LGBTや性教育の先進国、スウェーデンの若者文化を知る映画

実は、スウェーデンはLGBTや性教育の先進国。映画に映るユースカルチャーから読み解く

北欧映画の魅力を紹介し、2011年からこれまでに100本ほどの作品を上映してきた『トーキョーノーザンライツフェスティバル』(以下、『TNLF』)がおすすめの北欧映画を紹介するこの連載。第2回目となる今回は、「スウェーデンのユースカルチャー」に注目します。

実は、スウェーデンはLGBTの先進国であり、性教育について早くから取り組んでいた国でもあります。1960年代から2000年代にかけて、時代によって移り変わっていくスウェーデンの社会的背景を、映画に映るユースカルチャーから読み解いていきます!

過激な性描写の背後に、政治的メッセージが浮かぶ『私は好奇心の強い女』

1967年に製作された『私は好奇心の強い女』は、当時、最もスキャンダラスな映画として世界中にセンセーションを巻き起こしました。アメリカで上映を巡って訴訟問題になったり、日本では45か所もカットされて上映されたりなど、性描写の過激さが注目されることが多いのですが、今回はその中で描かれるユースカルチャーの部分にスポットを当てたいと思います。

本作はフィクションでありながらも、主人公のレナ・ニーマンと監督のヴィルゴット・シェーマンは本人役で出演。演劇学生のレナがシェーマン監督の依頼で政治や社会問題についての街頭インタビューを始め、やがてぼんやりと政治に目覚めていくというストーリーです。実際のインタビュー映像を使用したり、ときに撮影隊も映り込むなど、ドキュメンタリー要素を取り込んだ実験的手法は、50年経った今もなお、新鮮で刺激的です。

1960年代後半は、学生運動が世界各国で盛り上がり、ユースカルチャーにも政治が色濃く反映されていた時代。アメリカのベトナム反戦運動、公民権運動、女性解放運動といった市民運動が世界中に広まり、カウンターカルチャーに大きな影響を与えました。インタビュー映像からはそういった社会的背景や、他国からは「男女平等で福祉国家な国」と見られていた一方で、実際は格差を抱えていたというスウェーデン社会の実態が浮かび上がってきます。ミュージシャンがベトナム反戦を音楽で表現したように、政治的なメッセージをポップカルチャーとして発信した本作は、当時のユースカルチャーそのものでもありました。

性教育が最も早い国ならではのオマセな恋愛を描く『スウェーディッシュ・ラブ・ストーリー』

『スウェーディッシュ・ラブ・ストーリー』©2003 Studio 24 Distribution
『スウェーディッシュ・ラブ・ストーリー』©2003 Studio 24 Distribution

日本では1971年に『純愛日記』というタイトルで公開され、2008年にリバイバル上映された『スウェーディッシュ・ラブ・ストーリー』は、『さよなら人類』のロイ・アンダーソン監督の長編デビュー作です。15歳のペールと14歳のアニカのラブストーリーと、彼らを取り巻く大人たちの孤独を描いていますが、ここでは当時のティーンの生態を見ていきたいと思います。

身内のお見舞いで偶然出会ったペールとアニカ。二人とも休日は家族と過ごしていますが、仲間といるときは革ジャンを羽織り、タバコをふかし、バイクを乗り回し、挙句ディスコにも出かけていきます。すれ違いながらも距離を縮め、やがて付き合い出した二人は、アニカの家で両親の不在時に一夜を共にします。14歳と15歳の若さで、です。

『私は好奇心が強い女』がスウェーデン本国ですんなりと上映された要因の一つとして、「性教育が進んでいたから」という理由があるようですが、スウェーデンは性教育の義務化が最も早く、1955年には小中学校のカリキュラムへの導入が必修化されています。それもあって、このような描写もスウェーデン人にとっては自然なのかもしれません。

『スウェーディッシュ・ラブ・ストーリー』©2003 Studio 24 Distribution
『スウェーディッシュ・ラブ・ストーリー』©2003 Studio 24 Distribution

