半田悠人の建築愛の根源を辿る。幼少期から続く「空間」への欲望

半田悠人の建築愛の根源を辿る。幼少期から続く「空間」への欲望

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半田悠人
編集:石澤萌(CINRA.NET編集部)

「私にとっての建築は、単に建築物を設計することではなく、小さくて原初的な空間の可能性を探るところ」

LEGOで遊んでいたのも、秘密基地も、全部、空間への憧れだった。それが私にとっての建築の動機になっている。

今でも広めのバルコニーを見たりすると、「壁を立てれば簡単に部屋を作れるな」とか(もちろん実際にやってしまったら違法なので、想像だけ)、駅ホームのデッドスペースに自分なりのキオスクの建て方を想像したり、空いていそうなスペースを見つけるといつだって、頭の中でだけ自分のものにしてしまう。無人交番のかつての宿直室はホテルにすればいいし、潰れたガソリンスタンドは駐車場にするより住んだほうが面白そう。

これは職業病ではなく、幼少期の体験からくる癖だ。そこで行いたい特定の目的があるわけではない。自分だけの場所がほしいという、一種の所有欲なのだと思っている。そして場所があるからこそ、何かをしたくなるのではないだろうか、と思う。そういえば、大学進学で姉が家を出て行くまでは、末っ子の私には自分の部屋がなかったのだ。ずっと自分の部屋が欲しかったあのときの欲望は今の自分にも色濃く残っている。

私にとっての建築は、単に建築物を設計することではなく、こういった小さくて原初的な空間の可能性を探るところにある。私が関わる空間や建築物は「何かをしたくなる」場所であってほしい。

半田悠人

秘密基地を作ったことのある人は年々減っていっているのだろうかと気になる。YouTubeもゲームも面白すぎて夢中になるのもわかるけど、たまにはそれが行われている空間に目を向けてみてしい。自分の部屋や、リビングや学校や公民館でもいい。建築がすべての事象に関係していることに気がつけば、旅行に行っても、テレビを見ても日常が面白くなるに違いない。

私は今ならば、シャベルと針金だけでも相当な秘密基地を作れる自信がある。素材も道具も変わらないのに、デザインさえすれば成果物は大きく変わりうる。

窓から建築に目を向け、世界に思いを馳せることが、建築家の思想を理解する第一歩

あなたが憧れる住まいと、今あなたが住んでいる空間の違いはなんだろうか。その違いが広さだとしたら、狭い名建築を見てみてほしい。条件が厳しくても、素晴らしい空間はいくらでもある。

また、空間の質はほんの些細な部分で大きく変わる。一番わかりやすいところで言えば、家の窓かもしれない。窓という概念を取り外し、サッシのない大きな透明ガラスで囲まれるようになったとしたら、部屋の印象はそれだけで大きく変わるだろう。

わかりやすい例で、徳島県神山町の例を挙げる。外周部をすべてガラスに変えたリノベーション施設だが、それだけで随分と印象が変わる。見える部分と見せたくない部分をしっかりと設計することで、古民家が拓けたオフィスに生まれ変わっている。「自分の部屋の壁一面が窓だったら……?」そんな想像の連続で、意匠建築はできている。

徳島県神山町にある「えんがわオフィス」。築80年の古民家をサテライトオフィスに改装した建築物。設計は伊藤暁、須磨一清、坂東幸輔(画像提供:グリーンバレー / 撮影:生津勝隆)
徳島県神山町にある「えんがわオフィス」。築80年の古民家をサテライトオフィスに改装した建築物。設計は伊藤暁、須磨一清、坂東幸輔(画像提供:グリーンバレー / 撮影:生津勝隆)

これまで、私と建築の関わりを語ることで、建築が遠い存在ではなく、身近なものであることを伝えてきたつもりだ。一方で、世界には無数の建築と建築家が存在していて、その数だけ背景がある。すべてを理解することは難しいかもしれないが、この連載を通して、建築を遠巻きにせずに、少しでもそれらに思いを馳せるきっかけを作れたなら、私は建築家のひよっことしてありがたく、そして嬉しく思う。

連載:半田悠人が恋するように綴る建築デザイン

優れた建築デザインも北欧の魅力のひとつだが、建築はどこか「遠いもの」だと思ってないだろうか?
本連載では、専門家として活躍しながらもいまだに恋するように建築に向き合う、建築家・半田悠人が建築やデザインの魅力を紐解く。

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プロフィール

半田悠人(はんだ ゆうと)

幼少のころに見た大工さんに憧れ、挫折と紆余曲折を経た後、建築の道へ進む。総合芸術制作会社デリシャスカンパニー主宰。現在も建築家として数々のプロジェクトを手がける。

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