オアシズ光浦靖子へ吉住が訊く。30代からの人生・恋愛・芸のこと

オアシズ結成から29年目を迎えた光浦靖子と、芸歴6年目にして『女芸人No.1決定戦 THE W 2020』で優勝した吉住。二人は同じ事務所の先輩後輩の関係にあたる。そこで今回は吉住が、尊敬する先輩・光浦に、自身がいま気になっているテーマについて、思う存分問いかける取材を敢行。仕事や生き方にまつわる、4つの質問を投げかけた。

芸人として、また一人の人間として、戸惑いを率直に吐露する吉住に対し、光浦は、新聞や雑誌で長らく続けてきた人生相談の回答においても見られるように、その場しのぎの優しさや見通しの甘い希望を提示しない。けれども、長い芸能生活のなかで、選ばなかったり、選べなかったりした道に心を揺らしながらも、多くの人が漠然と見過ごしてしまうような矛盾や疑問を受け流さず、誠実に自身の仕事や生き方に向き合ってきた人にしか成せないやりかたで、そうした姿勢にこそシンパシーを感じる後輩と温かく対峙する姿があった。

―今日はよろしくお願いします。取材前に吉住さんとお話していたら、普段から現場で一緒になった先輩方によく「人生」に関する質問をされているとおっしゃっていて。

光浦:あら、すごいねえ。

―そもそもお二人はどんな関係性なのでしょうか?

光浦:プライベートでのつき合いはないですね。年齢も20個くらい違うもんねえ。

吉住:ラジオに呼んでいただいたことはありますけど、ライブで一緒になることもないですし、私が一方的にテレビで見てきただけです(笑)。オアシズさんはお二人とも、ぶれない感じがして、すごくかっこいいんですよ。「どういう人になりたいの?」って聞かれたら「オアシズさんみたいになりたいです」って答えているくらい。光浦さんのなんでも挑戦していかれる姿に憧れています。

光浦:私みたいになったら、ひとりぼっちになるよ?

吉住:でも、光浦さんはすごく人望がある感じがします。

光浦:仲のいいお友達はいるけど、初対面の人とあんまりうまくやれないの。自分のそういう面が芸人に向いてないのかなと思い続けながら、30年近く頑張ってきたもんで。

吉住:私も向いていないなと思っちゃうんですよ。

ネタをやっているあいだは、自分の空間で、自分の時間だから、誰にも侵されない

―吉住さんには事前に光浦さんへの質問を考えてきてもらいました。まさに、吉住さんからの一つ目の質問にいまのお話が繋がりそうです。

【吉住さんからの質問】
いろいろな仕事をさせていただけるようになって、自分に向いていることと、向いていないことがなんとなくわかるようになってきたのですが、光浦さんの仕事の向き合い方について聞いてみたいです。

吉住:ネタをやっているときは楽しいんですけど、最近テレビに出させていただくようになってから、テレビでの振る舞い方が下手だなあと思って逃げたくなるんです。すぐ泣きそうになっちゃいます。

光浦:わかるわよ、30代はホルモンバランスがぐちゃぐちゃになるから。

吉住:でも、だからと言ってネタだけやっていくのは、逃げているような気がしてしまって。それに芸人さんって、生きざまのすべてをさらけ出してこそ、という感じがあるじゃないですか。そういう姿を見ているとかっこいいし面白いなと思うけど、自分はそういう人間ではないから絶対にできない。だから「芸人」と名乗っていいのかなあと思ってしまうんです。

吉住(よしずみ)
1989年生まれ。福岡県出身。『新しい波』(フジテレビ系)のレギュラーメンバーになるほか、注目の若手芸人として各番組に出演中。『女芸人No.1決定戦 THE W 2020』で優勝。『R-1グランプリ2021』決勝進出。初のベストネタDVD『せっかくだもの。』が3月31日に発売。

光浦:私は「芸人」という肩書きは、ネタをやっている人だけが言える職業と思ってきたから、自分で芸人と名乗ったことはないの。でも世間からは「女芸人」としてくくられちゃっていて、「ネタをやらないのに」って自分ではずっと負い目に感じていた。ネタをやっているあいだは、自分の空間で、自分の時間だから、誰にも侵されない。それって強みじゃない。

吉住:そうですかねえ……。それに、絶対に私と感覚が違いそうな人から「こういうことやったら絶対面白いですよ」ってアドバイスを言われると、イライラしちゃうんですよ(笑)。ペーペーの私がそんなことを思ってはだめだとわかってはいるのですが。違うと思ったときに、相手の気分を害さず、自分が思ったことをうまく伝えられる人もいますけど、私はそれができないんです。

