Iceageらデンマークシーンがロック史を変えた瞬間を仲真史が語る

Iceageらデンマークシーンがロック史を変えた瞬間を仲真史が語る

インタビュー・テキスト
金子厚武
撮影:小田部伶 編集:山元翔一 取材協力:BIG LOVE

彼らは中学生の頃から有名で、「モンスター」みたいなあだ名がつけられていたみたいなんです。そのなかでも、エリアスは特別だった。

—とにかくセンスがいい若者で、それは音楽に対してもそうだし、ファッションにしてもそうだった。仲さんはブログで彼らのファッションについて、「ノームコア」(norm(=標準)とHardcoreを組み合わせた造語。「究極の普通」を意味する)との関連で書かれていましたよね。

:彼らと初めて会ったときは、みんなシャツとかスウェットもパンツにインしていて、「すげえダサいな」って思ったんです。「一緒に原宿歩くの恥ずかしいな」って(笑)。

でも、1週間一緒にいたらだんだんわかってきて、僕らもインし始めたんですよね。それがノームコアが世界的に注目を集める寸前だったから、彼らはいち早くそういうスタイルを取り入れていたんだなって、あとから気づいたんです。

Iceage(エリアスは右から2番目)
Iceage(エリアスは右から2番目)

—面白いですね。彼らなりのパンクファッションだったというか。

:でも、他の人がやってないなかで、インするのって恥ずかしいじゃないですか? 僕もそのときは相当笑われたし。「いつものコーヒーショップのお姉さんの態度が全然違う」みたいな(笑)。そういう目もあるなかで彼らが意思統一できた理由を考えると、ロンドンみたいな大都市ではなくコペンハーゲンだからできたんじゃないかと思うんです。

—ローカルだからこそ、意思統一ができたと。

:話を聞くと、彼らは中学生の頃から有名で、みんなでゾロゾロ歩いて、ケンカも相当して、「モンスター」みたいなあだ名がつけられていたみたいで。そのなかでも、やっぱりエリアスは特別だった。

:ドラムのダン(・ケアー・ニールセン)のお父さんは学校の先生なんですけど、未だに「エリアスは大丈夫か? ちゃんとやってるのか?」って聞いてくるらしいんですよ。それくらいヤバい少年時代だったみたいです(笑)。

—エリアスは昔から問題児で、逆に言えば、カリスマだったと。

:そうみたいです。当時の写真を見ると、今とは全然違う感じで、前髪を下して、チェックのシャツを着てたりするんですけど、すごいオシャレなんですよね。それに「リーダー」だっていうのも一目でわかる。

Girlseekerっていうバンドに「どうしてコペンハーゲンのシーンはこうなったの?」って聞いたら、ひと言「Iceage」って答えたんですよ。それまでもいろんなシーンはあったけど、みんなバラバラで敵対していたのが、Iceageの登場によって、それぞれが結束してひとつのシーンができたみたいです。

Iceageの1stアルバム『New Brigade』(2011年)より

Iceageはコペンハーゲンだからこそ活動できたんじゃないかと思う。

—実際に、コペンハーゲンのバンドはLowerにしろLust For Youthにしろ、メンバーが被っていることが多くて、コミュニティー感を感じます。その中心にはIceageがいて、エリアスがいたわけですね。

:『クリエイション・レコーズ物語』(原題は『Alan McGee and The Story of Creation Records』。パオロ・ヒューイット著、2000年刊行)とかを読むと、Primal Screamのボビー・ギレスピーに近いのかなって。アラン・マッギーは「ボビーは最初からスターだった」って言っていて、みんなボビーがどんなものをいいとジャッジするのかを気にしていたみたいなんです。エリアスもそういう存在だったんじゃないかなと思います。

—いつの時代にも、そういうカリスマがシーンを牽引する瞬間がありますよね。イギー・ポップもそういうひとりだと思いますけど、彼がかつて「Iceageが今唯一のパンクバンドだ」って発言をしたという事実にも、カリスマの系譜を感じます。

:ただ、イギー・ポップもデヴィッド・ボウイの助けを借りていたように、エリアスにとっても「Posh Isolation」(コペンハーゲンを拠点とするレコードショップを母体とするレーベル)のローク(・ラーベク)のような存在がいたことはすごく大きかったと思うんです。

仲真史

:あとはやっぱり、デンマークっていう国のサポートも大きいと思います。シーンの本拠地だった「メイヘム」っていうクラブでは、反体制的なことをしても、国がそれを規制しなかったんです。それは相当大きかったと思いますね。

—国として、アートを支持する基盤があると。

:2年くらい前にコペンハーゲンで芸術家を狙ったテロがあったじゃないですか? 事件の前にその芸術家の展示をやっていたのがメイヘムだったそうなんです。そういう意味でも、Iceageはコペンハーゲンだからこそ活動できたんじゃないかと思います。

—アンダーグラウンドシーンの盛り上がりは、そのあとよくも悪くもセルアウトしていく方向になりがちだと思うんですけど、Iceageは自分たちのスタンスを貫いていますよね。

:ブレない価値観みたいなのはすごくありますね。うちからはLP(アルバム)のアナログ盤を出しているんですけど、最初は7インチシングルを出したいって言ったんですよ。みんな日本盤出したいから、だいたいこちらの要求を受け入れてくれるんですけど、全然譲らなくて。

Posh Isolationとの最初の取引もすごく時間がかかって、仲間として認めてもらうまでがすごく長かったんです。それだけちゃんとチェックしてるんだなって思いましたけどね。

—時代的には、ネットの存在も大きかったように思います。メイヘムでのアンダーグラウンドな盛り上がりを、YouTubeなどを通じて自分たちで発信できたっていう。

:それでいうと、Iceageの世界的なブレイクにおいては、当時は海外の音楽ブログが力を持っていたのが大きいと思います。当時はSNSの黎明期でしたけど、「Altered Zones」とか、ああいうブログが推したのが大きかったんですよね。

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プロフィール

仲真史(なか まさし)

レコードショップ/レーベル「BIG LOVE」代表。1993年から渋谷系の代表的なレーベル「ESCALATOR RECORDS」を主宰。2001年、原宿に輸入レコードショップをオープン。2008年、レーベル「BIG LOVE」スタート。2010年にショップも同名に改める。The xx、Iceageなど注目アーティストを発掘している。

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