケルンドによるデュオ、ヨーナス&ヨセフィーナ

榎本:ちなみに、いまトクマルさんが持っているタイプは、「最新型」のニッケルハルパです。時代によって楽器の姿が変わっていて、形状も弾ける音階もまったく違うんですよ。しかも、現行のニッケルハルパのなかでも、個体差がすごくあって。ヘッドの形も、色も、鍵盤の数すらも違うんです。

ニッケルハルパ
ニッケルハルパ

—そもそも、どのように生まれた楽器なのですか?

榎本:諸説あるのですが、スウェーデンのゴットランド島(ストックホルムから南東に約100km。バルト海に浮かぶ島)の教会に、この楽器を持った人を描いたレリーフがあるんです。14世紀中頃に彫られたものとされていて、この楽器の最古の記録といわれています。スウェーデン中部のウップランド地方を中心に伝承されていったようですね。でも、弾き手やつくり手がどんどん減ってしまったことから、1920年頃に、現代音楽に合わせて半音階が弾けるように改良されたんです。

トクマル:そうか。大昔は半音階なんて存在しなかったはずですもんね。もともとは、どんな音楽を演奏するためにつくられたんでしょうね?

 

榎本:農民たちの楽器として、土着的な民族音楽を奏でることが多かったようです。あとは、たとえばワルツとか、ポルスカというスウェーデン独特のダンスの伴奏にも使われますね。1本で演奏する場合もあるし、1人が主旋律を弾き、もう1人が伴奏するアンサンブルもポピュラーです。共鳴弦があるので、1人で弾いてもかなり豪華な響きになるんですよ。少し弾いてみましょうか。

(ニッケルハルパを演奏する)

トクマル:すごい……。1つの楽器で、これだけ豊かな響きを出したり、広がりを見せたりする楽器ってあまりないと思うんですよね。音色的には、インドのエスラジ(革を張ったボディに、シタールのような長いネックがついた擦弦楽器)のようなサウンドを連想させます。ただ、こういう繊細な倍音や、ハーモニーとは違いますよね。

—インドの古典楽器でいえば、サントゥール(ピアノの原型となったといわれる打弦楽器)にも似ていますよね。ピチカート奏法だと、よりサントゥールっぽい響きになる。

トクマル:ああ、たしかにそうですね。榎本さんは、どんなきっかけでニッケルハルパを手にしたのですか?

榎本:もともとは、ヴァイオリンをやっていました。大学時代に友人のバンドに誘われてスウェーデン音楽をやるようになり、友人から借りてニッケルハルパを弾きはじめたんです。そこで、ちょっとフォーキーでどこか懐かしいスウェーデンの音楽にすっかり魅了されてしまって。「もっとニッケルハルパが上手くなりたい」と思い、気付いたら留学までしていました。

榎本翔太が参加するDrakskip

トクマル:すごいですね(笑)。弓は、ヴァイオリンよりも小さいんですね。

榎本:そうですね。僕は最初の頃、子供用のチェロの弓を使っていました。

トクマル:弦は何を使っているのですか?

榎本:弓で弾く4本の弦は、スチール弦です。全部で12本ある共鳴弦は、僕はギターの弦を代用しています。ちなみに共鳴弦のチューニングは、各音階ピッタリじゃなくて、数セントずつ高かったり低かったりするんです。「ヨン・オルソン・チューニング」というのですが、それが最も美しい響きだとされています。

トクマル:ヨン・オルソン・チューニング……。これは覚えておいたほうがいいですね。「この曲は、ヨン・オルソン・チューニングでつくりました」とか言いたくなりますね(笑)。

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プロフィール

トクマルシューゴ

さまざまな楽器や非楽器を用いて作曲・演奏・録音をこなす音楽家。2004年NYのインディレーベルより1stアルバムをリリース、各国のメディアで絶賛を浴びる。以降、国内外ツアーやフェス出演、映画・舞台・CM音楽の制作など幅広い分野で活動。2016年、4年ぶりとなるアルバム『TOSS』をリリース。現在、日本テレビにて放送中の、東京03×山下健二郎(三代目J Soul Brothers)×山本舞香5人による新感覚シチュエーション・コメディ『漫画みたいにいかない』の劇伴音楽を担当。同作のサウンドトラックCDをリリースするなど、活動のフィールドをますます広げている。

Drakskip(ドレクスキップ)

スウェーデンの伝統楽器ニッケルハルパ、ノルウェー生まれの弦楽器ハルダンゲル・ダモーレ、12弦ギター、パーカッションというユニークな編成の4人組バンド。北欧を中心に世界中の音楽を取り込んだサウンドで人気を集める。フィンランドとスウェーデン計4都市の伝統音楽フェスティバルにて演奏、本場でも高い評価を得ている。

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