ナカコーインタビュー その審美眼で選ぶ、オススメの北欧音楽10曲

スウェーデンのABBAやThe Cardigans、アイスランドのビョークやSigur Rosなど、各国がそれぞれの文化を築き、個性的なアーティストを輩出している北欧の音楽シーン。その背景には、昔ながらのクラフトマンシップと最先端技術との融合があり、ビョークはまさにその代名詞だと言えよう。

そこで今回は一昨年にTwitter上で「100年後も残ってほしい曲」として100曲を紹介するなど、いちリスナーとしても独自の審美眼を持つ、ナカコーことKoji Nakamuraを迎え、「オススメの北欧音楽10曲」を挙げてもらった。

また、昨年オンラインショップ「meltinto」を立ち上げるなど、デジタルとアナログを横断しながら、「音楽の残り方」の模索を続けるナカコーに、現在の行動原理についても話を訊いた。

ヨーロッパは楽器と音楽が表現の中で合致していて興味深いですよね。

―ナカコーさんは「北欧の音楽」に対して、どのようなイメージをお持ちでしょうか?

ナカコー:近代的なものであれば、ビョークが一番に浮かびますけど、伝統音楽も面白いものがいっぱいありますよね。北欧のみならず、ヨーロッパは弦楽器ひとつとってもさまざまで、電子楽器も、自分でオリジナルのマシンを作って演奏する人たちが多かったり。楽器と音楽が表現の中で合致していて興味深いですよね。そういうのは西洋人の根底にある部分なのかなって。

Koji Nakamura
Koji Nakamura

―ご自身の表現において、北欧の音楽からどんな部分で影響を受けていると言えますか?

ナカコー:僕にとって、「この人はどこの国で」っていうのはあんまり関係なくて、鳴っている音で判断します。例えば、今回のリストで挙げているリッキ・リー(スウェーデンのシンガーソングライター)は、彼女がデビューしたときに聴いて、面白いアプローチをしていたので、「だったら、こう解釈してみよう」とか色々考えましたけど、彼女が北欧の出身だっていうのを知ったのは、後からなんです。なので、意図的ではなくとも、実は影響を受けているかもしれない。

―そのリストに関してですが、最近のナカコーさんの趣向からして、アンビエントとかドローン系のアーティストが並ぶのかもと思ったのですが、思いの外ポップな印象を受けました。

ナカコー:いま言ったように、あんまり僕は「この人はどこの国で」って考えないので、改めて北欧のバンドや音楽を調べながら、「この人、北欧だったんだ」って感じで選んでいきました。

Koji Nakamura

1曲目:Bjork / Hyperballad (アイスランド)

ナカコー:ビョークは「北欧」で選ぶなら絶対入りますよね。彼女は、音楽におけるテクノロジーと表現の関係性と可能性を、かなり大きく広げたと思います。“Hyperballad”は一番好きな曲です。1996年の曲ですけど、いま聴いても美しいバランスだなって。いまもこれを目指して多くの人がミックスをしていると思うし、それだけこのサウンドは強いメッセージだったんだなって思います。

2曲目:The Royal Concept / Gimme Twice(スウェーデン)

ナカコー:デビューしたときにYouTubeでこの曲のビデオを見て、「いい曲書くな」って思ったのを覚えています。当時はAnimal Collective以降、わりとゴチャゴチャしたアメリカのバンドが多かった中で、彼らは凛とした感じがありました。ストレートなハーモニーとメロディーの強さが自分好みだし、印象的でしたね。

Koji Nakamura

3曲目:トッド・テリエ / Roxy Music - Love Is The Drug(Todd Terje Disco Dub)(ノルウェー)

ナカコー:一時期トッド・テリエをよく聴いてたんですけど、今回初めて「彼も北欧なんだ」って知りました。すごく気の利いたミックスですよね。派手にしていくんじゃなくて、本質的なちょっとした部分で盛り上げていく感じが好きです。彼の音楽はパッと聴きでは明るいですけど、根底に流れているのはディープなハウスとかミニマルで、そういった部分をRoxy Musicのミックスでオシャレに表現してるのがいいなって。

4曲目:リッキ・リー / Dance Dance Dance(スウェーデン)

ナカコー:彼女のデビューアルバム(2008年、『Youth Novels』)はかなり新鮮でよかったです。すごくオリジナルな表現をしていたというか、サウンドの構造からして、「既存のものとは違うものを作ろう」ということを意識的にやっていたんだと思います。

それでいて派手にすることなく、ポップスとしても聴けるけど、深く入っていくアンビエントな音楽としても聴ける新しさがありました。一音一音をちゃんと聴かせるために無駄を排除して作られていて、すごくセンスがいいです。

ナカコーが用意した手書きの選曲リスト
ナカコーが用意した手書きの選曲リスト

5曲目:Iceage / You're Blessed(デンマーク)

ナカコー:彼らのことも、もともと北欧だとは思っていなかったんですけど、彼らのデビュータイミングくらいのアメリカでのライブ映像がすごく印象的で、「新しいことをやってやる」って感じました。僕は彼らのことをノイズ~アンビエント的な「現象」として聴いていたんです。

