デザインから世界を紐解く稀代のアーキヴィスト、柳本浩市の仕事

デザインから世界を紐解く稀代のアーキヴィスト、柳本浩市の仕事

テキスト
高橋直貴
撮影:加藤孝司

デザインの細部に神を見る。今和次郎の考現学に影響を受けた幼少期のスケッチ

柳本がアーカイブを行う上でのポイントは網羅的に集め、それらを体系立てて保存していることだ。また、あるアイテムに関してはコレクション同様、幼少期よりスケッチや文章による記録を行っていたが、これは民俗学者の柳田國男、柳田のもとで民俗学を学び「考現学」を作りあげた今和次郎の影響だと自身も語っている。

柳本によるスケッチ、ヴィンテージアイテムに関する考察が記録されたノート
柳本によるスケッチ、ヴィンテージアイテムに関する考察が記録されたノート

彼の幼少期のノートには、NIKEのスニーカーの特徴や、Levis、Leeなどといったブランドごとのジーンズのラベルの変遷を書き留め、時代ごとの考察を加えたノートがある。イラストなどに見える異常なまでのディテールへのこだわり、その背景にある歴史や社会を読み解くという方法は柳田國男の民俗学に通じる。柳田はリサーチのたびに教え子を地方に連れて行き「なぜ、あの民家の屋根はあの形状をなのか」「なぜ、あの小山には一本だけ高い杉の木があるのか」などと、問答したという。これは弟子達にディテールにこそ本質が詰まっているということを伝えるために繰り返された、柳田民俗学の伝承の方法だ。

今和次郎は東京美術学校の図案科(今でいうデザイン学科)を卒業後に、柳田國男のもとで学んだ考現学の始祖。彼は目に見えるものをひたすらスケッチし、その背景にある現象を捉えようとした。現代の事象を記録、考察し、体系化するのは考現学の典型的な手法である。

今和次郎による、市井の人々の洋服のスケッチ。
今和次郎による、市井の人々の洋服のスケッチ。

「なぜ、そのデザインが生まれるか」を細部から読み込もうとする彼の仕事は、柳田の民俗学、今の考現学の方法に通じるところがある。柳本は幼少期より、デザインの細部に宿る神を感じ取っていたのだろう。

価値を高め、需要をコントロール。一人のコレクターが作りだしたエアマックスブーム

幼少期より集めたコレクション、豊富な記録と知識によって作り出されたのがエアマックスブームだ。独自の流通網を駆使して発売時のアイテムを買い集め、品薄になり人々の需要が高まったタイミングで販売する。需要と供給、商品の流通量を操作し、購買意欲を作り出していたのである。自身のブログでは以下のように綴られている。

「いわゆる先物買いのようにたくさん買うことで一時的に品薄になる。メディアを使ってさらに需要を煽ってブームを戦略的に発生させる。そんな実験をしたかったんです。」(アートスクール「まほうの絵ふで」ブログより)

同じく、彼がブームを作り出したと言われるものの中にエアラインブームがある。それまで注目を浴びることがなかった航空会社のデザインワークに着目し、そのアイテムを雑誌の紙面で紹介した。のちに自身の主宰するレーベル「Glyph.(グリフ)」よりエアライングラフィックを集めた書籍『Departure』、続いて『Transit』出版。書籍の流通を担っている取次を通すことなく、自身の販売網で流通させた。あらゆるものに価値付けを行うことで人々の購買意欲を作り出し、販売するまでを個人で行っていたのである。

『Departure』。柳本浩市がコレクションした航空会社のグラフィック・アイテム集。様々な国のチケット、搭乗券、タグ、パッケージ、ステッカー、機内食のパッケージ類などが収録されている ©Nacása & Partners
『Departure』。柳本浩市がコレクションした航空会社のグラフィック・アイテム集。様々な国のチケット、搭乗券、タグ、パッケージ、ステッカー、機内食のパッケージ類などが収録されている ©Nacása & Partners

ミッドセンチュリーデザインの巨匠デザイナー、オーレ・エクセルを日本に紹介

多くの北欧デザイナーのアイテムを集めていた彼であるが、その仕事として特筆すべきはスウェーデンのデザイナー / コピーライターであるオーレ・エクセルの活動を日本へ紹介したことである。雑誌『pen』(2003年4/1号)にて自身のコレクションのプロダクトを紹介したことが最初のアクションだろう。

「ブームの仕掛け人」と表現されることもある柳本の仕事はいくつかあるが、あくまでも裏方のような立場でブームのきっかけを作り出していたように思う。オーレ・エクセルに関しては、2008年に東京、京都で自身のコレクションを中心に展示を企画しそれらが、多くのデザイン関係者や出版に携わる人間に影響を与えることとなった。その後、柳本はスウェーデンのオーレ・エクセルのオフィスに直談判し、彼がデザインした商品の日本での流通を担った。コレクションし、価値を伝え、販売する。情報と物流の上流から下流までをマネジメントすることでブームは作り出されていったのである。

オーレ・エクセル展の様子。マゼッティ社のコーナーではオーレ・エクセルが手がけたパッケージが並ぶ。
オーレ・エクセル展の様子。マゼッティ社のコーナーではオーレ・エクセルが手がけたパッケージが並ぶ。

Page 2
前へ 次へ

プロフィール

柳本浩市(やなぎもと こういち)

マーケティング、セールス・プロモーションなどに関わる会社員時代を経て2002年Glyph.を設立。自社の製品展開や出版事業をおこなう一方で、KDDI社iidaブランド、サントリーなど、大手企業の主にデザインに関わる商品開発やブランド戦略などに携わる。幼少のころ、植草甚一に影響を受け、ジャズと古本に目覚め、小学1年生からアメリか文化に没入し、古着と家具などの収集を開始。ただ集取するだけではなく、収集物を独自の視点で再編集し、現代の社会背景と照らし合わせて再定義する。雑誌の特集監修や執筆なども行い、社会とデザインの関係性を考察した著書「DESIGN=SOCIAL」(ワークス・コーポレーション)がある。

Category カテゴリー

Latest Articles 最新の記事

What's "Fika" ? フィーカとは

「Fika」はCINRA.NETとVOLVOが送る、北欧カルチャーマガジンです。北欧デザインの思想の基盤を「クラフトマンシップ×最先端技術」と捉え、そこに学びながら、これからのカルチャーやライフスタイルにまつわるコンテンツをお届けします。