スウェーデン最大級の#MeToo 運動を呼んだ、1つのスクープ。沈黙させられてきた女性たちの声を拾う

スウェーデン最大級の#MeToo 運動を呼んだ、1つのスクープ。沈黙させられてきた女性たちの声を拾う

2021/12/23
インタビュー・テキスト
後藤美波

「この本が出たことは#MeToo 運動の成果の一つ」

本書は元となった記事の発表から約2年後、2019年に本国で刊行された。もともと事件の概要を知っていたスウェーデンの人々にとっても、本はインパクトを持って受け入れられたようだ。何か月にもわたってベストセラーとなり、賞も獲得している。

「『Goodreads』という読者投稿型の書評サイトがあるのですが、私が見たときは4,000件くらいのレビューが投稿されていました。人口1千万人しかいないような国の本なのに、これはすごいことだなと思いました」と羽根は刊行当時を振り返る。

国内でのリアクションには「#MeTooへのバックラッシュもあるなかで、この本が出たことは#MeToo 運動の成果の一つ」「文壇の内幕を暴いただけでなく、大勢の女性の証言を引用することにより、レイプ観についても考えさせる本である」といったものなどがある。残念ながら英語では未刊だが、ヨーロッパ各国で翻訳され、台湾でも出版予定だ。

邦訳版の出版にあたっては、羽根が日本の出版社6、7社に売り込んだものの当初は買ってくれるところがなかったという。理由は「スウェーデンの#MeToo全体がわかるものなら良いが、一部を切り取ったものは望ましくない」「暴露本には興味ない」など。その後、北欧の未邦訳本のプレゼンテーションイベントに参加したことがきっかけで平凡社から刊行されることとなった。

内気な筆者が丁寧かつ勇敢に取材を進めていく。多面的な人物描写も本の魅力

社会部ではなく文化部の記者で、調査報道の経験もなかった内気な著者が、取材の過程で自分のなかの先入観や葛藤と対峙しながらも調査を進めていく。著者であるグスタヴソン自身の認識の変化や心の揺らぎが綴られているところも本書の魅力の一つだ。

<b>マティルダ・ヴォス・グスタヴソン</b><br>ジャーナリスト。1987年生まれ。スウェーデン最大の日刊紙『ダーゲンス・ニューヘーテル』の文化部記者。2017年11月、 国内外での#MeToo 運動の高まりから、本書のもととなったスウェーデンの文壇における性暴力を告発する記事を執筆。このスクープにより2018年11月に『スウェーデン・ジャーナリズム大賞』のスクープ賞を受賞。2020年2月には、優れた文化記者に与えられるエクスプレッセン紙の『ビョーン・ニルソン賞』にも選ばれている。
マティルダ・ヴォス・グスタヴソン
ジャーナリスト。1987年生まれ。スウェーデン最大の日刊紙『ダーゲンス・ニューヘーテル』の文化部記者。2017年11月、 国内外での#MeToo 運動の高まりから、本書のもととなったスウェーデンの文壇における性暴力を告発する記事を執筆。このスクープにより2018年11月に『スウェーデン・ジャーナリズム大賞』のスクープ賞を受賞。2020年2月には、優れた文化記者に与えられるエクスプレッセン紙の『ビョーン・ニルソン賞』にも選ばれている。

羽根がとくに惹きつけられたのは、著者の人物描写だという。取材に協力したが取り下げたいと申し出た女性の様子や、記事公開当日の筆者の心情、アルノーの有罪判決を聞いた被害者の言葉など、その時々の関係者の内面が生々しく伝わる。

「人物の描き方が一筋縄ではないんですよね。アルノーにしてもそうです。悪い面も書くけど、本の最初のほうに出てきたルーヴェさん(ルーヴェ・デルヴィンゲル。フォーラムのコンサート責任者を務めていたピアニスト)を最後にも登場をさせて、アルノーについて『愛すべき人だった。彼でなかったらあんなに何十年もサロンを運営することができなかっただろう。彼が恋しくなるよ』みたいなことを言わせていたりとか。

作家のスティーグ・ラーションとのインタビューで、女性蔑視発言をする彼に、ある女性について質問し、『彼女は俺の友人だったのに、なぜ言ってくれなかったんだ』とうろたえさせたりする場面もそうです。人間の良いところも悪いところも含めて、その多面性を描いているのもこの本の魅力だなと思いました」

ストックホルムにあるスウェーデン・アカデミー会館。事件発覚後、組織の体質を改革しようとした局長サラ・ダニウスが反対派によってアカデミーを追われた際は、2,000人が広場に詰めかけ、アカデミーへの抗議集会を行なった Francisco Anzola, CC BY 3.0, via Wikimedia Commons
ストックホルムにあるスウェーデン・アカデミー会館。事件発覚後、組織の体質を改革しようとした局長サラ・ダニウスが反対派によってアカデミーを追われた際は、2,000人が広場に詰めかけ、アカデミーへの抗議集会を行なった Francisco Anzola, CC BY 3.0 <https://creativecommons.org/licenses/by/3.0>, via Wikimedia Commons
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書籍情報

『ノーベル文学賞が消えた日──スウェーデンの#MeToo 運動、女性たちの闘い』
『ノーベル文学賞が消えた日──スウェーデンの#MeToo 運動、女性たちの闘い』

2021年9月15日(水)発売
著者:マティルダ・ヴォス・グスタヴソン
翻訳:羽根由
価格:2,530円(税込)
出版:平凡社

プロフィール

羽根由(はね ゆかり)

翻訳家。 大阪市立大学法学部卒業。スウェーデン・ルンド大学法学部修士課程修了。 訳書に『グレタ たったひとりのストライキ』(海と月社)、『マインクラフト 革命的ゲームの真実』(KADOKAWA)、共訳書に『「人間とは何か」はすべて脳が教えてくれる』(誠文堂新光社)、『ミレニアム4』『熊と踊れ』(早川書房)、『海馬を求めて潜水を』(みすず書房)などがある。スウェーデン在住。

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