フィンランドの神秘的な森で学んだ、北欧フラワーデザインの魅力

フィンランドの神秘的な森で学んだ、北欧フラワーデザインの魅力

2021/11/24
インタビュー・テキスト
羽佐田瑶子
撮影:タケシタトモヒロ 編集:川谷恭平

日常的に花を楽しむ北欧の人々。「空間」に合わせたデザインを提案する

―自由な発想でデザインを組み立てるうえで、北欧フラワーデザインにとって重要なことは、どんなことでしょうか。

クミ:まず、材料は基本的にフィンランドの森に育っていそうなものを選びます。それをベースにデザインを組み立てていくわけですが、デザインと「空間」が非常に密接です。北欧の人々は日常的に花を楽しむ習慣があるので、どのような家で、どの場所に置くのか、必ず聞いてデザインします。

主に2つのデザインパターンがあって、一つが洗練された都会の家のスタイリッシュモダンなデザイン。コンクリート打ちっぱなしだったり、シンプルで洗練された北欧家具が飾られた部屋に合うものです。

対して、夏のあいだだけ森の湖畔のログハウスに住む人も。そのような家には自然のなかに溶け込むようなナチュラルモダンなデザインがよく合います。

ほかにも、家の周辺環境やインテリアの形状に合わせて、線や形の構成を決めることもありました。海の近くのハウスなら海辺のものを、山奥なら高山植物を取り入れるなど、意味を持たせて組み合わせるんです。

ヘンティネン・クミ

森で見た景色や、動植物たちの姿を連想してブーケにする

―使用する花材一つひとつにも、意味を持たせるんですね。

クミ:全体のデザインイメージをまとめる際は、自然を模倣するように、森で見た景色や動植物たちの姿を連想してつくることが多いです。たとえば、鳥たちが雪降る白樺林にいる様子や、真冬の氷の上に寝転がって空から雪が降ってくる様子など。

フィンランドの冬のメインイベントであるクリスマスには、フィンランドの深い森に住んでいる森の妖精「トントゥ」たちの帽子をイメージしたツリーが好まれました。

トントゥの長い帽子をイメージしてつくった作品
トントゥの長い帽子をイメージしてつくった作品

クミ:「とにかく自然を見なさい」っていうのは、師匠たちの口癖でしたね。森のなかに入ると、落ち葉の下にどんな植物が生きていて、木や枝がどのように交差しているか見つめなさいって言うんです。季節や場所によってみられる景色はさまざまで、たくさんの想像が湧きました。

―クミさんも著書の表題に「森の植物が教えてくれた」と書かれていますよね。想像するに、フィンランドの森は広大で美しいイメージがあるのですが、どのような場所でしたか?

クミ:フィンランドの人々にとって、すごく大切で癒しの空間になっていたことはたしかです。だから、ブーケにも自然のものを取り入れることを好んだんでしょうね。

広大な森に入って、小枝や葉っぱ、木の実、ベリーや枯れ葉など材料をよく集めていました。廃材になる白樺も、自分で選定して集めました。季節によって表情も変わるのも楽しかったです。

フィンランドの森に生えている白樺とルピナス(写真:クミさん提供)
フィンランドの森に生えている白樺とルピナス(写真:クミさん提供)
冬になると白銀の樹氷に姿を変える(写真:クミさん提供)
冬になると白銀の樹氷に姿を変える(写真:クミさん提供)

クミ:コロナ前は年に一度、スクールの生徒たち約20人をフィンランドに連れて行ってました。すると必ず、森に入ると泣いてしまう生徒が出てくるんです。森があまりに美しくて、湖のほとりに座ってポロポロと。見たこともない植物にたくさん出会えて、感動したという声をよく聞きました。

季節や行事を花で楽しむ、フィンランドの人々

―日本と比べたときに、北欧の方々はどんな花を好まれる印象がありますか?

