幸福で悪いことなどない。戸田真琴が解きほぐす嫉妬と憎悪の関係

幸福で悪いことなどない。戸田真琴が解きほぐす嫉妬と憎悪の関係

2021/09/29
テキスト
戸田真琴
撮影・編集:石澤萌

自己防衛本能は、無意識に思考にひそむもの

ただ、私たち女性はここまで生きてきたなかで、わかってしまっています。これらの幸せアピールには、自己防衛の意味も隠されているということを。例えば女性が不幸そうに見えるとき――パートナーがいないことや、美容やファッションに気を使っていないこと(多くは男性目線での小綺麗さのことを指し、個性的すぎるファッションについては「女を捨てている」と取られて嘲笑の対象になったりもする)、不美人と思われることなどで、嘲笑されたりネタ枠のように扱われて傷ついた経験がある、あるいは誰かがそのように扱われている光景を見たことがある人もいるでしょう。馬鹿にされて傷つけられないためにも、女性たちは「嘲笑われる隙」をつくらないように努めざるをえない、という状況があります。

「私は女性に生まれて、それが幸福で、人生が充実しています。私はかわいそうな人ではありません」という態度を全身で表すことは、ときに不幸を寄せつけないための盾のようなものとしても機能してきたのだと思います。また、男性たちのなかにも、自分が恵まれているということを発信することで、自分自身の立場やプライドを守っている人もいると思います。大事なのは、人には自己防衛本能があり、それは無自覚に当人の意思に潜り込み、防御だという自覚なく思考に組み込まれているということを理解しておくことです。人が外部にアピールする見え方は、単なる本人の意思を超え、一概には言えないさまざまなメッセージが絡み合っています。

戸田真琴

あなたの憎悪を飼い慣らすことができるのは、世界で唯一あなただけ

このように、たくさんの要因があり、女性は世の中から「幸せそうに見える」メイクやファッションを推奨されてきました。リアルな女性の実情を想像することのないまま、メディアのつくったイメージで「女性」という生き物を推測する人にとっては、「女は(自分より)幸せそう」「女として生きるのは楽そう」「……自分は不幸なのに(見下しているはずの)女のほうが幸せなんて許せない」といった思考に陥っていく人が少なからず存在するということも、想像することができます。

他人の人生をそのまま体験することはできません。ましてや、勝手な憶測で推し量った他人の幸福度を自分のものと比べて断罪しようとすることなど、言語道断です。それは、SNSで幸福さを比べ合ったとしても、表面からは他人の幸福さの真の数値など見えないのだから、まったく意味を為さないことと同じように、答えのない、とても不毛な行為です。そして、そういう不毛さから生み出される理不尽な憎悪は、何も大きな事件やトラブルが起こる場合に限らず、とても身近なところでも日々生まれては消えています。親しみを持たない相手に対して、「あんなやつ不幸になればいい」と望むことが人間にとって決して珍しいことではないように、自分のなかにも他人を加害するに至る感情の種があるということを忘れてはいけません。それは同時に、自分がいつ被害者になるかわからない、という当事者性の裏返しでもあります。

今回は、「幸せそうに見えること」に対する憎悪感情について、加害にいたる要因を考えてきましたが、そもそもの最重要事項としてお伝えしておきたいのは、いかなる場合でも理不尽に他人を加害することが許されてはならないということです。例えば幸福そうに見えて実情が幸福じゃなくても、本当に幸福であったとしても、どちらであっても加害の劣悪さに違いはありません。人権というのは、個人の境遇や属性、能力にかかわらず、当たり前にその人の権利が守られるためにあります。恵まれて幸福に満ちた生き方をしていることが、誰かに何かを奪われる理由になってはならないし、さまざまなことに恵まれずつらい日々を送っていたとしてもまた何かを奪われていい理由にはなりません。

少しでも多くの人が、自分自身のなかにもある憎悪の感情について、冷静に見つめ、捉え直し、何かを他人から奪おうとする前に思いとどまって自浄に向かってくれることを祈ります。あなたの憎悪を飼い慣らすことができるのは、世界で唯一あなただけで、それは明日の世界をほんの少しましにするための大切な鍵のひとつであることは確かなことなのです。

戸田真琴

連載:『戸田真琴と性を考える』
AV女優兼コラムニストの戸田真琴による、激変する現代の性について思いを綴るコラム連載。「セックス」「生理」「装い」など、さまざまな視点から性を見つめていく。

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プロジェクト情報

『I’m a Lover, not a Fighter.』
『I’m a Lover, not a Fighter.』

AV女優 / 文筆家として活動する戸田真琴と、盟友である“少女写真家”飯田エリカによる、「グラビア」を見つめ直すプロジェクト。

配信情報

『Podcast 戸田真琴と飯田エリカの保健室』

毎週月曜日20時に、Apple Podcast、Spotify他で配信中。

書籍情報

『人を心から愛したことがないのだと気づいてしまっても』
『人を心から愛したことがないのだと気づいてしまっても』

2020年3月23日(月)発売
著者:戸田真琴
価格:1,650円(税込)
発行:KADOKAWA

『あなたの孤独は美しい』
『あなたの孤独は美しい』

2019年12月12日(木)発売
著者:戸田真琴
価格:1,650円(税込)
発行:竹書房

プロフィール

戸田真琴(とだ まこと)

2016年より活動開始。その後、趣味の映画鑑賞をベースにコラムなどを執筆し、現在はTV Bros.で『肯定のフィロソフィー』を連載中。ミスiD2018を受賞。愛称はまこりん。著書に『あなたの孤独は美しい』『人を心から愛したことがないのだと気づいてしまっても』。2021年より、少女写真家の飯田エリカと共にグラビア写真を再定義するプロジェクト「I‘m a Lover, not a Fighter.」をスタート。ディレクション・衣装スタイリング・コピーライティング等を務める。

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