ロッチ コカドの幸福度はなぜ高い?「2番3番でもいい」の考え方

高度経済成長期では、右肩上がりの成長が幸せにつながると考えられ、人々は24時間ひたすら働いていた。だが、そうした時代が終わり、幸せの定義が多様化しつつある現在において、「ひたすら頑張る」の生き方だけではなくなってきている。

2005年結成のお笑いコンビ・ロッチのコカドケンタロウは、「1番になるのが恥ずかしい」と笑う。「戦場」とたとえられることも多く、数々の芸人がしのぎを削るお笑いの世界において、このコカドのスタンスは、もしかしたら不思議に映るかもしれない。だが、他人と戦わずに自分にとって快適なポジションを確保するのも戦い方のひとつだろう。

高みを目指すのではなく、自分の心地よい場所で、好きなものに囲まれて暮らす。そんな穏やかな日々を過ごすコカドとともに、彼の愛するヴィンテージショップを彼の愛車で巡ってみた。

学生時代からの憧れ。古着屋「JUMPIN' JAP FLASH」へ

―最初に訪れたのは、中目黒にある古着屋「JUMPIN' JAP FLASH(ジャンピンジャップ フラッシュ)」です。ここはコカドさんにとってどういう存在なのでしょうか?

コカド:ぼくは大阪出身なんですけど、この店のことは10代の頃から知っていて。上京したら来ようと心に決めていました。2000年くらいに東京に越してきて、すぐに足を運んだのを覚えています。そのときは何も買わなかったんですけど、聖地巡礼みたいな気持ちでしたね。

コカドケンタロウ
1978年生まれ、大阪府出身。中岡創一とお笑いコンビ「ロッチ」を結成。『キングオブコント』ファイナリストになるほか、『爆笑レッドシアター』などのネタ番組にも数多く出演。コントを中心とした単独ライブも定期的に開催。古着好きとしても有名で、趣味は古着やビンテージ家具の収集、サーフィン、サウナ、ドライブ、料理など。

―では、ここではじめて買ったものは覚えていますか?

コカド:コットンの靴紐ですね。あるとき新潟で仕事があって、合間の時間にふらっと立ち寄った古着屋でコンバースの靴をもらったんですよ。でも、靴紐がなくて。新品をつけるのも嫌やったから、合うものを探していたときに偶然見つけて買いました。そのとき、店長と仲良くなって、中目黒に用事があるときに足を運ぶようにしています。

―古着はずっと好きなんですか?

コカド:ぼくが洋服に興味を持ちはじめた時期にちょうど古着ブームが起こっていたんですよ。それ以来、ずっと古着が好きで。でも、当時はお金もなかったから、お笑いで稼いでヴィンテージの古着を買おうと心に決めていました。はじめて買ったヴィンテージの古着は、リーバイスの1stというデニムジャケット。それ以降もデニム系の古着はけっこう集めましたね。

―コカドさんは古着のどういうところに魅力を感じているのでしょうか?

コカド:ほしいと思っても探さないと手に入らないから面白いんでしょうね。東京で探してもなかったものが、地方を訪れたときに見つかるなんてこともありますし。偶然の出会いがあるというか。だから、古着屋に来たらとりあえず店内にある商品にひと通り目を通すようにしているんです。時間がかかるので、つき添いの友だちにめっちゃ嫌がられますけど(笑)。

【撮影協力】JUMPIN' JAP FLASH 東京都目黒区上目黒1-3-13 1F
【撮影協力】JUMPIN' JAP FLASH 東京都目黒区上目黒1-3-13 1F(サイトを見る

―ちなみに、コカドさんは19歳の頃に古着屋で働いていたこともあるそうですね。どうして古着屋で働いてみようと思ったんですか?

コカド:中学生くらいからお笑いと古着が好きで、どちらかに携わりたいなと思っていたんです。それで高校1年生のときからお笑いをやるようになったんですけど、このままだとお笑いをずっとやるなと思って古着屋で働いてみることにしたんです。めちゃくちゃ面白かったですよ。毎日起きるのがすごく楽しみでした。ただ、1年間である程度の経験ができてしまったので、今度はお笑いの道で売れたいと考えるようになって辞めました。いまは友達が古着屋をやっていて、買いつけに行った話なんかを細かく聞いて満たされていますね。

店員さんとのコミュニケーションで情報収集をするという
本日お買い上げのスウェット

コカドさんが初めてJUMPIN' JAP FLASHで買った靴紐
コカドさんが初めてJUMPIN' JAP FLASHで買った靴紐

年代ものに惹かれて。目黒のヴィンテージ家具屋「Lewis」

―2軒目に訪れたのは、北欧のヴィンテージ家具を豊富に取りそろえている「Lewis(ルイス)」でした。このお店との出会いは?

