「エコは愛」。建築家・加藤比呂史に聞く北欧のまちづくりの本質

「エコは愛」。建築家・加藤比呂史に聞く北欧のまちづくりの本質

テキスト
村上広大
編集・撮影:高橋直貴

東京は1人あたりが使える土地の範囲が狭いから、都心の人々が開放的な場所に出向く習慣をつくることが大事だと思うんです。

—デンマークの都市づくりから日本が見習うべきことあるとすれば、どのようなものがあると思いますか?

加藤:公共スペースの使い方とかは参考になると思います。日本人って「みんなのものは丁寧に使わないといけない」という意識が強すぎる気がするんですよね。結局、ほとんどの人は使わず、ある特定の人だけが使うものになってしまう。

コペンハーゲンの人は良い意味で図々しくて、傷ができたらそのときに考えれば良いという意識でうまく公共空間を利用しているんです。以前僕らが設計したパルクール場なんかはまさにそう。学校の跡地を活かして作られているんですけれど、みんな遠慮せずに使ってくれている。そういうおおらかさが日本人にはもっと必要なのかなって。

『Slngerup』。コペンハーゲンから車で30kmほどの街ある中学校で設計したランドスケープのプロジェクト。スケートボードパークを中心に、あらゆる子供が楽しめる様なスペースになっている。
『Slngerup』。コペンハーゲンから車で30kmほどの街ある中学校で設計したランドスケープのプロジェクト。スケートボードパークを中心に、あらゆる子供が楽しめる様なスペースになっている。

『Slngerup』©Rasmus Hjortshøj
『Slngerup』©Rasmus Hjortshøj

『Slngerup』©Rasmus Hjortshøj
『Slngerup』©Rasmus Hjortshøj

『Copenhagen Dream』。コペンハーゲンの街に提案している、新しいかたちのパブリックスペース。デンマークの家庭には、ウインターガーデンという温室の庭をつくるという習慣がある。アパートメントブロックの隙間にウインターガーデンを設置し寒い冬も町の至る所に逃げ込める暖かい場所を生み出すプロジェクト。©KATO Hiroshi + Ramboll
『Copenhagen Dream』。コペンハーゲンの街に提案している、新しいかたちのパブリックスペース。デンマークの家庭には、ウインターガーデンという温室の庭をつくるという習慣がある。アパートメントブロックの隙間にウインターガーデンを設置し寒い冬も町の至る所に逃げ込める暖かい場所を生み出すプロジェクト。©KATO Hiroshi + Ramboll

加藤:でも、デンマークが日本から見習っていることもあるんですよ。コペンハーゲンって中庭があるようなロの字型の建物が多いから、けっこう空き地が多かったりするんです。そういう狭い場所を有効活用するのに日本人的な発想がけっこう役立っていて。東京って特に土地が狭いじゃないですか。そういう場所でもうまく使えるのが日本人の良いところです。

ぼくはそういったなんとも定義しづらいようなスペースに、新たなアクティビティーを持ち込むことができたら良いなと考えています。コペンハーゲンにあるニュー・カールスベア美術館が週に1回、パブリックに開放されているんですね。特に冬とかは寒いから、そういう場所に市民が集まったりするんです。そういう取り組みが市内にもっと増えれば、家族でも住みやすくなるから人口も増えるし、それによって雇用も生まれ、街の雰囲気がもっと賑やかになっていく気がするんですよね。

加藤比呂史

—そういった場所は東京とかにあっても面白そうですね。

加藤:そうですね。ただ、そういう場所を市民がうまく使うようになるためには、生活に余裕がないとできないんですよね。特に東京なんて、長い人だと1日に往復で2~3時間ぐらい満員電車に揺られながら通勤してるわけでしょ。気が狂わないほうがおかしいぐらいなのに、みんな感覚が麻痺していて、特に何も思わなくなっている。

—確かにそうかもしれません。

加藤:そういう異常なところって、一度離れてみないとわからなかったりしますからね。ぼくは日本を一度離れたことで、そういうところに対して正直になっちゃったんです。満員電車って毎日乗ってると慣れてきちゃうんですけど、無意識のうちにストレスが溜まっていくと思うんですよ。だから、本当はもう少し人を東京から分散させるべきだと思うんですよね。

—地方に引っ越すというようなことですか?

加藤:それもありますが、実際には全員がそうすることは難しいですよね。とにかく東京は1人あたりが使える土地の範囲が狭いから、都心の人々が開放的な場所に出向く習慣をつくることが大事だと思うんです。それは必ずしも生活の場所を変えるという意味ではなくてもいい。

例えば、お墓参り。スウェーデンのストックホルムのはずれにエリック・グンナール・アスプルンドという建築家が築いた「森の墓場」という世界遺産があるんですけれど、そこの雰囲気がすごく良いんです。広大な森のなかに建築がうまく溶け合っていて、見事なまでのランドスケープで。併設された火葬場や礼拝堂も、じっくり時間を過ごすことが考えられた素晴らしい空間です。そういう環境を生み出すことが、日本にも必要なのかなって。

—おもしろいですね。「お墓」をただ故人を偲ぶ場所としてではなく、そこで過ごす人が心地よく過ごせる場所に変えるということですね。

加藤:そうですね。ぼくもお盆とかにお墓参りに行くんですけれど、正直いまの形式がもっとも好ましいのかと疑問なんです。狭いスペースに墓石がところ狭しと並んでいて、そういう場所で本当に故人と向き合えるのかなって思ってしまう。だったら、墓石と墓地の区画を購入するお金で地方の空気の良いところに小さな小屋を建てて、別荘として家族が集い、ご先祖様にお祈りをするという習慣に置き換えるのもひとつのあり方かなと考えたんです。親しい友人同士でその場所を共有するのも良いですよね。

お墓であれば、年に1回は足を運びますよね。毎年行く場所が素敵な場所になったら足を運ぶ意味合いも自然と変わると思うんです。1人が1平米持つという考えではなく、100人で100平米を持ち、使いたいときにその広さを活用するというような。そうやって、既存の概念を変えていけるものを、うまく実現していきたいですね。

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プロフィール

加藤比呂史(かとう・ひろし)

1981年東京都生まれ。武蔵工業大学工学部建築学科(現・東京都市大学)卒業後に藤本壮介建築設計事務所に勤務。2010年にデンマーク・コペンハーゲンに渡り、ヨーロッパを中心にCOBE、KATOxVictoria、Rambøll、Tredje Naturなどで建築設計や公共空間のコンセプトディベロップメントに従事。現在はBeans.ltdにパートナーアーキテクトとして参加しながら、フリーランスアーキテクトとして活動を行なっている。

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