Spotify×カセット店waltzの両極対談 激変する音楽業界の未来は?

Spotify×カセット店waltzの両極対談 激変する音楽業界の未来は?

インタビュー・テキスト
柴那典
撮影:田中一人 編集:竹中万季

日本の音楽業界の方々から、無料会員がいることに懸念を持たれていた時期が長かった。(野本)

角田:僕、ちょっと興味のあることを質問していいですか? なぜスウェーデンで生まれたSpotifyが世界最大級のストリーミングサービスになったんでしょうか?

野本:スウェーデンの国の環境もあると思います。人口約1000万人(2017年1月時点)とそれほど大きな国ではないので、政府がIT政策を進めるスピードが速く、インターネットが世界に先駆けて普及した。その結果、音楽を違法にダウンロードして聴くのが一般人にも横行してしまい、音楽業界が潰れそうになってしまったんです。これを救うためには二つの方法があって、ダウンロードよりも便利に音楽が聴ける合法サービスを立ち上げることと、国外展開を進めないといけないということ。これが目標として設定されていた強みがあると思います。

Spotifyの本社はスウェーデンの首都、ストックホルムにオフィスを構える

Spotifyの本社はスウェーデンの首都、ストックホルムにオフィスを構える
Spotifyの本社はスウェーデンの首都、ストックホルムにオフィスを構える

角田:Google PlayやApple Musicと比較して、Spotifyが優れているのはどういうところなんですか?

野本:平たい言い方になりますけど、使いやすいんです。まず人情として、再生ボタンを押したらすぐに聴きたいじゃないですか。ストリーミングだろうがなんだろうが、ちょっと待たされたり途切れたりするとイラっとするし、使わなくなっちゃう。ストリーミングの技術に優れていてストレスが少ないのは大きいですね。それもあって、スウェーデンで違法ダウンロードをしていた人たちも、検索して待たずに聴きたい曲を聴ける便利さからSpotifyに流れてきたんです。

角田:スポティファイジャパンはいつ設立されたんですか?

野本:2013年に設立しました。スウェーデンから来た当時の代表と僕ともう一人で、最初は3人でしたね。日本でサービスをスタートするのに4年かかりまして。予想の2倍くらいかかりました。

左から:野本晶(スポティファイジャパン)、角田太郎(waltz)

角田:それだけ時間がかかったのはなぜだったんでしょう?

野本:Spotifyはフリーミアムモデルといって、有料会員を増やすために無料会員でも音楽が聴けるようにしているんです。無料では広告や制限がついて、月額980円の有料会員になれば、広告も制限もなく利用することができます。

僕らは、無料で音楽を聴けるようにすることが音楽好きを増やすためになると言い続けてきた。しかし、日本の音楽業界の方々から、無料会員がいることに懸念を持たれていた時期が長かったんですね。みんなフリーでしか音楽を聴かなくなっちゃって、ビジネスにならなくなるんじゃないかと心配されていたことで、かなり引っ張っちゃったんです。

角田:ああ、なるほど。結局、交渉に時間がかかったと。

野本:そうです。レコード会社も、アーティストも事務所もマネージャーさんも含めて、音楽業界全体にようやく理解をしてもらったという。

野本晶(スポティファイジャパン)

―現状、すべての楽曲がSpotifyに公開されているわけではないですよね。

野本:残念ながらまだですね。

―この先の進展はどんな感じなんでしょうか?

野本:音楽業界にいる人はそもそも音楽好きですから、Spotifyを触ったら、かなりの確率で「これは音楽を聴くツールとしてはかなりいいよね」と言ってもらえるんです。だから、かなり浸透し始めている。新規に参加していただけるレーベルやアーティストも増えていますね。

デジタルとアナログが敵対するなんておかしい話。いろんな形で音楽業界を盛り上げなくてはいけない。(角田)

―アーティストやレーベル側に、最初は「無料で聴かれたらビジネスにならないんじゃないか」という懸念があったということですが、そのあたりは解消されている実感はありますか?

野本:先日テイラー・スウィフトのカタログがSpotifyに戻ってきましたが、ストリーミングに異論のあるアーティストもまだいるので、もうちょっと時間がかかりますかね。ただ僕らは、無料会員が聴いても有料会員が聴いても、どちらも同じ価値としてアーティストにお金を支払ってるんですね。広告が入っても入らなくても、有料会員の数が少なくても、1再生あたりの最低支払い額を保証している。動画共有サービスを含めても、最低保証があるサービスは世界で唯一なんです。

僕らはアーティストにどういう仕組みでお金が支払われているのか、かなり透明性高く公開しているんですね。まだ英語サイトしかないですけれど、Spotifyのアーティスト専用サイトにすべて載っています。

Spotifyのアーティスト専用サイト
Spotifyのアーティスト専用サイト

―これはリスナーも見られるんでしょうか?

野本:リスナーも見られますね。ただ一つ単価の話があって、CDやレコードやカセットテープは一度買えば一生聴ける権利分の金額ですが、ストリーミングは一回聴く分の金額なので、比べると単価が安い。だからこそ、アーティストにとってはもっとたくさんの人に聴いてもらわなきゃいけない。その方法を考えていくことが僕らの仕事ですね。

角田:ストリーミングサービスはいろんなところが立ち上げてるし、競争になっていると思うんですよ。成功するところ、成功しないところが出てくると思うんですけれども、僕はSpotifyには成功してほしいなと思いますね。使ってみてすごく面白かったですから。

―デジタルなストリーミングも、アナログなカセットテープも、音楽好きのコミュニティーの中で共存していくわけですね。

角田:敵対するなんてまったくおかしい話で、そもそも僕の中で共存してますからね。ストリーミングが好きな人もいればダウンロードして聴くのが好きな人もいるだろうし、CDに思い入れのある人もいれば、レコードやカセットを買っている人もいる。みんな音楽が好きなわけだから、どんな形でもいいと思うんですよね。

否定しあうものでもないですし、みんなでいろんな形で音楽業界を盛り上げていかなくてはいけない。ラジオや雑誌などのメディアも含めて、知恵を使って連携していく必要があると思いますね。僕自身も、音楽業界に貢献できることがあったらいくらでもやりたいなと思います。

左から:野本晶(スポティファイジャパン)、角田太郎(waltz)

Page 4
前へ

プロフィール

野本晶(のもと あきら)

1970年生まれ、愛媛県出身。スポティファイジャパン株式会社でライセンス&レーベルリレーションズディレクターを務める。ソニーミュージック、ソニー・コンピュータエンタテインメント(現・ソニー・インタラクティブエンタテインメント)、ゾンバ・レコーズ・ジャパン、ワーナーミュージック・ジャパンを経て、2005年からiTunes株式会社にてミュージック担当としてiTunes Storeの立ち上げに参加。2012年9月より現職。

角田太郎(つのだ たろう)

1969年生まれ、東京都出身。CD・レコードショップの「WAVE」でバイヤーを経験後、2001年にアマゾンジャパンに入社。音楽、映像事業の立ち上げに参画し、その後、書籍事業本部商品購買部長、ヘルス&ビューティー事業部長、新規開発事業部長などを歴任し、2015年3月に同社を退社。同年8月、中目黒にカセットテープやレコードなどを販売するセレクトショップ「waltz」をオープンした。

Category カテゴリー

Latest Articles 最新の記事

What's "Fika" ? フィーカとは

「Fika」はCINRA.NETとVOLVOが送る、北欧カルチャーマガジンです。北欧デザインの思想の基盤を「クラフトマンシップ×最先端技術」と捉え、そこに学びながら、これからのカルチャーやライフスタイルにまつわるコンテンツをお届けします。