プロスケーター森田貴宏の遊びの美学 のめり込むのもほどほどに

プロスケーター森田貴宏の遊びの美学 のめり込むのもほどほどに

インタビュー・テキスト
中島晴矢
撮影:沼田学 編集:今井大介(CINRA.NET編集部)

技術至上主義から一歩離れた、「ほどほどに」を大切にする、遊びの哲学

―スケボーをはじめてみたいけど、「どうやればいいかわからない」「運動神経ないしな」などと躊躇している人も多いと思います。僕もそのタイプなんですが……(笑)。

森田:それは絶対やってみた方がいいですよ! 逆に、上手くなきゃいけない理由ってあるんですかね? それが僕にはわからない。スキル至上主義の風潮は苦手ですね。

森田貴宏

―「オーリー(板と一緒にジャンプする技)なんていらない」と言う森田さんのスケボー哲学に通じる話ですね。

森田:そうそう。スケボーが上手い人たちだけで集まって、下手な人をせせら笑ってるなんて、ダサいじゃないですか。僕の好きなスケボーってそういうことじゃないんです。「上手い下手」はどうでもよくて、それより「面白いかどうか」ですよ。僕が好きなタイプは、誰かがトライしようと真剣になりすぎているときに変なギャグを言って、緊張をほぐすつもりで笑わそうとしてくるような奴(笑)。そんな感じでいいんですよ。

あと大事なのはノリですよね。下手でも「俺行きます!」って坂を下っちゃうような奴を見ると、いいなあと思います。僕もアホなので感情に従って後先考えずにチャレンジするタイプ。だから骨折しまくったんですけど(笑)。でも、そういうときのテンションがガーンって上がってハイになる感覚は、言葉じゃ説明できないですもん。勝気にトライして成功したときは最高の気分だし、たとえ失敗したとしても周りのみんなは絶対盛り上がるし。要するに「遊び」であり「お祭り」なんですよ。

森田がオーリーはいらないと語るインタビュー

―そもそもスケボーは遊びであり、日常の中のちょっとしたお祭りでいい。

森田:僕はスケートパークに行くときも、犬が散歩に連れてってほしくて「ハッハッハ!」って舌を出してるようなテンションですよ。それをそのまま表現すればいい。パークで深刻に練習しててもしょうがない、遊びなんだから楽しまないと。たとえば、僕は70歳のじいさんになってもスケボーをやってると思うんですが、体が全然動かなくても車椅子をめちゃくちゃに改造してパークに登場したい(笑)。そこに上手い下手なんてないじゃないですか。技術だけで勝負してる人は、それこそ井の中の蛙だと思いますね。その周りには何億倍も豊かな表現の海が広がっているはずです。

森田貴宏

―スケボーを始めたくなってきました……! オリンピックの正式種目になったり、コロナ禍に密にならず楽しめたりすることで、にわかにスケボー人気が高まっていることについてはどう思われますか?

森田:人気が出てきたらプレイヤー人口が増えるという証拠なので、いろんな価値観の違いが顕著になりますよね。そうすると、スケボーってこういうものだよという意見がたくさん出てくると思うんですけど、僕が一番言いたいのは「のめり込むのもほどほどに」ってことですね。遊びだから適当にね、と。僕が言っても説得力がないかもしれないですけど(笑)。たとえば遊びすぎて、そのせいで家庭が崩壊したら、それはイケてないですよね。ほどほどにして家に帰った方がいい。

僕は何かに熱中すると、こもって作業してて気づいたら2日も経ってた、なんていうことがあります。でもそれを続けていたら家庭にヒビが入るじゃないですか。今僕にとって一番大切にしなきゃいけないのは、やっぱり家族。だから本当はやりたいことでも、自分で自分を止めてますもん、「ほどほどにね」って。

森田貴宏

目指すのは何代も続く伝統の店。歴史を積み重ねることへの憧れ

―ちょうどいい塩梅で楽しむことが大事だ、と。では、これから森田さんが挑戦していきたいことはありますか?

森田:ウチの「FESN」(Far East Skate Network)という屋号をできる限り続けていきたいですね。今は自分の考えるスケボーについて、ウチのスタッフたちにゆっくり教えてるところです。軸は僕が持ってるんですが、スタッフたちの個性を生かしたハンドリングを心掛けてます。必ずしも僕が絶対というわけじゃなくて、スタッフたちの意見もすごく重要になってくる。そうすると、彼らは自分たちの意思が反映された仕事になるから、やっていて楽しいはずですよね。

僕がワンマンでやっていた時期もあるんですが、今は2、3歩後ろに下がってます。それで今いるスタッフたちが力をつけてくれたらいいし、また彼らが若い子たちを育てていけばいい。そういう循環を作ることが、自分が生涯を通してやりたいことかもしれないですね。やっぱり歴史があるものってすごいじゃないですか。何百年も続いてるお茶屋さんとか、そういう世界に憧れます。僕が死んじゃった先の話ですけど、それを自分はスケボーでやりたいんです。

―森田貴宏独自のスケボー観を次世代へとバトンする、そんな実践の真っ最中なんですね。

森田:僕がスケボーで一番好きなのは、「とりあえずやってみる」「トライしてみる」という精神性。そこがスケボーの爽やかさなんですよね。やらないと答えは出ないから、まずやってみようという世界。だから僕自身、これからもどんなことにでもトライして、答えを探していこうと思ってますね。

森田貴宏
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店舗情報

FESN laboratory

住所:〒164-0001 東京都中野区中野3丁目33−15
営業時間:14:00~20:00
定休日:木曜日
電話:03-6382-5406

プロフィール

森田貴宏(もりた たかひろ)

東京都杉並区松ノ木出身のスケーター。極東最前線から斬新な映像作品を発表するビデオプロダクション、FESNの代表。2008年に発表した《overground broadcasting》は、国内だけでなく世界各国で賞賛を得た代表作。アパレルブランド、LIBE BRAND UNIVS.の代表も務める。現在は、ホームベースでもある中野でスケートボードをオリジナル制作するFESNラボラトリーを運営。

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