アニカ役のアン=ソフィ・シーリンがとにかくかわいく、彼女のファッションにも注目です。パステルイエローのマイクロミニのワンピースに革ジャンを合わせたり、黒の半袖ブラウスにベルトの大きな白いミニプリーツスカート、パフスリーブのネグリジェもかわいいし、なんといっても14歳の設定なので、常にフラットシューズなのが最強です。

北欧はメタルだけじゃない。「北欧パンク」に染まる少女たちの青春ドラマ『ウィ・アー・ザ・ベスト!』

『ウィ・アー・ザ・ベスト!』VI ÄR BÄST!/WE ARE THE BEST!  COPYRIGHT ©2013 MEMFIS FILM RIGHTS AB
『ウィ・アー・ザ・ベスト!』VI ÄR BÄST!/WE ARE THE BEST! COPYRIGHT ©2013 MEMFIS FILM RIGHTS AB

2013年に『第26回東京国際映画祭』のコンペティション部門で最高賞を受賞した『ウィ・アー・ザ・ベスト!』。監督であるルーカス・ムーディソンの妻、ココ・ムーディソンの自伝的グラフィックノベルを原作とした、1982年のストックホルムが舞台の青春ドラマです。楽器経験はないもののパンクが大好きな13歳のボボとクラーラ、1歳年上でギターがうまいヘドウィグ。家庭環境も性格もまったく違う少女たちがバンドを結成し、ときにぶつかり合いながらも友情を深めていく姿が描かれています。

1970年代の半ばにイギリスやアメリカをはじめパンクが世界各地に広がっていくなかで、スウェーデンにも伝播していきました。1977年には劇中に「どっち派?」という会話の中でも出てくるKSMBやEbba Grönといったパンクバンドが誕生し、Sex Pistolsがスカンジナビアツアーを行ったことで北欧パンクシーンは一気に盛り上がったと考えられます。しかし、そのSex Pistolsも、翌年1978年には解散。スウェーデンでもKSMBは1982年に、Ebba Grönは1983年に解散して、パンクブームが下火になっていきました。ちょうどその頃、北欧メタルの先駆者であるスウェーデンのバンドEUROPEが登場し、北欧は世界的なヘヴィメタルの流行の発信地へと発展を遂げるのでした。

「パンクは死んだのよ」とバカにする学校のイケてる女子たちは、当時大ブームが起きていたテクノポップバンドThe Human Leagueの曲で踊りながら男子の注目を浴びています。そんな同級生たちに反発し、教師にも腹を立て、家庭にも不満がいっぱいの彼女たちは、パンクに青春をぶつけようとしますが……。

三人が会いに行ったボーイズバンドが「ブレジネフ、レーガン、ファックオフ!」と当時のソ連の書記長と米国大統領について批判した歌を歌っていたり、スウェーデンでは1980年に原発についての国民投票が行われたこともあり、原発問題について言及するシーンもあります。どこまで理解をしているかは不明ですが、反体制的な姿勢もまたパンク精神であると言えるでしょう。

LGBT先進国、スウェーデン。同性愛の冷やかしを乗り越える少女たちの恋愛物語『ショー・ミー・ラヴ』

またまた、ルーカス・ムーディソンです。これまでご紹介した三作品は、首都ストックホルムに生きる都会の若者たちの物語でしたが、今度は田舎町のオーモール(Åmål)が舞台です。邦題の『ショー・ミー・ラヴ』は英題そのままですが、原題は『Fucking Åmål』。田舎町で鬱屈とした毎日を送る少女たちの恋と青春を描いたムーディソン監督の長編デビュー作です。

毎日が同じことの繰り返しで、ここではないどこかを夢見る少女たち。いつの時代もどこの国でも描かれている物語だけど、少し違うのは、都会から引っ越してきた16歳の少女アグネスが恋心を抱いているのが、2つ年下の女の子エレンだということ。正反対の性格の二人はやがて急速に近づくけれど……。