光浦:わかるわかる。でも思ったことをまっすぐ言えないような風潮っておかしいよね。日本全体に漂っているそういう空気に、私は納得できなくて、よく「キー!」ってなっちゃう。30年近くこの世界にいて、頭を下げなきゃいけない場面が山ほどあったけど、やっぱり下げれなくって。

光浦靖子(みつうら やすこ)
1971年生まれ。愛知県出身。同級生だった大久保佳代子とお笑いコンビ「オアシズ」を結成。国民的バラエティー番組『めちゃ2イケてるッ!』(CX系)のレギュラーなどで活躍。現在は、ラジオ番組などに出演するほか、手芸作家・文筆家としても活動。新聞、雑誌などへの寄稿のほか、著書には『靖子の夢』(スイッチパブリッシング)、『傷なめクロニクル』(講談社)などがある。

吉住:自分も、なんでこんなに不器用なんだろうってよく思います。求められたことをやればいいとわかっていてもできなくて。頭でっかちで柔軟性がないんですよ。売れてる方ってみなさんめちゃくちゃ優しいじゃないですか。いい人しか残っていかないような世界で、私はそこまでいい人じゃないしなと思っちゃって(笑)。

たとえば、メイクさんとの会話も、人見知りだからあまり盛り上がらなくて、ほかのタレントさんとすごく楽しそうに会話しているのが聞こえてくると、「メイクさんも、こういう人にメイクをしたいだろうなあ……」と。そこでもまた敗北を感じるんです。

光浦:いい人はスタッフさんにも愛されるからみんなが協力してくれるのよ。だから同じような人ばかりがテレビに出ているのは、しょうがない面もあるよね。つくる側がビジネスとして割り切って、性格の悪い人を使う番組が増えてきたら、バラエティーの多様性も高まるんじゃないかと思うよ。

彼氏の理不尽な要求をどれだけ許せるか、「己を鍛える修行」がおつき合いよ

【吉住さんからの質問】
31歳なのですが、いまのうちにやっておいたほうがいいこと、心に留めておいたほうがいいことがあれば教えていただきたいです。

光浦:それは恋愛だけですよ。だって彼氏というだけで、半分家族みたいに理不尽な要求をしてくるじゃん。それをどれだけ許せるか、己を鍛える修行がおつき合いよ。

吉住:まさにおつき合いって、お互いに改善しあったり、自分の気持ちを人に伝えたりするような、人との深いコミュニケーションを学べるものじゃないですか。そういう恋愛をしてこなかったので、人間関係の築き方がわからないんですよね。それが仕事のコミュニケーションにも影響しているような気がしていて。

養成所に通っていたときに、何人か女の子がいたんですね。ほかの子たちは恋愛をしていたんですが、私だけ全然せずにきて、『THE W』で優勝したんです。恋愛に時間を割かなかった分、ご褒美をもらったのかなと思いながらも、もしあのときに恋愛していたらどういう人生になっていたのかなと考えることもあります。この年齢になると、結婚していたり、子どもがいる子もたくさんいます。もちろんいろんな幸せがあるとは思うんですけど。

光浦:いま私がどちらかを選べと言われたら、『THE W』で優勝する人生かもなあ。だって、そっちのほうが楽しそうじゃん。

―光浦さんが31歳の頃は、振り返るとどういう時期でしたか?

光浦:忙しかったし、楽しかったです。愚直な性格だもんで、とにかく言われたことを全部まっすぐにやっていたけど、もうちょっと賢く、うまいことやっていたら、もう少し売れていたかも(笑)。でも敵ばかりつくる私を見て、1割の人は私のことを本当に愛してくれるから、どっちもどっちだよね。どういう道を選ぶのも正解だと思う。

吉住:いままでがむしゃらにやってきて、ここからまた頑張らなきゃいけないんですけど、私はいったん「ふう」ってなっちゃって……。

光浦:優勝しちゃったもんねえ。

吉住:『THE W』で優勝するまでは、ネタを頑張ればその先に幸せがあると思っていたんですけど、一つ目標をクリアして、「芸能界」というものが見えてきたときに、自分がどこに向かって歩いていけばいいのか、迷い始めてしまって。かと言って、自分はものすごく大きな会場でコントをやったり、全国を回れるほど好かれる芸人じゃないような感じもして(笑)。幸せってなんだろうと考えることがよくあるんです。

私のダメな部分すべてを、絶対に肯定してくれる友達が一人でもいるといいよね

【吉住さんからの質問】
光浦さんが人生のなかで大切にされていることについてお聞きしたいです。

光浦:今日ここにくる前、私はテニス教室で1時間半ほどテニスをやってきたの。

吉住:えーっ、かっこいい。

光浦:全然上手にならないけど、超楽しいよ。最近はエッセイと手芸の両方で出版の予定があるからてんてこまいなんだけど、ものをつくっているときも楽しい。たまにテレビに出て、緊張感とスリルとへこんで帰ってくることを味わって、家で自分のテンポでできることをするのが、私にとっては理想的。