ライブスタイルもマスっぽくないというか、ラッピングされてなくて、すごくよかった。1980年代のハードコア、1990年代にNIRVANAがシアトルの小さいレコ屋でやる感じ、2000年代にLIGHTNING BOLTがフォートサンダー(LIGHTNING BOLTが仲間内で借りていたウェアハウス)でやる感じ、それを2010年代にYouTubeを使ってバンバン見せていくっていう、ある種象徴的な存在だったんじゃないかな。

6曲目:Amiina / Rugla(アイスランド)

ナカコー:僕Sigur Rosはあんまり通ってないんですけど(AmiinaのメンバーはSigur Rosのバックを務めている)、最初ジャケットを見て気になったんです。わりと音響的な感じで聴いていたんですけど、ライブの動画を見たら、それこそオモチャのようなものも含め、不思議な楽器を使っていて。

そういうスタイルからヨーロッパの北の方の人たちなんだろうなって思っていました。彼女たちみたいなスタイルでやっている人は他にもいたんですけど、サウンドをぼやかす方向に行きがちな中で、彼女たちの表現は手触りがくっきりしていたので面白かったです。

Koji Nakamura

7曲目:The Cardigans / Carnival(スウェーデン)

ナカコー:「北欧」っていうテーマで選ぶってなると、ビョークとThe Cardigansはすぐに浮かびました。なぜか自分が高校生くらいのときにすごく流行っていて。当時北欧的なものを押し出そうっていう働きかけがあったのかな、それは誰がやったんだろうって。とにかくこの曲がすごく流れていて、当時の少年・青年たちに「北欧」の雰囲気を刷り込ませたバンドだと思います。

8曲目:The Raveonettes / Love In A Trashcan(デンマーク)

ナカコー:露骨にThe Velvet Underground(デヴィッド・ボウイなどにも影響を与えたとされるアメリカのロックバンド。ロックの殿堂入りも果たしている)っぽかったり、The Jesus And Mary Chain(1984年に結成されたスコットランドのオルタナティブロックバンド)っぽいバンドはあんまり好きじゃないんですけど、この人たちは露骨を通り越して、パロディーに近かったので好きですね。

本人たちはそう思ってないだろうけど、聴いている側からすると、パロディーにも聴こえる。でも、そこまでのクオリティーにするのって大変なことなんですよね。もしThe Velvet Undergroundが現代にいて、「いまの素材を使ったら、こうなります」っていう、ひとつの回答例だと思う。そこが非常に面白いです。デンマークとかノルウェーの1980年代のカセットカルチャー、ミニマルウェイブとかコールドウェイブから影響を受けているのかもしれないですね。

9曲目:ABBA / Dancing Queen(スウェーデン)

ナカコー:もうレジェンドですから、僕が生まれた瞬間からデフォルトとしてあるものですよね。当時はABBAだって認識もなかったし、当然北欧だって認識もなかったですけど、子どもの頃から焼き付いています。大人になって改めて掘ってみると、いい曲がいっぱいありますね。

10曲目:Ace of Base / The Sign(スウェーデン)

ナカコー:実は当時はだっせえエレクトリックミュージックに聴こえて……。商業的な音作りで大ヒットしていたから「嫌な曲」ってイメージであんまり好きじゃなかったんです(笑)。でも、「そういえば、流行ってたな」っていま改めて聴いてみると、純粋に「いい曲じゃん」って思ったし「いまだったら聴けるな」っていうものでした。

Koji Nakamura

空間と音楽の溶け込み方が自分にとって居心地がいいか悪いかを判断するだけ。

―では、ここからはこのサイトのテーマである「クラフトマンシップ」と「最先端技術」をキーワードに、近年のナカコーさんの活動についてお伺いしたいと思います。

昨年オンラインショップ「meltinto」をオープンされていますが、音源をデータで販売して、SoundCloudでの試聴もできる一方で、ハンドメイドのCD-Rやカセットテープも売っているというのは、まさに「クラフトマンシップ」と「最先端技術」が共存している場だと感じました。実際には、どういった目的意識を持って、サイトを立ち上げたのでしょうか?