コカド:ぼく、家具を購入するタイミングで引っ越すことが多くて。もともとはワンルームに住んでいたんですけど、ダイニングテーブルを置きたくて少し大きめの部屋に引っ越したんです。そしたらテーブルに合うキャビネットがほしくなって、目黒にある家具屋を巡っていくなかで辿り着いたのが「Lewis」でした。1960年代につくられたデンマーク製のキャビネットを購入して。4年くらい前のことですね。

―家具も古着と同じくヴィンテージのものを中心に集めているんですか?

コカド:もともとはイームズとかハーマンミラーとかミッドセンチュリーの家具から入ったんですけど、次第に古着とかと同じような年代のものがほしくなってきて。ただ、古着と違って家具はスペースを取りますから。椅子なんて10脚以上は自宅に置いてありますし。そうやって家具を増やすたびに引っ越していたら際限ないですから、いまは買うのを止めています。

ご自宅の様子 【写真提供】コカドケンタロウ

―ヴィンテージ家具の魅力は何なのでしょうか?

コカド:「Lewis」で家具の磨き方について教えてもらったことがあって、それからは自分でメンテナンスをするようになったんですよ。道具もそろえて。そしたら、どんどん愛着が沸くようになりましたね。自分だけのものになっていく感覚があるというか。

海外の映画を見てインテリアの参考にすることもあるそう
Lewisでは以前、チェアも購入
ご自宅には植物を置いているという。コロナになってその数も増えていった

高級ブランドの服に興味がない。「こうなっていたらいいな」って思うそのハードルも低かった

―コカドさんは愛着を持ったものはずっと使い続けたい気持ちが強いですよね。

コカド:言われてみればそうかもしれないですね。お笑いは高校1年生からやりはじめたし、好きなミュージシャンも10代の頃から変わらないし、着るものも一途に古着だし。車も一生乗り続けたいくらいの気持ちでいます。

―コカドさんが乗っているVOLVO 240 GL Limitedは、「ネオクラシック」と呼ばれる1990年代に製造されたものですが、どうしてこの車を選んだのでしょうか?

コカド:もともとヴィンテージの車がほしかったんですけど、「ちょっとでも傷がついてしまったら」と心配しながら乗りたくはなかったんです。気軽に使えるけどちょっと古いものがいいなと思いながら探していくなかで、辿り着いたのがこの車でした。角ばったシルエットがかわいらしいし、めちゃくちゃ頑丈なんですよ。ココリコの田中(直樹)さんが同じ車のワゴンタイプに10年以上、乗っているのですがまったく壊れていないと聞きますし、走行距離が20万kmを超えているものもざらにあるらしくて。

ぼくのも乗りはじめの1年くらいはワイパーの調子が悪いとかトラブルがありましたけど、いまは何の問題もなく乗っています。小回りも効くので、めちゃくちゃ乗りやすいです。

―そうやって長年変化しない価値観がある一方で、年齢を重ねるなかで変化してきたことはありますか?

コカド:考え方がどんどんシンプルになっているかもしれないですね。20代の頃はもっといろんなものに興味を持っていたし、買いたいものもたくさんあったけど、ある程度のことが30代で実現できたこともあって、40代になったいまは迷いみたいなものがなくなっている気がします。自分が好きなものがわかってきたのかもしれないですね。たとえば、古着じゃない服を着ていたことも一時期あって。でも、戻ってきちゃいましたからね。「やっぱそうなんや」みたいな。

―ちなみに、コカドさんは「こういう人になりたい!」というロールモデルのような人はいるのでしょうか?