―文章を書くことや手芸など、ものをつくることは光浦さんにとってご自身のリズムをつくるための大切な要素なんですね。

光浦:それがないと罪悪感で溺れちゃう。無為に時間を潰していると、どうしても悪いほう、悪いほうに考えがいっちゃうもんで。電車で移動して、スーパーに寄って、晩御飯つくって、原稿書いて、手芸の作品つくって、英会話のオンラインレッスンを受けて、Netflixを見てから寝る。そういうときこそ「ああ幸せだなあ」と思うし、『文春』についてきてほしいよね(笑)。こんなに普通に生きている芸能人がいるんだって記事にしてほしいですよ。

吉住:私は息抜きがすごく下手なんですよ。一つ気になることがあると動けなくなっちゃうんです。いまはそれが仕事になっていて、だから恋愛もうまくできなくて。ネタを書かなきゃいけないのに、人を好きになって、デートをするってすごくないですか……。

光浦:真面目だなあ(笑)。自分より人としてだめだと思う親友をつくればいいのよ。

吉住:おお……。

光浦:「自分より上の人たちと一緒にいて影響されましょう」ってよく言われるけれど、私は子どもの頃からどうにも納得できなくて。性格が悪いのかもしれないけど、私は自分よりだめな子と一緒にいるときのほうがいい成績を残せるんですよ。自分より優れた人と一緒にいると、劣等感が膨らんでいっちゃう。

仲良くしている大好きなお友達がいるんだけど、その人とはお互いに「相手のほうが不幸だわ」って思いながら生きてるの。でも、その友達だけは、私が「現場でまた喧嘩したよ」って言うと「やったねー」って褒めて、笑ってくれる。私のだめな部分すべて、絶対に肯定してくれるの。こっちもこっちで、向こうが失敗すると笑うしね。そういう感性の合う友達が一人でもいるといいよね。

普段「不幸」で片づけてしまうことが武器になるなんて、ここは天国だ! って思ったの

―いまのはプライベートでのお話でしたけど、吉住さんからこういった質問もいただいています。

【吉住さんからの質問】
「人を傷つけない笑い」や、「ブス」のような言葉を言わないお笑いについてどう思いますか?

―自分のだめな部分を笑ってもらうことで肯定されるような感覚というのは、お仕事のなかでも感じられることがあるのでしょうか?

光浦:私は上京して初めてお笑いライブを見に行ったときに、頭が悪いとか、ルックスが悪いとか、実家が貧乏みたいなことをネタにしてスポットライトを浴びている人たちを見て、みんなが普段隠していたり、不幸と片づけてしまうようなことが武器になるなんて、「ここは天国だ!」って思ったの。

だから、テレビのなかで「ブス」と言われる役割をもらっても、自信満々にやってきたんです。でも、それが人を傷つけていたのかもしれないと知って、「ああ、そうなのか……」と。自分はそういうネタで笑いをとっている人たちを見て素敵だと思って、正しいと信じてやって来たから、(いまのこの状況を)私もまだあまり整理できていないんです。

吉住:私自身この質問をされることが多いので、光浦さんにもお聞きしてみたかったんです。私も養成所に入って、社会のなかではマイナス要素とされてしまうような部分が、お笑いの世界では武器になって、救われる子たちがいることを目の当たりにしてきて。私自身は、その瞬間に笑いが取れるんだったら、ブスとしていじられてもいいと思っちゃうんですよ。

光浦:ぶっちゃけあなたの銀行強盗のネタ( ※『THE W』での吉住の決勝ネタ)はブスだから面白いじゃん。

吉住:はい。

光浦:ブスのルックスの人がかわいらしいキャラクターを演じるから腹が立って面白いわけで、だからみんな笑っているはずなのに、「ブス」と直接言葉にしなければOKっていうのが、私はちょっと不思議に思う。でもマスなものは、見たい人だけが見るというわけにいかないから、メディアに出る以上責任があるもんね。下手ないじりによって、ただただいじめられてしまう人もいるから。

光浦靖子が考える、これからの生き方。「次の人生の自分をかわいがってあげるための、レールを引きたい」

―今日いろいろとお話を伺ってきたなかで、吉住さんが現在感じている戸惑いとともに、光浦さんのご自身も長くお仕事をしてこられたテレビの世界に対する非常に客観的な視点を感じました。

