ムーミンは妖精なのか? 畑中章宏と探る、北欧の妖精と日本の妖怪

ムーミンは妖精なのか? 畑中章宏と探る、北欧の妖精と日本の妖怪

インタビュー・テキスト
柴那典
撮影:中村ナリコ 編集:川浦慧

畑中章宏

北欧の庶民が思い描いていた「目に見えない妖精の社会がある」というのを、キャラクターとして復活させたのが『ムーミン』だと思う。

―北欧の妖精と日本の妖怪につながりはあったりするんでしょうか。

畑中:日本の民俗学においては、やっぱりケルトの妖精の存在が大きいですね。日本の妖怪伝承の生みの親である柳田國男さんが、明治時代の終わり頃に『遠野物語』(1910年)という本を書いた。これは岩手県の遠野というところを舞台にした妖怪やお化けの話、怖い体験をしたという話を集めたものですね。

この『遠野物語』を発端にして日本の民俗学は生まれたし、いろんな人が「うちの周りには河童がいた、天狗がいた」と話し始めるきっかけになったと言っていいと思います。

 

―なるほど。

畑中:その柳田國男自身が、ケルトの古い物語、ウィリアム・バトラー・イェイツというアイルランドの詩人が書いた『ケルトの薄明』(1893年)という妖精譚を参考にしたという経緯がある。もう一方で、恋愛詩で知られるハインリヒ・ハイネが書いた『流刑の神々』(1853年)(『流刑の神々・精霊物語』に収録)も参照している。

これを翻訳しているのが小澤俊夫というドイツ文学者で、ゲルマン系の妖精物語、おとぎ話や昔話の重要な研究者です。ちなみに小沢健二のお父さんですね。また、北欧の神話や妖精物語を翻訳したのが山室静という文学者で、彼は『たのしいムーミン一家』や『ムーミン谷の冬』などのムーミンのシリーズも翻訳しています。

 

―ムーミンは北欧の妖精たちの中ではどんな位置づけなんでしょうか。

畑中:先ほどトロールの話をしましたけれど、ムーミンというのは、正式には「ムーミントロール」という名前なんですね。『ムーミン』の中にはムーミントロール以外にもいくつかのトロールが登場します。その他にも、家の中のいろんな隙間にいたりする妖精であったり、あるいは「ご先祖様」というキャラクターも出てくる。それは暖炉のストーブの後ろにいて、毛むくじゃらで鼻が長い小人みたいな姿形なんです。

今現在、北欧で妖精の体型的な研究や類型化した妖精辞典みたいなものがあるかどうか知らないんですが、ある意味では『ムーミン』はそういう役割を果たしているんじゃないかという気はしています。

―というと?

畑中:もちろん作者のトーベ・ヤンソンは、神話と民間伝承が合わさった北欧の妖精たちを、直接的な形で『ムーミン』には反映させてはいません。けれど、かつての北欧の庶民が思い描いていた「自分たち人間が今生きている社会以外にも、目に見えない妖精たちの社会がある」という感覚をキャラクターとして復活させたのが『ムーミン』であると思うわけですね。やっぱり『ムーミン』は妖精物語なんですよ。

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プロフィール

畑中章宏(はたなか あきひろ)

作家・民俗学者・編集者・妖怪研究者。最新刊は『21世紀の民俗学』。著書に『天災と日本人―地震・洪水・噴火の民俗学』『災害と妖怪――柳田国男と歩く日本の天変地異』『柳田国男と今和次郎』『蚕:絹糸を吐く虫と日本人』他多数。

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