Teenage Engineering OP-1のシンセ革命 10周年を機に考える

Teenage Engineering OP-1のシンセ革命 10周年を機に考える

2021/12/03
テキスト・編集
山元翔一
イラスト:ケント・マエダヴィッチ 取材協力:三船雅也(ROTH BART BARON)、Kuro(TAMTAM)

10年前に発表されたOP-1が、いまなお最先端であり続ける理由

2011年に発表されたOP-1は、OSのアップデートによって新しい音色や機能が追加・拡張され続け、完成されることなく進化を重ねている。懐かしくも未来を感じさせるOP-1に「2020年代らしさ」、あるいは先鋭性を見いだせるとしたら、それはどんなところだろうか?

三船:サウンドの解像度的には正直言って10年前感、古臭さがある印象です。音の出力もこもっていますし、非力です。

しかしOP-1にしかない魅力がたくさんあるのもまた事実です。iPhoneが写真やビデオという概念をここまでみんながアクセスしやすいものに変えたように、OP-1はシンセサイザーをぼくらの生活の身近なツールに変えた、静かな伝説のような楽器です。こんなに遊び心があってワクワクさせてくれるものはなかなかありません。

SPINEAR『BEAT JOURNEY』シーズン2の冒頭では、三船がSTUTSにOP-1を紹介している
SPINEAR『BEAT JOURNEY』シーズン2の冒頭では、三船がSTUTSにOP-1を紹介している(Apple Podcastで聴く

三船:新しいものを毎年出し続けることがいいことなのでしょうか? 一瞬でバズって翌日には誰も覚えていない、価値がどんどん下がってしまう泡のようなものをつくるより、10年間変わらず愛されるいいものを生み出すことはもっと難しいはずです。

購買者を飽きさせないために次々と新しいものを生み出しドーピングしてゆく、資本主義のアイデアとはまったく逆のアンチテーゼを持ったこの楽器のコンセプトこそが非常に2020年代的だと思います。

Teenage Engineeringのプロダクトにはまずデザインがあります。よいデザインはシンプルに暮らしや心を豊かにしてくれます。デザインの行き届いたもので音楽をつくることは、ぼくの心も豊かになって気持ちがいいです。これからもOP-1を世界中に持って行ってたくさん音楽をつくりたいですね。

ROTH BART BARON“Ubugoe”を聴く(Apple Musicはこちら / Spotifyはこちら

Kuro:好きなところ、すごいところはたくさんありますが、アナログモデリングのシンセ(※3)をあの携帯しやすいサイズで実現しているシンセは、2021年になる今でもほかに例が思い当たりません。

そのうえで、4つのつまみだけである程度の機能が楽しめるシンプルさと、逆にやり込み要素もある奥深さ。それらがOP-1をさまざまな人にひらけた楽器たらしめているポイントです。

機能は深くても操作性の面でユーザーを選ばず誰もが楽しく扱えることから支持を得ているモノは現代において多く思い当たりますが、シンセサイザーの世界でいち早くそれを目指したのがTeenage Engineeringだったんじゃないかと思います。

TAMTAM“Worksong! Feat. 鎮座DOPENESS”を聴く(Apple Musicはこちら / Spotifyはこちら

※3:トランジスタなどで構成された電子回路で電気的に音を生み出すアナログシンセサイザーのサウンドを、デジタルで再現するシンセサイザーのこと

Kuro:あとは、公式ではないですがop1.funという個人がつくったコミュニティーサイトがあり、サンプル音源をフリーダウンロードできます。Teenage Engineeringがそういうやりとりを許容してるのも、いまっぽいと思います。

世界中の創造的ユーザーが、OP-1を「現代の名機」にした

OP-1はそのポップな見た目、シンセサイザーの伝統をあえて踏襲しない遊び心に溢れた筐体とUI / UXから、「楽器か、おもちゃか」という議論が発表当初から存在していた。当然、見解は分かれるところだろうが、ここでは歴史上最も著名なリズムマシンRoland「TR-808」の開発者、菊本忠男が語った哲学を引用しよう。

「器を作るのはメーカー、楽器にするのは天才アーティスト、名機にするのは創造的ユーザー」(※4)

これほどまでに創造的ユーザーに恵まれた、あるいは幅広いユーザーのクリエイティビティーを刺激するOP-1を、「現代の名機」と言ってもきっと差し支えはないだろう。

OP-1ユーザーによるトラックメイキングの動画

※4:DU BOOKS『ベース・ミュージック ディスクガイド BAAADASS SONG BASS MUSIC DISCGUIDE』参照(外部サイトを開く

個人のベッドルームで、シンセサイザーやリズムマシンを、あるいはラップトップを使った制作、音楽活動が特別なことではなくなったのは、最近の話ではない。マシンを用いて個人の表現を具体化できる可能性がより広がったのは、デトロイト・テクノが勃興した1980年代後半だ(※5)。

録音技術の発達、安価化によって誰でも録音ができるようになったことは、つまらない音楽が氾濫する要因にもつながったという指摘も存在しているが、より多くの人が自らのクリエイティビティーを発揮する機会を得ることこそがTeenage Engineeringの目指すところだろう。本稿ではその視点を重視したい。

※5:JICC出版局『クラブ・ミュージックの文化誌―ハウス誕生からレイヴ・カルチャーまで』(1993年)参照

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