映画『わたしの叔父さん』 家族と夢の狭間で揺れる主人公を描く

映画『わたしの叔父さん』 家族と夢の狭間で揺れる主人公を描く

テキスト
村尾泰郎
編集:久野剛士(CINRA.NET編集部)

自分自身と折り合いをつけるクリス。その人生を描く上で織り込まれるユーモア

この物語ではクリスの自立を邪魔する者は誰もいない。問題はクリス自身だ。彼女は身体の不自由な叔父さんを残して独り立ちすることに罪悪感を感じている。それだけではなく、愛する者をまた失うことに恐れを抱いている。たとえば叔父さんが入浴しているとき、クリスは浴室のドアに耳を当てて異変が起こっていないか確認し、叔父さんが出てくる気配がすると、ドアから離れてなに食わぬ顔をして着替えを用意する。そんなクリスが自分自身とどう折り合いをつけるか。その過程をピーダセンはミニマルな演出で描きながら、そこにささやかなユーモアを織り交ぜる。

なかでも、マイクとデートするくだりは楽しい。デートのことを知り、スーパーでクリスに「これは必需品だぞ」とヘアアイロンを勧める叔父さん。そんな優しい叔父さんを家に置いてデートするのが後ろめたくて、とんでもない作戦を立てるクリス。そして、それを戸惑いながらも受け入れるマイク。善意に満ちた人々に囲まれて、クリスの巣立ちの日は近いと思った矢先に、彼女の生活を揺るがせる「事件」が起こる。

リアリティーを交えて描かれる、普遍的な「人生の選択」というテーマ

ピーダセンは物語の舞台になったユトランド半島南部で生まれ育ったそうだ。彼にとってクリスと叔父さんの暮らす農家は子どもの頃から見慣れた風景であり、廃れゆく伝統的な酪農家の日常を映像に記録したいという思いもあったらしい。撮影中、ピーダセンは映画に登場する農場にキャンピングカーで滞在。撮影には小型カメラを使用していて、自然光をいかした映像からは現地の澄んだ空気が伝わって来る。日常に対する眼差しは小津譲りかもしれないが、小津のような完璧なショットへの執着は感じさせず、自然な佇まいを大切にした映像が物語を身近に感じさせる。

リアリティーはこの映画にとって1つのエッセンスで、クリスを演じたイェデ・スナゴーは女優になる前は獣医で、叔父さんを演じたペーダ・ハンセン・テューセンは、なんとイェデの実の叔父さんで酪農家だという(今回、初めて演技に挑戦した素人)。そして、2人を取り巻くキャストは、農場から半径15kmに暮らす人々から選ばれたそうだ。登場人物みんなが慎ましくてナイーブなのは土地柄なのかもしれない。

『わたしの叔父さん』予告編

しかし、ピーダセンは生まれ故郷をレペゼンする作品を作りたかった訳ではなく、知っている土地、知っている人たちを通じて、誰もが直面する「人生の選択」という普遍的な問題を描いている。自分の夢を目指すのか、それとも年老いた叔父さんを世話するのか。クリスが10代だったら、叔父さんが実の父親だったら、悩み方は違うだろう。クリスの状況ではどちらを選んでも厳しい現実が待っている。それだけに観客はクリスを見守りながら、クリスの葛藤に共感する。

クリスにとって叔父さんは自分の運命を司る存在であり、『わたしの叔父さん』は「わたしの運命」と言い換えることができるかもしれない。人生の選択に悩むクリスを見て思い出したのが『赤毛のアン』(L・M・モンゴメリ)だ。アンは夢だった大学進学の直前に、孤児だった自分を引き取ってくれた養母マリラの目の病気を知って、進学するか家に残るか決断を迫られるのだ。

映画のラストシーンで、クリスが食事をしながら叔父さんをちらっと見る。その表情が印象的で、いまクリスはどんな想いを抱いているのだろう、と想像せずにはいられない。アンは人生の選択をしたあと、「神は天にいまし、すべて世は事もなし」とブラウニングの詩の一節を読んで自分の運命を受け入れるが、クリスはどうだったのだろう。『わたしの叔父さん』はありふれた人々の日々の営みを丁寧に描きながら、観る者一人ひとりに「自分にとって人生で大切なものはなにか」を静かに問いかける。ありがちなヒューマンドラマに落とし込まない、優しくてリアルな物語だ。

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作品情報

『わたしの叔父さん』
『わたしの叔父さん』

2021年1月29日(金)からYEBISU GARDEN CINEMA、アップリンク吉祥寺ほか全国で順次公開

監督:フラレ・ピーダセン
出演:
イェデ・スナゴー
ペーダ・ハンセン・テューセン
オーレ・キャスパセン
トゥーエ・フリスク・ピーダセン
上映時間:110分
配給・宣伝:マジックアワー

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