オードリー若林「生きづらさ」の答え。あるべき論から自由になる

オードリー若林「生きづらさ」の答え。あるべき論から自由になる

インタビュー・テキスト
黒田隆憲
撮影:前田立 編集:青柳麗野(CINRA)、川浦慧(CINRA.NET編集部)

オードリーは「けったいなおじさん」であることを許していこうって気持ちが強くなった

―こうした執筆活動も含め、若林さんはさまざまなお仕事をされていますが、あえて「主戦場」をあげるとしたらどこですか?

若林:それは『オールナイトニッポン』ですね。ブースに入って密室で、春日という「個体」としゃべるのは、オードリーにとって一番ミニマムなスタイルなんです。ああやってふたりで対話することの先に、漫才もあるわけですから。

『オードリーのオールナイトニッポン』Twitterより

―春日さんと話しているときは、いつも本当に楽しそうです。

若林:あいつにそれ言うのは悔しいけど、楽しいですね。ああいう人間は僕からすると信じられないんですよ。頭おかしいですよね、(いまの奥さんと)10年つき合ってたのを内緒にしていて、そこそこの事件を起こしているのに結婚もして。しかもあまり気にしてないっていう(笑)。

―昨年、武道館で行われた漫才もオードリーの新境地といえるものでした。あれからおふたりとも結婚され、社会全体もコロナによって大きく変わっていくなか、これからのオードリーの漫才もかたちを変えていきそうですか?

若林:こういう言葉でいいのかわからないですけど、オードリーに対して「けったい」であることを許していこうと思ってて。僕らは若い子の前でも『キン肉マン』の話とか、プロ野球や1990年代カルチャーの喩えとかしちゃうんですよ。すると当然、「そんなおじさんの喩えなんかわからない」と彼らは言いますよね。でも、そうなってもいいのかなと。

武道館の前までは、喋りのキレ味をちゃんと深夜のラジオでもやっていかなきゃと、ちょっと思ってたんですよ。でも、「けったいなおじさん」であることを許していこうという気持ちのほうが強くなりました。

―以前ラジオでも「俺たちはめんどくさいおじさんじゃなくて、可愛いおじさんにならなきゃダメなんだ」という趣旨のことをおっしゃっていたじゃないですか。そこの境界線は紙一重だと思っているのですが、めんどくさいおじさんではなく「けったいなおじさん」になるためにはどうしたらいいのでしょう。

若林:それって、まさにいま考えていることで。ちょっと言葉を選ぶんですが、おじさんが「おじさん」であることに自信が持ちにくくなっていることが、僕は気になっているんです。むしろ、どんどん「おじさん」って言われていこうじゃないかと。それは僕らがそもそも「おじさん」だからなんですけど、若い子に人気のスニーカーを履いて、『鬼滅の刃』を読むってことは絶対やらないぞという(笑)。

若林正恭

―若い子に寄せていくのではなく、むしろ「おじさん」を貫き通すと。

若林:要するにカルビが食べられなくなったり、胃カメラが怖かったりした話を「正直に話していく」ということなんです。もちろん、「おじさん」がこれまで行なってきた悪しき風習もあったと思うんですよ。だけど、いまって「おじさんは傷ついても大丈夫」と思われているから、ポリコレ的に一番後回しにされているなと思うんです。

……これ、言い方を選ぶのですが、「おじさん」ってこんなに言えるけど、僕はもう「おばさん」という言葉を絶対テレビでは使わないし、美醜に関することも言わないようにしています。でも、おじさんが太っていることに対しては、誰が何を言ってもいいことになっていますよね。だったらもう、どんどん「おじさん」と言われていこうと思っているんです。それで面白い深夜ラジオをどこまでやり続けられるか、すごく楽しみなんです。

―「おじさん」であることをポジティブに「諦めている」というか。

若林:ラジオのゲストに来てくれる若い子や、若いリスナーの子たちから「『キン肉マン』も野球選手の名前も、20年前のラップの話も知らないから、自分たちにとっては最新の情報になる」と言われたんです。「調べてみたら面白そうだったので、『ドラゴンボール』を読み始めました」みたいな声が結構くるんですよ。もちろん、ラジオという環境もあると思うんですけど、おじさんが本気で好きなものに「興奮」していれば、伝わるんじゃないかという仮説を立てているんですよね(笑)。

本気で興奮していないことを押しつけたら、それは「めんどくさいおじさん」だと思う。でも本気の人を見ていると、おじさんとか関係なくなってくるじゃないですか。

―あははは。それも「没頭」ということですよね。

若林:ああ、そうですね。ただ、僕自身はテレビって基本「御座敷芸」だし、お茶の間のご機嫌を伺うものではあるとは思っているんですよ。なので、あまりにも若い子が『鬼滅の刃』の話をしているようだったら僕も読みますけどね(笑)。

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書籍情報

『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』
『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』

2020年10月7日(水)発売
著者:若林正恭
価格:792円(税込)
発行:文春文庫

プロフィール

若林正恭(わかばやし まさやす)

1978年9月20日生まれ、東京都出身。同級生である春日俊彰とお笑いコンビ、オードリーを結成。その後、『激レアさんを連れてきた。』『スクール革命』『あちこちオードリー』など数多くのバラエティー番組に出演。彼らの主戦場であるニッポン放送『オードリーのオールナイトニッポン』が2019年に10周年を迎え、同年3月には日本武道館でライブを行った。著書に『社会人大学人見知り学部 卒業見込』『ナナメの夕暮れ』がある。2020年7月からnoteにて「若林正恭の無地note」を開設。月2本のペースで更新中。

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