ムーミンは妖精なのか? 畑中章宏と探る、北欧の妖精と日本の妖怪

ムーミンは妖精なのか? 畑中章宏と探る、北欧の妖精と日本の妖怪

インタビュー・テキスト
柴那典
撮影:中村ナリコ 編集:川浦慧

妖精や妖怪の類というものは、中間的な場所に生まれるんです。

―北欧の妖精と日本の妖怪に共通点や似ているところはありますか。

畑中:やっぱり日本の中で北欧と風土的に近いのは東北地方だと思うんですね。そういうことを手掛かりにして北欧の妖精に興味を持ってもらえたらいいんじゃないかと思うんです。たとえば、日本には座敷わらしという妖怪がいますよね。これはさっき言ったニスに似ているところがある。というのは、ニスも座敷わらしと同じように小さな存在で、家に住んでいる妖精である。

座敷わらしは3つの描かれ方をしているんです。一つは座敷わらしが出てきた家は貧しくなって、入っていった家は豊かになるといったものとして描かれている。もう一つ、夜に人が寝ている間に枕を返したりして大きな物音を立てていたずらをしたりする、姿形が見えないという性格もある。もう一つは、子供が10人で遊んでいるはずなのに、何回数えても11人いる。その一人は座敷わらしであるという、ある種子供のいたずら、幻の妖精的なものが混じっているように描かれている。そういうものと非常によく似ていると思うんです。

やはり北欧と東北地方の共通項というのは、寒冷地帯で冬が長くて、自然の厳しさもあるし、恵みへの感謝と同時に自然への恐怖も強かった。それでアニミスティックな精霊のような考え方が生まれたんじゃないかと思います。それに、冬は長い間家にいるので、囲炉裏端で物語を紡ぐ時間がある。家への思いが強く、だから『遠野物語』も家の神というものが相当多く描かれている。そういうところは北欧の妖精に近いですね。

―ムーミンについてはどうでしょう。日本の妖怪に近しい部分はありますか。

畑中章宏

畑中:『ムーミン』は、1作目の『小さなトロールと大きな洪水』が洪水に襲われる話で、その次の『ムーミン谷の彗星』は彗星が落ちてくるという話。どちらも大きな自然災害が描かれている。

もちろん第二次世界大戦の背景もあると思います。トーベ・ヤンソンはスウェーデン系のフィンランド人だけれども、フィンランドはソ連からもスウェーデンからも迫害され、戦争という災異の真っ只中にあった。そういう大きな災害とか戦争、そこで脅かされるささやかな人間の社会みたいな構図は、日本の妖怪にも共通している。

そのあたりのことは『災害と妖怪 柳田国男と歩く日本の天変地異』(2012年)という本で詳しく書いていますが、そんなことにも接点はあると思います。あとは宮沢賢治とトーベ・ヤンソンにも近いところがあるように思います。宮沢賢治は科学的な知識も豊富で、宗教的なところも併せ持つ、突出した個性ですからね。

―お話を聞いて思ったんですが、一人の作家が生み出した物語が世界的に伝播した例として『ムーミン』に対比できるのは、ひょっとしたらポケモンなんじゃないかと思うんです。ポケモンもいわば現代の妖精物語と言えるかもしれない。

畑中:なるほど。今後の影響ということを考えた場合には、ポケモンも可能性があるかもしれないですよね。あれもやっぱり妖精のようでもあるし、実在の動物もある。中間的なものだと思います。『21世紀の民俗学』でも書いたけれど、ポケモンを生み出した田尻智さんは、東京の町田で生まれ育っている。農村部と都心の中間にあるサバービア、つまり郊外なんですよね。近代化された都市と、かつての農村の中間的なところというところから生み出された存在としての妖精たちである。やっぱり、妖精や妖怪の類というものは、中間的な場所に生まれるんです。

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プロフィール

畑中章宏(はたなか あきひろ)

作家・民俗学者・編集者・妖怪研究者。最新刊は『21世紀の民俗学』。著書に『天災と日本人―地震・洪水・噴火の民俗学』『災害と妖怪――柳田国男と歩く日本の天変地異』『柳田国男と今和次郎』『蚕:絹糸を吐く虫と日本人』他多数。

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