北欧諸国はLGBT先進国でもあり、デンマークとノルウェーに続いて、スウェーデンでは1995年に同性パートナーシップ法が制定されています。また、ゲイフレンドリーな国ランキング(ドイツの国際的なゲイ専門旅行ガイドが定めたもの)で1位に輝いたこともあり、現在は多くの場所で男女共用トイレが整備されているほど。しかしながら、どんなに国の政策が進んでいたとしても、舞台である1998年のオーモールでは、レズビアンであることはスキャンダラスに捉えられ、冷やかしの対象であったようです。でも、アグネスとお互いの気持ちを確かめ合ったエレンは高らかに宣言します。「私の新しいガールフレンドよ。道をあけて。通りたいの」。思い出すだけで、胸と目頭が熱くなるセリフです。

ムーディソン監督は、10代の女の子たちの複雑で繊細な心理を丁寧にすくい取り、一見きらきらとした青春映画をベースにしながら反骨精神を盛り込み、デビュー作で一躍スウェーデン映画界の旗手となりました。ちなみに、ロシアのガールズユニットt.A.T.uのコンセプトは本作に着想を得ているそうです。

実際に起きた子ども同士の恐喝事件から、移民政策の歪みを暴く『プレイ』

『プレイ』は『フレンチアルプスで起きたこと』のリューベン・オストルンド監督による2011年の作品で、同監督の『The Square』は『第70回カンヌ国際映画祭』で最高賞のパルムドールを受賞しています。スウェーデンの第二の都市であるヨーテボリのショッピングモールで、白人の少年たちに因縁をつけ、携帯電話を取り上げてしまう移民の少年たち。彼らにとってそれはゲームの始まりに過ぎず、やがて被害者の少年たちを巧妙な手口で心理的に追い詰めていきます。

ビレ・アウグスト(デンマークの映画監督)の『ペレ』やヤン・トロエル(スウェーデン・マルメ出身の映画監督)の『移民たち』でも描かれているように、新天地を求める貧しい農民たちを国外へ送り出し続けた歴史を経て、スウェーデンは移民政策でも先進国になりました。ところが、近年、その政策の歪みを指摘するニュースを目にすることが多くなっています。

『プレイ』では、そういった社会によって二分化してしまった街の子どもたちの様子が描かれ、具体的な描写はなくとも、着ているものや持ち物から貧富の差がうかがえます。また、被害者の少年たちは大人に助けを求めますが、加害者の少年たちに大人の気配は感じられず、彼らにとって大人たちは頼るべき存在ではないであろうことが語られています。

実際に起きた恐喝事件を元に描かれているのですが、ワンシーン、ワンカットの映像がもたらす臨場感がその場に居合わされているような気分にさせられ、一方的に見ることしかできない観客は、劇中に出てくる無関心な大人たちと同じスタンスに立たされている状況になります。大人として、自分ならどういう態度を取るのか。そして、この事件が起きた背景についてどう考えるのか。子どもたちの間で起きた一つの事件を通して、とても大きな課題が突き付けられます。オストルンド監督、恐るべし。

今回はスウェーデンのユースカルチャーに触れることができる映画をご紹介しました。その土地の言語や風景から旅気分を楽しめるほか、社会的背景やライフスタイルを知ることができるのも映画の魅力の一つ。次回以降も、北欧各国の文化が感じられる映画を紹介していきます。

リリース情報
『スウェーディッシュ・ラブ・ストーリー』(DVD)

2008年11月28日(金)発売
価格:5,076円(税込)
(株)ハピネット

プロフィール
トーキョーノーザンライツフェスティバル

2011年から毎年2月に開催しており、新旧の北欧映画の選りすぐりの傑作をこれまでに約100作品上映。音楽やアート、食などでも北欧の文化を発信している。



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「幸福度が高い」と言われる北欧の国々。その文化の土台にあるのが「クラフトマンシップ」と「最先端」です。

湖や森に囲まれた、豊かな自然と共生する考え方。長い冬を楽しく過ごすための、手仕事の工夫。

かと思えば、ITをはじめとした最先端の技術開発や福祉の充実をめざした、先進的な発想。

カルチャーマガジン「Fika(フィーカ)」は、北欧からこれからの幸せな社会のヒントを見つけていきます。

スウェーデンの人々が大切にしている「Fika」というコーヒーブレイクの時間のようにリラックスしながら、さまざまなアイデアが生まれる場所をめざします。

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