コカド:お笑い芸人って2つのタイプがいると思っていて。仕事もプライベートも充実していて毎日楽しそうにしている人と、逆に充実していないことをネタにしている人。ぼくは楽しそうにしているほうに憧れるんですよ。たとえば、ピースの綾部(祐二)なんてすごく楽しそうやなって思います。言うなれば、お笑いの世界で成功していた人間なわけじゃないですか。にもかかわらず、それまでに築いてきたものを放り出してニューヨークに行っているわけで、その気持ちもうらやましいし、向こうで実際に生活していることもうらやましい。

―とはいえ、コカドさんを見ているとすごく充実しているように思えます。幸福度が高そうな印象です。

コカド:おそらくほしいものが手に入ったからだと思います。かつて「こうなっていたらいいな」って思っていたことが実現できているし、そのハードルも低かったから。高級ブランドの服が着たいとか、スポーツカーを乗り回したいとか、そういう憧れはなかったので。世の中がいいというものではなくて、「自分がかっこいいと思うもの」に囲まれて生活できているから、不満とかもあまりないんだと思います。

「大丈夫やから。焦んないで。どうにかなるから」。周囲の期待のなかでロッチが守り抜いたもの

―現在はそういう生活を手に入れていますが、かつては売れていない時期もあったわけじゃないですか。そういう頃も悩みはそんなに多くなかったですか?

コカド:売れないことに対する悩みはなかったですね。バイトしながらお笑いをやっているのが毎日楽しかったので。ただ、20代後半くらいの頃は、30歳になるまでにはどうにかせなあかんなと思っていました。それくらいの年齢になってくると、お笑いの道で食べていくことを諦める人たちが増えてくるので。幸いなことにロッチは29歳くらいからテレビに出られるようになって、30歳くらいからはお笑いだけで食べられるようになりましたけど。

そのとき、ひとつのゴールに辿り着いた気がしたんですよ。だから、いろんな人から「これから先はどうすんの?」って言われることに戸惑いました。自分としてはやっと夢が叶った状態だったので、「ちょっと待って」という気持ちで。実感を嚙みしめたかったというか。

だから、30代前半は精神的にしんどかったですね。早くキャリアを積みたいなと思っていました。いろいろ怒られたりすることも減るやろうし、諦めてもらえることも多くなるやろうから。40歳を過ぎてからは、そういうこともなくなって落ち着きましたけど。

―どうやって気持ちを切り替えたんですか?

コカド:切り替えるというよりも、自分のペースを保ち続けた感覚が近いかもしれないですね。お笑い自体、誰かにやれと言われてやっているわけではなくて、ただ自分がやりたいからやっているだけなので、嫌いになりたくはなかったんですよ。だから、周囲の人たちはあまりにもぼくたちのペースが遅いのでイライラしていたと思います。でも、それを崩してしまったらお笑いが嫌いになりそうやったから、「大丈夫やから。焦んないで。どうにかなるから」って言ってましたね。

―周囲の期待があるなかで自分たちのペースを保つことは、言葉にする以上に難しい気がします。

コカド:ぼく、小学生の頃からそんな感じやったらしいんですよ。他人と比べて焦ったりすることがあまりないというか。そもそも1番になることが嫌やったんですよ。家に帰って「1番やった!」って親に報告するのが恥ずかしくて。リアクションされるのを想像するだけで嫌でした。「3番やった」とかなら気軽に言えるんですけど。だから、勝負ごとになるとわざと負けていましたね。

―それこそ、お笑いの世界なんて競争が熾烈じゃないですか。なかには1番になりたいと考えている方々も大勢いると思うのですが、コカドさんはそういう野望みたいなものはなかったのでしょうか?

コカド:同期がフットボールアワーなので(笑)。あの二人は養成所時代から別格やったし、はじめて岩尾(望)を見たときに一生勝たれへんねやって思いましたからね。比べたり、嫉妬したりしていたらやっていけないですよね。むしろ、2番でも3番でもいいと思っていました。

―でも、『キングオブコント』などの賞レースには出場されていますよね。

コカド:コントに関しては、自分にとって特別で、何よりも好きなもので、1番になりたい気持ちがあったんですよ。もちろん、キングになることを考えると恥ずかしくもあるんですけど(笑)。

―どうして1番に対する憧れがないのでしょうか?

コカド:そもそもぼくは、千原兄弟さん、ジャリズムさん、FUJIWARAさんとか、当時テレビで見ていた若手芸人の姿が楽しそうで、こうなりたいと思ってこの道を選んだんですよ。1番になりたいんじゃなくて、若手芸人になりたかった。でも、若手芸人なんてすぐになれるじゃないですか(笑)。じつはそこで夢がひとつ叶っているんですよ。だから、収入が全然なかったときもめちゃくちゃ楽しかったですし、辛いとかも思わなくて。