ナカコー:いま音楽が置かれている状況を考えたときに、お店とレコード会社とアーティストの関係性が、ずっといまのままのはずはないと思って、可能性を広げたいと思ったんです。

僕がいま好きで聴いているミュージシャンの多くも、自分たちで好きなように作って、自分たちで販売している。なので、僕も何か試したいと思って、まずBandcampを使い始めたんです。でも、少し前までは全部英語で、日本の若い人にはちょっとハードルが高かったんですよね。

Koji Nakamura

―いまでこそ日本語も対応していますが、一昔前はそうでしたね。

ナカコー:いま僕が使っているBASEに関しても、ちょっと前から同じ仕組みはあったんですけど、当時はまだできないことも多かった。でも、いまのBASEの仕組みは、僕の「もっと自由にできないかな」っていう考えと、ちょうどクロスしました。

―「meltinto」という名前は、「日常空間の中に溶け込む音楽」という意味合いかなと思ったのですが……。

ナカコー:この名前を付けたのは、「ウェブ空間に自分の音楽を溶け込ませる」という意味です。物体による残り方と、ウェブ空間での残り方と、音楽はどちらが長く残るのかって考えてみると、物体であれば再生装置が必要で、再生装置の基準がアップデートされると、限られた人しか聴けなくなる。

でも、ウェブ空間は等しく平等に再生することが可能ですよね。なので、ウェブの中に自分の楽曲が溶け込んでいるっていうのはいいなって。とはいえ、物体にも興味はあるので、情報という空間に物体を溶け込ませるっていう思いも込めています。

オンラインショップ「meltinto」
オンラインショップ「meltinto」(サイトを見る

―「meltinto」ではKoji Nakamura名義で『Texture』というアンビエント~ドローン系の音源を定期的に発表していて、これはもともとライブ会場限定のCD-Rだったものを、オンラインでも販売するようになったものですよね。このシリーズはどういった意図のもとに作られているのでしょうか?

ナカコー:極めて個人的な作品なので、極めて個人的な場所で販売して、それをいいと思う人が買えばいいだけのことだと思って作りました。例えば、レコード会社から出るものやコマーシャルの曲なんかは、いろんな人の意見が入った、自分の好きな表現の作品。一方で『Texture』は、僕という個人の表現が本当に純粋にできる唯一の作品なんです。

―ナカコーさんは先日カセットレーベルと組んでアンビエントに特化したイベント(『Hardcore Ambience』)を始めたり、近年日常空間の中に溶け込む音楽の提案をされている印象があります。例えば、アイスランドは生活と音楽の距離が近いイメージがあって、東京はまたちょっと違うなって思ったりもするのですが、ナカコーさんはその距離感についてどのような考えをお持ちですか?

ナカコー:音楽と生活、場所の距離感については、そこが自分にとって居心地がいいか悪いかを判断するだけです。どんなにいい曲がかかっていても、そのとき居心地が悪ければ出て行くし、音楽と空間が溶け込んでいる場所があればいいなということしか考えてないですね。

―「居心地のいい空間がもっと増えたらいい」という発想で音楽を作ったりもしますか?

ナカコー:居心地のいい空間が増えたらいいなとは思うけど、何か働きかけをするつもりはなくて、みんながそれぞれ判断すればいいと思います。僕自身、自分の生活エリアでいいなって思う場所を選んでいくだけだから、みんなそれぞれいいと思う空間に行けばいいと思う。いい空間は残るし、悪い空間は残らない。選ぶのはみんななんです。

プロジェクト情報
『Epitaph』

ストリーミング限定のプロジェクト。Koji Nakamuraの新作でありながら、収められる楽曲やバージョン、曲順などが随時変わっていくという。Spotify、Apple Music、LINE MUSICなどの音楽ストリーミングサービスでは4月26日からプレイリスト「地図にないルート」が先行で公開。第1弾として、『直木三十五賞』を受賞している作家の唯川恵が作詞を手掛けた楽曲“地図にないルート”と、バージョン違いとなる“地図にないルート feat. moekashiotsuka”、Madeggとのコラボレーション曲“Open Your Eyes 13 Mar. 2017”の3曲が配信されている。今後も随時更新予定。

プロフィール
Koji Nakamura (こうじ なかむら)

通称ナカコー。1995年地元青森にてバンド「スーパーカー」を結成し2005年解散。ソロプロジェクト「iLL」や「Nyantora」を立ち上げる。その活動はあらゆる音楽ジャンルに精通する可能性を見せメロディーメーカーとして確固たる地位を確立し、CMや映画、アートの世界までに届くボーダレスなコラボレーションを展開。現在はフルカワミキ(ex.スーパーカー)、田渕ひさ子(bloodthirsty butchers, toddle)、そして牛尾憲輔(agraph)と共にバンド「LAMA」として活動の他、現代美術作家の三嶋章義(ex. ENLIGHTENMENT)を中心にしたプロジェクト、MECABIOtH(メカビオス)でも活動した。また、2014年4月には自身の集大成プロジェクトKoji Nakamuraを始動させ「Masterpeace」をリリース。



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「幸福度が高い」と言われる北欧の国々。その文化の土台にあるのが「クラフトマンシップ」と「最先端」です。

湖や森に囲まれた、豊かな自然と共生する考え方。長い冬を楽しく過ごすための、手仕事の工夫。

かと思えば、ITをはじめとした最先端の技術開発や福祉の充実をめざした、先進的な発想。

カルチャーマガジン「Fika(フィーカ)」は、北欧からこれからの幸せな社会のヒントを見つけていきます。

スウェーデンの人々が大切にしている「Fika」というコーヒーブレイクの時間のようにリラックスしながら、さまざまなアイデアが生まれる場所をめざします。

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