クミ:「オンリーワン」なものが好きですね。日本だと、ブライダルブーケの依頼があったときに、参考になる写真を持参してくださる方が多いですが、フィンランドの方は「私に合うものをつくってほしい」という依頼がほとんどでした。

もちろん、ドレスに合ったものをつくるのですが、ブライズの髪の毛や肌、目の色を考慮してブーケをつくることも。形もベーシックな「ラウンド」や縦長に流れる「キャスケード」だけではないですし、使う植物を分解して再構築もします。とにかく、決まりがないので、自分の好きなものを突き詰める感じがします。

―だからこそ、人の手作業が付加価値になるとおっしゃっていましたが、そうしたハンドワークの実力が高くないと唯一無二のものをつくれないんですね。

クミ:作業では、花と花をくっつける「グルー」というのりを使ったり、ワイヤーを組んで編んだりしています。多いときには50工程以上もかかるので時間がかかりますね。フレッシュフラワー(生花)だけではなく、アーティフィシャルフラワー(造花)やドライフラワーなどを使えば、季節や場所に応じた花材を選べるのでデザインの幅も広がります。

クミ:フィンランドでは、季節や行事に合わせて花を贈る習慣があります。日本は贈答品の選択肢がいろいろありますが、フィンランドは基本的にお花が多いですね。イースターから始まり、母の日、卒業式、夏至祭、父の日、クリスマスなどほとんどの行事を「花」で楽しむんです。

ナチュラルなデザインで彩り、森のなかを走るVOLVOをイメージ

―そんな楽しみを「車」に取り入れるとどうなるのでしょうか。今回、クミさんの愛車でもあったVOLVOを彩るフラワーデザインを「VOLVO STUDIO AOYAMA」で披露いただきました。展示した作品はどのようなイメージで、デザインされたのでしょうか?

クミ:私はフィンランドでVOLVOの車に乗っていたのですが、とにかく丈夫で力強い印象があります。雪道や森の舗装されていない道も、スーッと走っていけるのが気持ち良くて。

その力強さと、車から見ていた森の景色をイメージして、フィンランドの森に育っているような植物のみでつくりました。白樺や、フィンランドの森で白い輝きを放つフィンランディアモスなど、その景色をすぐに思い出すものばかりです。

VOLVOのフラッグシップエステート「V90」
VOLVOのフラッグシップエステート「V90」
ヘッドレストに糸でスワッグをくくりつけ、ラゲッジスペースへ流すように展示
ヘッドレストに糸でスワッグをくくりつけ、ラゲッジスペースへ流すように展示

クミ:今回つくったリースとスワッグはどちらも時間の流れをイメージしています。左のリースは、大きな形状だと邪魔になりそうなので、比較的コンパクトなものに。乾燥してもバラバラ落ちないものを使って、走行中も気持ち良くいられるようにしました。永遠の時間の流れ、長く愛されているブランドをイメージして、片側が流れるようにする非対称な形は北欧独特のデザインです。

クミ:右のクリスマスツリーを逆さにしたようなスワッグは、フィンランドの森のなかにある、白樺の葉っぱや皮、枝などを使っています。森に行くと、「ドイツトウヒ」という巨大なツリーのような針葉樹が、森を縦断している道路の両側にどこまでも立ち並んでいるんです。その真ん中をVOLVOが気持ち良く走っているイメージです。

じつは、北欧にはブライダルのときに、車のボンネットやルーフ(天井)の上に、花をいっぱい飾る慣習があります。なので、こうやって車に花を飾るのはなんだか懐かしい気持ちになりますね。

―自宅時間も増え、家で花を楽しんでいる人も増えたかと思います。長年北欧フラワーをはじめ「花」に触れられて、その魅力をどう感じていらっしゃいますか?

クミ:お花が部屋にあるだけで、ポジティブになったり、リラックスできたりと、気持ちが随分変わると思います。また、今回VOLVOに飾ったように、部屋だけじゃなく意外と身近な場所にも取り入れることができます。お花と過ごす時間を増やして、楽しんでほしいですね。北欧フラワーは、自然とのコラボレーションなので、季節や風景を感じられてすごく良いと思います。

私もいまはフラワースクール以外に、クリスマスパーティーや食事会など、北欧文化を伝えるための交流会をよく開催しています。いろいろな視点で、北欧カルチャーを楽しんでもらえたら嬉しいです。

ヘンティネン・クミ
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プロフィール

ヘンティネン・クミ

池坊学院華道芸術家師範科を卒業。大手百貨店フラワーショップのチーフを10年間務めたあと、13年間に渡りイギリス、オランダ、フィンランドで花事業に携わる。フィンランドでは、国立ケンペレン花卉芸術学校マスターフローリスト科を卒業し、ヘルシンキに「フラワーショップ 梨乃花 LINOKA Kukka Ltd.」を設立。日本大使館をはじめとする各国大使館および、デザイナーズホテルの花装飾を経験。帰国後、「北欧フラワーデザイン協会・フラワースクールLINOKA Kukka」を立ち上げ、東京を拠点に、北欧フラワーデザインの技術や魅力を伝える。

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