「うちはうち、よそはよそ」。裕福な家庭ではなかった幼少期

―むしろ、若手芸人ならではの貧乏暮らしを楽しんでいたわけですね。

コカド:週4でバイトしてラクに暮らすよりも、週2でバイトして経済的にはきついけど好きなことをやっているほうが楽しいと思ってしまうんですよ。そもそも、うちは裕福な家庭ではなかったから何十年もお金がない生活をしていたし、むしろお金持ちはダサいみたいな教育をされてきているから、贅沢な暮らしをしたいという欲求がないんです。

「うちはうち、よそはよそ」という教えが強かったですし、ブランドものを持っている人に対するおかんの嫌悪感もすごく強くて。「あんなん高いだけやのにな」っていう言葉を小さな頃から聞かされているから、興味を持てなくなったのかもしれないですね。

―相方の中岡さんもコカドさんと同じようなメンタリティーですか?

コカド:似ているかもしれないですね。ロッチを組んでから「1番になろう」とは二人とも言ったことはないし、高いものが好きとか、自分を大きく見せようとかもないはず。ただ、ぼくがマイペースすぎるので、それで中岡くんがイライラすることはありますけど(笑)。

今日着用していたのは、コカドさんがデザインしたロッチのライブスタッフ用Tシャツ

好きなものが変わらないからこそ、変わりたい。自分の感情をグッと盛り立ててくれるものを求めて

―コカドさん自身、これから50代に向けてどのようなキャリアを歩んでいきたいと考えているのでしょうか?

コカド:未来のことについて考えてもその通りになることのほうがきっと少ないだろうから、現状の活動ペースを維持しながら、たまに自分が考えていないようなことが舞い込んできたらいいなと思っています。

じつは今年の2月に『あの頃。』という映画に出演させてもらったんですね。自分の人生においてそんなことが起こるなんて想定もしていなかったんですけど、すごく充実した日々を過ごすことができて。「こんな世界もあるんや」って驚きと発見がたくさんありました。だから、自分の頭のなかでは考えもつかない出来事が起きたらいいなと考えています。

―思いもよらないことがあってほしいというのは、刺激がほしいということ?

コカド:刺激がほしいというよりは、出会ったことのない景色を見てみたい気持ちが強いのかもしれないですね。40歳になってから1年に1度は未経験のことに挑戦しようと思ってゴルフやサーフィンなんかにチャレンジしているんですけど、それも自分でやろうと決めたというより、人からおすすめされてやってみたんですよね。

そしたら、めちゃくちゃ楽しめている自分がいるっていう。サウナも嫌いだったんですけど、誘われて行ってみたらハマりましたし。だから「これ、楽しいよ」って人から言われたことはできるだけ挑戦してみるようにしています。

―好きなものは変わらないのに、コカドさん自身は変化を求めているのが不思議な気持ちになります。

コカド:好きなものが変わらないからこそ、変わりたいという気持ちがあるのかもしれないですね。お笑いの仕事以外に興味が持てるものはないし、流行りの洋服にも心が惹かれないし、愛車は一生乗りたいと思っていますし。だから、自分の感情をグッと盛り立ててくれるものを求めているのかもしれませんね。

―表現的には少しチープかもしれないですが、「新しい自分が見つかる」みたいなことでしょうか?

コカド:「自分の考えにない世界があんねや」という発見がうれしいですよね。だから、海外旅行も一度訪れたところに何度も行くより、違う場所に行きたいんですよ。でもぼくの周りにいる人たちはみんなハワイがいいって言うんですけど(笑)。

プロフィール
コカドケンタロウ

1978年生まれ、大阪府出身。中岡創一とお笑いコンビ「ロッチ」を結成。『キングオブコント』ファイナリストになるほか、『爆笑レッドシアター』などのネタ番組にも数多く出演。コントを中心とした単独ライブも定期的に開催。古着好きとしても有名で、趣味は古着やビンテージ家具の収集、サーフィン、サウナ、ドライブ、料理など。



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「幸福度が高い」と言われる北欧の国々。その文化の土台にあるのが「クラフトマンシップ」と「最先端」です。

湖や森に囲まれた、豊かな自然と共生する考え方。長い冬を楽しく過ごすための、手仕事の工夫。

かと思えば、ITをはじめとした最先端の技術開発や福祉の充実をめざした、先進的な発想。

カルチャーマガジン「Fika(フィーカ)」は、北欧からこれからの幸せな社会のヒントを見つけていきます。

スウェーデンの人々が大切にしている「Fika」というコーヒーブレイクの時間のようにリラックスしながら、さまざまなアイデアが生まれる場所をめざします。

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