ドラマ『ロキ』振り返り 北欧神話のトリックスターに宿った現代性

ドラマ『ロキ』振り返り 北欧神話のトリックスターに宿った現代性

2021/10/28
テキスト
小野寺系
編集:久野剛士、CINRA編集部

性別を越えて姿を変えられるロキ。その性愛のあり方が示す現代性

意外なのは、もう一人の「ロキ」が、常時女性の姿をしていること。さらに驚かされるのは、そんな「ロキ」にロキが心を惹かれる展開が用意されている点である。自分に惹かれるという展開は、ロキのナルシスティックな性格を表していると言えばそれまでだが、一方で、視聴者に愛のあり方を深く考えさせるような面も持っていると言えるかもしれない。

左から:ロキと「ロキ」(ソフィア・ディ・マルティーノ) / 『ロキ』© 2021 Marvel
左から:ロキと「ロキ」(ソフィア・ディ・マルティーノ) / 『ロキ』© 2021 Marvel

恋愛において異性愛者は、性別の違いによる身体的な特徴を重視する場合が多い。いかに性格の相性がよく、尊敬できる人物であっても、それが同性であれば、恋愛関係を持つことを避けるだろう。同性愛者もまた、異性を恋愛対象にしないという意味では似ている。

だが、どのような姿にも自身を変えることができるロキにしてみれば、そのような身体的な違いに縛られることはない。何にでも変身ができるロキは、何にでも変身できるもう一人の「ロキ」の身体的な特徴にこだわっても意味がないことを理解しているはずだからだ。その点でロキは、性別にこだわらないパンセクシャル(全性愛者)と言えるし、他人に恋愛感情を抱いていないという意味では無性愛者とも言えるだろう。そのような性的指向を持つキャラクターを主人公としたのは、マーベル・スタジオ関連作品では初であり、娯楽大作においても画期的なことだ。

本作の監督ケイト・ヘロンは、性についての若者の悩みを解決するNetflixドラマ『セックス・エデュケーション』を手がけるドラマのつくり手だ。彼女がSNSで、ロキの性的指向について、「重要な挑戦」だったと自ら述べているように、本作は北欧神話から飛び出たロキの設定を利用することで、性的な偏見や違いを超越した、現代的な存在として描く。そして、性愛の多様さをこれまでにない方法で表現しているのではないか。

『セックス・エデュケーション』予告編

北欧の国々は、LGBTの幸福度や友好度の調査で、必ず上位にランキングされる、世界のなかで先進的とされる地域だ。もちろん直接的な北欧神話の影響があるわけではないだろうが、『ロキ』という作品を通じて、遠い過去に記された神話の世界と、現代の多様性への想いが間接的につながったという事象は、興味深いことだ。いずれにせよ、本シリーズが従来のドラマの枠からはみ出し、新しい世界のあり方を提案する一つの試みになっているのは、紛れもなく確かなことである。

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作品情報

『ロキ』
『ロキ』

ディズニープラスで独占配信中

監督:ケイト・ヘロン
出演:トム・ヒドルストン

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