戸田真琴と考えるアイドル業界の歪み。一方的に夢見るだけじゃない「推し活」を

戸田真琴と考えるアイドル業界の歪み。一方的に夢見るだけじゃない「推し活」を

2021/12/27
テキスト
戸田真琴
撮影:飯田エリカ 編集:石澤萌、CINRA編集部

アイドル文化はキャラクター消費のうえに成り立っている

一般社会においては、長らく問題提起と議論を繰り返してきた結果、完全ではないにしろ一昔前よりはあきらかに「女らしさ」「男らしさ」を規範とした抑圧は緩和してきたように思います。それはミュージシャンや俳優など文化芸術に関わる領域にも浸透し、近年では氷川きよしさんのジェンダーレスなふるまいをはじめ、エンタメ業界においても明確な男女どちらかを名乗ること以外の存在の仕方も受け入れられるようになってきました。

しかし、「アイドル」という領域に目を向けると、時代の進歩とはまた別の、時が止まっているような感覚にさせられることがあると感じます。アイドル文化は多くの場合、「男性アイドル」「女性アイドル」という性別によるカテゴリに分けられます。そしてそれらは、異性のファン層をメインターゲットに捉えて活動を行なっている場合が多いです。もちろん韓国の女性アイドルグループを熱狂的に応援する女性ファンたちの姿や、嵐などジャニーズグループのコンサートに足繁く通う男性ファンなどさまざまなファン層の獲得に成功しているグループはあり、一概には言えませんが、アイドルを扱う雑誌などを見ると多くの場合はやはり異性ファンの獲得を目的にプロデュースされている場合が多いと感じます。

近年では女性向け雑誌として男性アイドルの過激とも言える肌見せグラビアやセックス特集など露骨な性的コンテンツでのアイドル起用が目立ったり、一方で女性アイドルは水着グラビアNGや露出度の低い衣装で清楚な印象を貫くグループが支持されていたりと、男性向け / 女性向けの特色をはっきりと切り分けて論ずることは難しいことだと感じます。しかし、草食系男子のブームや個性の強い女性アイドルのブームによって表面上はジェンダーが解きほぐされ多様化してきたようにも見えますが、その実、「アイドル」というものが過度なキャラクター消費の文脈の上に立たされがちである事実も拭えません。

要するに、「男らしい」も「女らしい」も「(男性なのに)繊細」も「(女性なのに)強くて個性的」も、はじめは個々の持っていた性質であったにもかかわらず、「そういうキャラクター」として単純化され認識されてしまうということが往々にして起こっているのです。

戸田真琴

「可愛いね」「太ったね」の一言が与えてしまうかもしれない、精神的苦痛

アイドル文化はポップカルチャーであり、エンタメに位置づけられます。エンタメと芸術の違い、アイドルとアーティストの違いのひとつに「よりスムーズに快楽にありつけるか」という見えない規範があると個人的には感じています。アーティスト性というものは、その魅力を理解するまでの回路が複雑であってもそれを紐解く過程までを含めてアーティスト性として見られますが、アイドルの場合はより魅力がわかりやすく即物的であることが求められているような気がします。

その一端を担っているのが、アイドルたちが自らのキャラクターを「元気な子」「クールな子」「おっちょこちょいな子」のように固定化して振る舞うことです。視聴者が「魅力」を感じ取るまでの回路の単純化に貢献しており、日々へのうるおいやストレスの昇華(=即物的な快楽)を求めているアイドルファンにとってそのシステムが都合いいのではないかというのが私の持論です。アイドル業界というものは、視聴者にスムーズに快楽を享受させることで、第一目的である経済的利益を得ており、そこに立っている人々はより人目を引くため、より「推しやすい」アイドルになる。そのために、自らの魅力を無自覚に「らしさ」の枠に閉じ込めざるを得ない流れが読み取れます。それは結果として、特定のカテゴリに充満するステレオタイプの強化と再生産に関与することにもなります。

この特色は、アイドルがファンに対して弱い立場になりやすいという状況により、さらに深刻な被害をもたらします。たとえば、アイドルに対してファンが「ちょっと太ったね」「疲れてる?」「顔が丸いね」「痩せすぎだね」などと身体的変化や特徴を指摘するコメントをしているところを見た人もいるかと思います。上記のような、容姿について感じたことを深く考えずに本人に指摘してしまうコミュニケーション力の不足から来る事例もあれば、もっと悪意のあるいじりや、時には「もっとこういう容姿にならないと推せない」「前髪を切ってくれないと推し変する」など上から目線で相手を想う通りのビジュアルになるよう操作しようとする人さえいます。これらに代表される容姿への指摘は「ボディ・シェイミング」と呼ばれ、容姿への指摘で羞恥心やコンプレックスを煽り精神的優位に立とうとするファン心理は有害な支配欲としてアイドル活動をする人たちに非常に深刻な精神的ストレスを与えています。

また、ネガティブな指摘だけでなく、「今日ビジュアル優勝してるね」「◯◯は三枚目枠だよね」などの一見容姿やキャラクターを褒めているつもりの言葉も、冷静になると実際の人間関係では口にしない強烈なものがたくさんあります。消費者が他者の容姿や性格や性質に対し、一方的に評価を下すことが当たり前になっている環境には、少なからず歪みがあるのだということを忘れてはなりません。

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プロジェクト情報

『I’m a Lover, not a Fighter.』

AV女優 / 文筆家として活動する戸田真琴と、盟友である「少女写真家」飯田エリカによる、「グラビア」を見つめ直すプロジェクト。

配信情報

『Podcast 戸田真琴と飯田エリカの保健室』

毎週月曜日20時に、Apple Podcast、Spotifyほかで配信中。

書籍情報

『人を心から愛したことがないのだと気づいてしまっても』

2020年3月23日(月)発売
著者:戸田真琴
価格:1,650円(税込)
発行:KADOKAWA

『あなたの孤独は美しい』

2019年12月12日(木)発売
著者:戸田真琴
価格:1,650円(税込)
発行:竹書房

プロフィール

戸田真琴(とだ まこと)

2016年より活動開始。その後、趣味の映画鑑賞をベースにコラムなどを執筆し、現在はTV Bros.で『肯定のフィロソフィー』を連載中。ミスiD2018を受賞。愛称はまこりん。著書に『あなたの孤独は美しい』(竹書房)、『人を心から愛したことがないのだと気づいてしまっても』(KADOKAWA)。2021年より、少女写真家の飯田エリカとともにグラビア写真を再定義するプロジェクト「I‘m a Lover, not a Fighter.」をスタート。ディレクション・衣装スタイリング・コピーライティング等を務める。

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