ロイ・アンダーソン監督の人間論 人は独りだが、ひとりきりではない

ロイ・アンダーソン監督の人間論 人は独りだが、ひとりきりではない

インタビュー・テキスト
相田冬二
編集:久野剛士(CINRA.NET編集部)

誰もが孤独だが、ひとりきりで生きているわけじゃない。本作が示す、穏やかなつながり

孤独。エンドレス。永遠。一見、つながらないはずのものが、つながっていく。『ホモ・サピエンスの涙』は、オムニバスではないし、群像劇でもない。だが、それぞれ別個のはずの情景は、見えざる映画の力によって、穏やかに結びついていく。結んでいるのは、観客のまなざしだ。アンダーソンは、作品にどんな魔法をかけているのだろう。

ロイ:つながりや結びつきのためには、サプライズが必要です。私は、観る人を驚かせたかった。いわゆる物語に準じると、本当の意味での驚きからは遠ざかります。フラグメントなシーンとシーンとをつなげると、驚きが生まれます。その結びつきに、新しい意味が付与されるのです。それがなによりのサプライズ。驚きは、私たちの意識や思考を拡張してくれます。

その驚きを享受すると、不思議な一体感も生まれる。人間は独りだが、ひとりきりで生きるわけではない。そんな感慨がもたらされるのだ。

『ホモ・サピエンスの涙』場面写真 ©Studio 24
『ホモ・サピエンスの涙』場面写真 ©Studio 24

それは、映画館で映画を観る体験によく似ている。たった独りで映画を観に出かけても、映画館には不特定多数の観客たちがいて、自分は、見知らぬその人たちと一緒に、同じ画面を見つめる。そのことによってもたらされるものも、やはり不思議な一体感だ。

ロイ:私が、なぜ、映画という表現を選んだのか。それは、やはり、私自身が映画館の中で素晴らしい体験をし、素晴らしいパワーを感じたからだと思います。特に、イタリアのネオリアリスモ映画(第2次大戦後、写実主義的な手法で作られたイタリア映画の一群)は大きな存在です。この映画という芸術形式で、私も作品が創りたいと、思わされたのです。

映画は、ものの考え方にも影響を与えます。映画館での映画体験が、いまの私を形成しているのです。

『ホモ・サピエンスの涙』場面写真 ©Studio 24
『ホモ・サピエンスの涙』場面写真 ©Studio 24
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公開情報

『ホモ・サピエンスの涙』
『ホモ・サピエンスの涙』

2020年11月20日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国で順次公開

監督・脚本:ロイ・アンダーソン
出演:
マッティン・サーネル
タティアーナ・デローナイ
アンデシュ・ヘルストルム
上映時間:76分
配給:ビターズ・エンド

プロフィール

ロイ・アンダーソン

1943年、スウェーデン・ヨーテボリ生まれ。スウェーデン・フィルム・インスティチュートで文学と映画の学位を取得。少年少女の恋のめざめを瑞々しく描いた初の長編映画『スウェーディッシュ・ラブ・ストーリー』(70)が、ベルリン国際映画祭で4つの賞に輝き、世界的な成功をおさめた。続く長編2作目の「ギリアップ」(75)も、カンヌ国際映画祭監督週間に出品。映画界で躍進する一方、75年にはCMディレクターとしてのキャリアをスタート。世界最大級の広告賞カンヌライオンズでゴールドライオンを8度獲得、CM界にもその名を轟かせる。81年、自由に映画をプロデュース・制作するため、自身のプロダクション“Studio 24”をストックホルムに設立し、独自のユニークな映画制作スタイルを発展させる。その後、長編3作目『散歩する惑星』(00)が、カンヌ国際映画祭で審査員賞に輝き、大きな注目を集める。続く長編4作目『愛おしき隣人』(07)も同映画祭ある視点部門に出品、スウェーデン・アカデミー賞で作品賞含む主要賞を獲得するなど、名実ともにスウェーデンを代表する巨匠として不動の地位を確立。この2作で、固定ショット、綿密に構想された絵画的なシーン、不条理コメディ、そして本質的なヒューマニティを特徴とするスタイルが確立された。09年には、ニューヨーク近代美術館(MoMA)でレトロスペクティブが開催され、映画だけではなくCMの上映も行われた。長編5作目『さよなら、人類』(14)は、数々の話題作を抑えヴェネチア国際映画祭で金獅子賞(グランプリ)を受賞。『散歩する惑星』『愛おしき隣人』から続いた“リビング・トリロジー”(人間についての3部作)が、同作の発表により15年かけて完結した。長編6作目となる最新作『ホモ・サピエンスの涙』(19)は、ヴェネチア国際映画祭にてプレミア上映され、見事、銀獅子賞(最優秀監督賞)に輝いた。

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