光浦:こういう心境になれたのは、去年か今年くらいからかな。芸能界は楽しいので、続けられるものなら続けたいし、この仕事だけで食べていけるなら万々歳だけど、現実を見つめたらそうではないなと思って。女性の2人に1人は、90歳以上まで生きるんですよ。それを聞いたときの恐ろしさといったらないですよね。もし自分も100歳まで生きるとしたら、あと50年はあると考えたときに、これから身体が衰えていって、収入も減っていくであろうなかで、どうやって笑って生きていけるか、真剣に考えなきゃと思ったんです。

こういうことを言うと「夢がない」とか言われるけど、私は別に悲観的になっているわけじゃなくて、そういう現実があるなかで、どうしたら自分の人生が楽しくなるかを考えてうきうきしているだけで。いまのところは仕事もあって、元気もあって、人生の後半50年のなかでも、いまの私が一番無敵なはずなんです。そんな無敵の状態であるいまから60歳までの10年間に、次の人生の自分をかわいがってあげるための、レールを引きたいの。18歳までの自分に親がしてくれたようなことを、自分で自分にしてあげるようなイメージ。

そう考えたときに、まずやるべきことは、いらんプライドを捨てることだなと思いました。「芸歴何年」みたいなことにとらわれるのはやめる。あとは人と比べることもやめました。「あの人より劣ってる」とか、ついつい考えてしまっていたけど、何十年も努力して改善されなかったんだから、もう別の生き物だと思おうって。

―「プライドを捨てる」って簡単なことではないですよね。長く続けてきたことであるほど、自分はその世界でしか生きられないと思ってしまったりもしますし。

光浦:全然簡単じゃないです。(相方の)大久保さんに「ごめんね、バーターで仕事をもらえないかな」って平気で言えるようになったら一人前だと思っています。まだ言ってないけどね。でも、その世界でしか生きる道がないと思えるような仕事なら、多分その職業が一番向いていると私は思いますよ。

いま友達のあいだでは、おばあさんのコミューンをつくりたいという話題がホットで。私はいずれその主になりたいんですよ。一番貯金があるから、私が資本家となって建物を買うの(笑)。「ばばあ」という労働力を最大限に使いこなしていけたら面白いし、そんな私たちを見て笑ってもらえる世の中になったらいいなと思っているんですよ。

吉住:今日いろいろなことをわーわー言ってきたけれど、私は何を言ってたんだろう……? と思ってきました(笑)。100歳まで生きるって考えたら先が長すぎて。

光浦:やばくない? 怖いよ。

吉住:どうしても先のことが考えられなくて目の前のことでいっぱいいっぱいになっちゃうんですけど、もうちょっと、いまの状況をちゃんと楽しんだり、自分に優しくたりしたいなと、光浦さんとお話しして思いました。

光浦:ネタをやって笑いがとれるって、それだけでご褒美じゃん。私はあなたからネタを取った能力で30年近くテレビの世界で戦ってきたんだから(笑)。ネタという最後の拠り所がある分、もっと自信を持ったらいいし、何も怖くないよ。

吉住:ありがとうございます。私もいつかそのコミューンに入れるように、頑張ります。

プロフィール
光浦靖子 (みつうら やすこ)

1971年生まれ。愛知県出身。同級生だった大久保佳代子とお笑いコンビ「オアシズ」を結成。国民的バラエティー番組『めちゃ2イケてるッ!』(CX系)のレギュラーなどで活躍。現在は、ラジオ番組などに出演するほか、手芸作家・文筆家としても活動。新聞、雑誌などへの寄稿のほか、著書には『靖子の夢』(スイッチパブリッシング)、『傷なめクロニクル』(講談社)などがある。

吉住 (よしずみ)

1989年生まれ。福岡県出身。『新しい波』(フジテレビ系)のレギュラーメンバーになるほか、注目の若手芸人として各番組に出演中。『女芸人No.1決定戦 THE W 2020』で優勝。『R-1グランプリ2021』決勝進出。初のベストネタDVD『せっかくだもの。』が3月31日に発売。



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「幸福度が高い」と言われる北欧の国々。その文化の土台にあるのが「クラフトマンシップ」と「最先端」です。

湖や森に囲まれた、豊かな自然と共生する考え方。長い冬を楽しく過ごすための、手仕事の工夫。

かと思えば、ITをはじめとした最先端の技術開発や福祉の充実をめざした、先進的な発想。

カルチャーマガジン「Fika(フィーカ)」は、北欧からこれからの幸せな社会のヒントを見つけていきます。

スウェーデンの人々が大切にしている「Fika」というコーヒーブレイクの時間のようにリラックスしながら、さまざまなアイデアが生まれる場所をめざします。

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