北欧デュオSmerzの『Believer』 クラシック要素からその深層に迫る

北欧デュオSmerzの『Believer』 クラシック要素からその深層に迫る

テキスト
八木皓平
編集:久野剛士
2021/04/26
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自分たちの欲望をむき出しにしたアルバム。あえて尺の短い曲に焦点をあてて見えてくるもの

再び時計の針を現在に合わせ、『Believer』についての話に戻ろう。ぼくにとっての『Believer』のいちばんの魅力は、この作品が1枚のアルバムとしてまとまっているというよりも、Smerzの2人がやりたいことをやりたいようにやった結果がこうなった、という自分たちの可能性や欲望をそのままパッケージングした形になっていると思えたことだ。

Smerz『Believer』を聴く(Apple Musicはこちら

ぼくがそのように感じた最大の理由は、おそらく『Believer』に収録された楽曲の尺のバランスにあるだろう。本作の尺のタイプを多少乱暴に分類すると“Max”や“Hester”“I don't talk about that much”のような3~4分の楽曲と、“Gitarriff”や“Versace strings”“Grand piano”といった1~2分程度の短めの楽曲の2通りに分けられ、後者のほうが多くの割合を占める構成になっている。スケール感があって起伏に富んだ楽曲は前者に多く、刺激的なアイディアをむき出しのまま提示してみせたものは後者に多い傾向にある。音楽的魅力もさることながら、アルバムとしてのまとまりにこだわりすぎないこのような構成と作曲の方向性に、ぼくは魅力を感じた。もちろん、ここ数年のUSヒップホップを中心に、楽曲の尺を短めにするという流れがあるからその影響も出ているのかもしれない。ただそれ以上にぼくには、「3年経ったからしっかり整理されたものを」というよりも、創作意欲のままに作ったらこの尺になったというアティテュードが本作の核に思えた。

曲尺2:04のSmerz“Versace strings”を聴く(Apple Musicはこちら

だからここは、あえて尺が短い楽曲を中心に『Believer』を見てみよう。その中でも本作の大きなポイントであり、3年前から大きく音楽性が拡張された部分であるクラシック音楽の影響を感じられる楽曲に着目したい。特に面白く感じたのは、“Versace strings”や“4 temaer”“The favourite”“Sonette”“Hva hvis”といったストリングスの(ような)音色が響く楽曲群だ。この音色はクレジットを見る限りではおそらくシンセから出力されたもので、生楽器ではない。

曲尺1:43のSmerz“The favourite”を聴く(Apple Musicはこちら

曲尺2:08のSmerz“Sonette”を聴く(Apple Musicはこちら

しかしほかの楽曲、たとえば“Believer”や“Rain”、“Glassbord”といった楽曲ではチェリストやバイオリニストが参加しているので、Smerzが生楽器を使わない主義というわけではない。これは音色を使い分けることによって楽曲のテイストをコントロールしているということで、そこには彼女たちのセンスが生かされており、その結果、楽曲は独特のムードを醸し出している。クラシック音楽の影響を自身のサウンドへ導入することを試みてはいるが、生楽器の音色をそのまま取り入れるのではなく、クラシック音楽を自分たちのサウンドにチューニングして取り入れたわけだ。いい意味での歪(いびつ)さがここにはある。クラシック音楽からの影響やシンセストリングスの使用といった要素自体はじつによくあるものだが、本作がオリジナリティー溢れるサウンドになっているのはそういうところも理由の1つだろう。

曲尺4:14のSmerz“Rain”を聴く(Apple Musicはこちら

曲尺2:57のSmerz“Glassbord”を聴く(Apple Musicはこちら

また、生楽器が使用されている楽曲のほとんどは、1つの楽曲の中でストリングスと強靭なビートが同居していることにも注目したい。これは、この2つの要素が調和するためにはストリングスはシンセではなく、生楽器であるべきだとSmerzが判断したからではないかと推測できる。そしてビートがない、短い楽曲ではシンセストリングスを中心に作曲したほうが面白いことができると思ったのではないだろうか。『Believer』にはストリングスの音色がフィーチャーされている楽曲が多いことから、このバランス感覚は本作の根底にあるものだといえる。クラシック音楽の影響をエレクトロニクスと抱き合わせていくという点では、ビョークと仕事をしてきたエンジニアであるクリス・エルムスを招いたことも功を奏しているだろう。

Smerz『Believer』ジャケット
Smerz『Believer』ジャケット(Amazonで購入する

Smerzというユニットが繰り出す様々な表現に「北欧的な部分」が息づいていることは確かだ。それに加えて彼女たちが素晴らしいのは、その表現の中に、創造することに対する根源的な喜びが存在しており、それが音楽性やアルバムの構成などにも現れてきていることではないだろうか。ぼくはSmerzが3年かけてたどり着いた『Believer』を聴いて、「自分たちのサウンドは時間をかけて進化してきているし、そして今もやりたいことがたくさんあるんだ」というメッセージがこの作品に漂っているように感じられた。人によっては、成長や前進にはそれなりの時間がかかるものだ。しかし時間をかければかけた以上の結果が出ることも人生にはある。そんな当たり前のことをSmerz『Believer』はぼくたちに教えてくれる。

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リリース情報

Smerz『Believer』
Smerz
『Believer』(CD)

2021年2月26日(金)発売
価格:2,420円(税込)
XL1156CDJP
レーベル:XL Recordings / Beat Records

1. Gitarriff
2. Max
3. Believer
4. Versace strings
5. Rain
6. 4 temaer
7. Hester
8. Flashing
9. The favourite
10. Rap interlude
11. Sonette
12. Glassbord
13. Grand piano
14. Missy
15. I don't talk about that much
16. Hva hvis

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