北欧発フェミニズムギャグコミックが問う、現代における「恋愛」

北欧発フェミニズムギャグコミックが問う、現代における「恋愛」

インタビュー・テキスト
後藤美波(CINRA.NET編集部)

男性作家の一言に反発し、スウェーデンの女性作家たちが立ち上がった「生理アート」

―リーヴさんはいまやスウェーデンを代表するアーティストで、国内では大きな賞を受けたりもしているそうですね。特にどのような人たちに支持されているのでしょうか?

よこの:男性にも支持されていると思うんですが、やっぱり女性からは「こういうものが読みたかった」というような支持が強いのかなと思います。リーヴさんの同世代の人もそうですが、いま30代くらいの読者だと、10代のときにリーヴさんの作品が世に出始めて、その頃に彼女の本を読んで解放されたという人もいるみたいですね。

―作品は舞台化もされているんですよね。

よこの:はい。2020年の秋に『21世紀の恋愛』をもとにした舞台が国内で上演されましたが、その初日のとき、私がTwitterでフォローしているスウェーデンの女性の作家や批評家たちがみんな「最高」って言っていて、タイムラインを埋め尽くしていました。チケットもすぐ売り切れて、なかなかとれないみたいです。

『アイシュタインの妻』や『チャールズ皇太子の気持ち』も舞台化されていますし、『禁断の果実』はドイツでも舞台化されています。スウェーデンの王立ドラマ劇場で上演された公演の映像を見ましたが、すごくシュールな作品でした。あまり大爆笑する印象のないスウェーデンの観客も大笑いしていましたね。私も何度も吹き出しました。

ストックホルムの王立ドラマ劇場で行われた『21世紀の恋愛』の舞台版

―『禁断の果実』もそうですが、絵も含め内容は結構強烈ですよね。女性器についての誤った認識に切り込んだり、生理やオーガズムについて論じたり。それが大衆的な支持を受けるスウェーデンの社会もすごいなと思ってしまいます。

よこの:あとがきにも書いたんですが、『禁断の果実』のなかの生理をテーマにした「Blood Mountain(血の山)」の章の絵を含むリーヴさんの作品群が、2017年秋から2019年春までストックホルムの地下鉄駅構内に展示されました。それに対しては賛否両論あり、特に極右の人々から脅迫されたり、作品を傷つけられたりもしたそうです。

新聞記事などを読むと、その絵に対して好意的な人もいれば、「生理がオープンに語られるのはいいことだけど、巨大な絵として毎日見たいかというと微妙かも」っていう感じの人もいて。かならずしも賞賛だけされているわけではないようです。

―それはアートプロジェクトとして、作品が選ばれて展示されていたんですか?

よこの:そうですね。ストックホルムの地下鉄では、駅構内を美術館にするというアートプロジェクトが1950年代から行われています。駅構内の建築そのものがアートとして楽しめるものになっていたり、常設作品が設置されていたりするのに加えて、期間限定の展示がいろんな駅で行われています。リーヴさんの作品も期間限定の展示として選ばれました。

彼女の作品だけでなく、これまでもいろんな人の作品が展示されていますし、同時期に別の駅では別の作品も展示されていました。それでも、経血を流す女性の絵を展示するというのは、選んだ側にとっては挑戦的な試みだったのではないかと思います。スウェーデンでも話題になったようですし、海外メディアにも取り上げられました。展示期間も当初の予定から半年延長されたようです。

リーヴ・ストロームクヴィスト著、相川千尋訳『禁断の果実――女性の身体と性のタブー』(花伝社、2018年)
リーヴ・ストロームクヴィスト著、相川千尋訳『禁断の果実――女性の身体と性のタブー』(花伝社、2018年 / 詳細はこちら

―『禁断の果実』の「Blood Mountain」の章は、スウェーデン国内で「生理アート」が広く知られるきっかけになったそうですが、「生理アート」というのはどういうものなのでしょうか?

よこの:もともとは1960年代~70年代に世界的なフェミニズムの高まりのなかで、スウェーデンでも女性運動が盛んになった頃に出てきたもののようです。オープンに語るにはどこか恥ずかしいもの、タブーとされていた妊娠や出産、月経などをモチーフにしたアートやチラシがたくさん作られたそうです。生理現象を大っぴらに描いて可視化することで、女性の解放が叫ばれていたんですね。

その後はこの手のアプローチは下火になっていたようなのですが、リーヴさんは漫画を描き始めた2000年代の初めごろ、男性の漫画家に「女の漫画家は生理のことばかり描いている」と言われています。でも実際には生理のことなんて描かれていない。「だったら描いてやろうじゃないか」と彼女は発奮して作品を描き、ラジオ番組でも生理をテーマに話をしたんです。

「女の漫画家は生理のことばかり」発言を知った別の女性作家たちも刺激を受け、「1冊まるごと生理の本を作ってやろう」と40人でアンソロジーを作ったり。一時的なブームが起きたようです。かつてはセンセーショナルだった「生理アート」という古典的なやり方で、偏見に満ちた言動へ抗議したということだと思います。

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書籍情報

『21世紀の恋愛 いちばん赤い薔薇が咲く』
『21世紀の恋愛 いちばん赤い薔薇が咲く』

2021年2月10日(水)発売
著者:リーヴ・ストロームクヴィスト
訳者:よこのなな
価格:1,980円(税込)
発行:花伝社

プロフィール

よこのなな

1977年生まれ。1990年代半ばと2000年代初めにスウェーデンの地方都市でスウェーデン語や社会科学を学ぶ。図書館勤務などをへて、翻訳者に。訳書にリーヴ・ストロームクヴィスト『21世紀の恋愛 いちばん赤い薔薇が咲く』(花伝社)、フリーダ・二ルソン『ゴリランとわたし』(岩波書店)。

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