東浩紀による講演『ゲンロンカフェ@ボルボ スタジオ 青山』

東浩紀による講演『ゲンロンカフェ@ボルボ スタジオ 青山』

テキスト
柴那典
撮影:鈴木渉 編集:川浦慧

未踏の地を旅する「冒険」と対照的な「コンテンツツーリズム」

また、観光においては「俯瞰の視線」が重要になっていると語る。観光学者のディーン・マキァーネルが著書『ザ・ツーリスト』で19世紀末から20世紀初めにかけてのパリの観光案内を引用し、そこで死体置き場や下水道が紹介されていることを重視している。これは「観光に行くことによって自分の国では見ることができない社会の全体性を見ることができる」視線だと言う。

さらに観光の本質は「反復強迫」であると東は指摘する。誰かが行った場所に行き、紹介されているものを見る。昨今ではアニメや映画のロケ地やモデルを訪れる観光が「コンテンツツーリズム」と称されるようになったが、そういう意味では、そもそも全ての観光が「コンテンツツーリズム」であり、未踏の地を旅する「冒険」と対照的に、その場所にある歴史や文化などのコンテンツを再確認するための旅である。

それゆえ、19世紀の写真技術の発展以降、視覚メディアの変遷と観光は密接な関係にある。全ての物事が記録され、後から振り返られるものを「観光客の視線」と位置づけ、都市論やメディア論との関わりを論じた。

「郵便的マルチチュード」と「家族」を繋ぐ、幻の第5章

また、この日の講演で東は『ゲンロン0 観光客の哲学』に「幻の第5章があった」と語った。

同書は「観光客の哲学」と題した第一部と「家族の哲学」と題した第二部の二部構成からなっている。「郵便的マルチチュード」という新たな概念を提唱する第一部と、ドストエフスキー論を通じて「家族」というキーワードについて語る第二部は別の論として構成されており、それぞれ繋がっていないという指摘もあった。が、そのブリッジとなったのが「幻の第5章」で、そこではリチャード・ローティやソール・クリプキ、ジャック・デリダを参照しつつ、固有名に関する議論を繰り広げるはずだったのだと言う。

ここで語られた論理学的に詳しく踏み入った内容に関してはこの記事では詳述しないが、二つの論を接続するポイントは「後から遡行的に見出される」ということ。事後的に見出される、すなわち「今ここにないもの」の価値を重視するということが、なぜ「観光客」と「家族」について考えるか、その議論の本質になっているということが語られた。

講演の終了後は参加者からの鋭い質問が相次ぎ、イベントは盛況のうちに終了。第2回の「ゲンロンカフェ@VOLVO STUDIO AOYAMA」では哲学者の國分功一郎を招き「哲学の場所はどこにあるのか」と題したトークセッションが行われた。

東浩紀

「ボルボ スタジオ 青山」は、スウェーデンのカフェ文化を楽しめるカフェ&バーを併設。この日も参加者にはスウェーデン王室御用達のシャンパンが提供された。都心の一等地で上質なシャンパンを片手に知的な興奮を味わえる議論に耳を傾ける。まさに新しい時代の「サロン」と言うべき空間がそこにあった。

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プロフィール

東浩紀(あずま ひろき)

1971年東京都生まれ。株式会社ゲンロン代表。東京大学大学院博士課程修了。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。1993年に批評家としてデビュー。1998年に出版した『存在論的、郵便的』でサントリー学芸賞受賞。東京工業大学特任教授、早稲田大学教授など歴任のうえ現職。著書に『動物化するポストモダン』『ゲーム的リアリズムの誕生』『クォンタム・ファミリーズ』(三島由紀夫賞受賞)『一般意志2・0』など多数。2017年の新著『ゲンロン0 観光客の哲学』で第71回毎日出版文化賞受賞。

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