コムアイと北欧神話の専門家が語る。人々はなぜ自然を信仰する?

コムアイと北欧神話の専門家が語る。人々はなぜ自然を信仰する?

インタビュー・テキスト
黒田隆憲
撮影:垂水佳菜 編集:飯嶋藍子

大地にしっかり根を張って、自分の中心軸をしっかりさせることが大切。(杉原)

―そもそも杉原さんはなぜこんなにも木に関心を持つようになったのですか?

杉原:実は以前、体調を崩して静養していた時期があったんです。当時は人と話すのも怖くなってしまって。その時に、家で育てていたガジュマルの木が芽吹く姿に勇気づけられたんです。姿形は違うけれども、同じ命が一緒の空間に存在することに助けられた気がした。木の命と私の命とが共鳴し合うような感覚。

少しずつ体調も良くなって散歩にも出かけられるようになった時、ある公園で大きなイチョウの木と出会ったんです。しばらく幹に寄りかかっていたら、自分の中にある後悔や怒りや悲しみなどを、全て受けとめてくれて許してくれる気がして。

杉原梨江子

―なぜその時、助けになったのが「木」だったんだと思いますか?

杉原:木は大地にどっしりと根ざし、樹冠は天高く伸びていく、その力強い生命エネルギーが細胞のひとつひとつを蘇らせてくれるようでした。人と関わるのが辛くなると、家族の言葉も恋人の言葉も、誰の言葉も自分に届かなくて、そこから先に進めなくなる時があると思うんです。孤独な時に、「木」という物言わぬ命が内なる自分に囁きかけてくれ、生きる勇気をくれるのだということを私は実感しました。そこから「この感覚は私だけのものだろうか?」と、世界中の木や花にまつわる伝説を調べ始めたんです。そうすると、古今東西様々なところで人々が木や花と心を通わせ、生きる力をもらっていたことがわかって。

杉原:心理学でも、枝が腕、幹が胴、そして根が足といった具合に、木と人間が連動して考えられているように、大地にしっかり根を張って、自分の中心軸をしっかりさせることが大切であるということも学びました。いろいろな活動をしていますが、私の中では「木は人を支え、力を与えてくれる」というひとつの考えに基づき、それを伝えたいと思っています。

自然を持ち帰り、それを自分の視点で美しく生かせるのは、人間だけが持つ美的感覚。(コムアイ)

―コムアイさんは、屋久島や沖縄での体験を経て都会で感じる「自然」に変化はありましたか?

コムアイ:新宿御苑は年間パスポートを持っているのでたまに行きます。ただ、御苑はルールもしっかりあって「自然に触れる」という感覚ではないですね。「都会の植物はしっかり管理されているのだな」と寂しくなっちゃうこともある。

もし自分が今後、子どもを育てるとしたら「自然」を生活の中に取り込めるような環境で暮らしたいと思っているんです。自然を持ち帰り、それを自分の視点で美しく生かせるのは、人間だけが持つ美的感覚じゃないですか。

コムアイ

―生花や盆栽などもそうですよね。

コムアイ:他にも食べたり、お薬に使ったり、葉っぱで笛を作ったり(笑)。自分の生活に自然を取り込むのは素敵なことだと思っていて。でも都会だとなかなかそういう機会がない。薬草の知識ももっと身につけたいんです。自分で植物を栽培するなら、薬草やハーブがいいし、役に立つ植物が好き。病気に効いたり、いい香りがしたり、人間に作用する植物に興味があります。

人間が長い時間をかけて実験を繰り返し、効能を見つけたということにドラマを感じるし、薬草の知識を持って森に入ると、楽しさも全然違う。山椒を見つけた時とかメチャクチャ嬉しかったんです。薬草の様々な言い伝えも世界中にありますよね?

杉原:薬草は、昔は「魔法」のように思われていたんですよ。薬草を食べたり、煎じて飲んだりすると、病気だった人が元気になるわけじゃないですか。それって昔の人にとっては魔法以外の何物でもなかった。だから、神話の中に魔法のツールとして登場する薬草が、現代では医学的に効能が認められているものもたくさんあります。

たとえばニワトコ。エルダーフラワーとも呼ばれる植物で、北欧の伝説やケルト神話にも登場しますが、現代では風邪予防の薬草として知られています。また、セージはアラビアでは長寿の薬草で、「庭にセージを植えた家から死者は出ない」ということわざもあるほどです。

コムアイ:以前ケニアへ行った時、国立公園のレンジャーの方が道に生えていたセージの葉っぱをおもむろに取って、脇の下にめっちゃ塗ってたのを強烈に覚えているんですよ、「ワイルドだなあ」って(笑)。あれは香りづけみたいな意味だったのかな。

コムアイ

―セージは虫除けになるから、虫除けスプレー代わりだったのかも知れないですね。

杉原:そうかもしれないですね(笑)。北米には、ハーブティーなどにも使われるダンデライオン(タンポポ)にまつわる言い伝えがあります。南風の神様が、ある時金髪の美少女と出会って恋に落ちるのですが、南風は怠け者でいつも彼女を眺めているだけ。行動に移すことがとっても苦手なんです。

コムアイ:なんだかかわいい神様ですね(笑)。

杉原:気がついたらすっかり時が経ち、少女は成長して金髪が白髪に変化していました。すると南風の神様は、その成長した女性が恋の相手だと気づかず、フーッと溜め息をつく。その風で綿毛が飛んで女性も消えてしまいます。毎年春になるとまた金髪の少女が現れるのですが、最初に会った少女ほど美しい人には出会えず、いつまでも悔やんでいるお話です。

コムアイ:えー、切ない……。

自分が大切にしていた、人・もの・ことを思い出す時間が、自然と繋がること。(杉原)

―コムアイさんは「自然を生活の中に取り入れたい」とおっしゃっていましたが、具体的に何か考えていることはありますか?

コムアイ:実は私、八ヶ岳に家を借りようと思っているんです。拠点を増やしたいのもあるのですが、薪を割って火にくべたりしながら、植物や動物、虫たちをもう少し身近に感じてみたいんです。自分が「神聖」なものだと思っている自然の中で生活してみたらどう思うのか、自分の意識がどう変わるのかに興味があるんですよね。

左から:コムアイ、杉原梨江子

―都心ではなかなか「自然」を身近に感じる機会は少ないと思うのですが、杉原さんが部屋のガジュマルに勇気づけられたり、公園の木に生きる力をもらったりしたように、私たちが「自然」との繋がりを感じるには、どんな方法があると思いますか?

杉原:自然との繋がりを感じるために、わざわざ森林浴に出かけたり、大樹を探す旅に出る必要はなくて。近所の公園に立っている木でも、通勤通学途中にある木でも、旅先で出会った木でもいいので、「自分の木」を見つけてほしいなと思います。その木のそばに行くと、自分が大切にしていた「何か」を思い出せるような木。たとえば、子どもの頃に自然の中で遊んだ感覚や、昔旅をした時に感じた安心感や心地よさが蘇ってくるような。

私は「こころの木」とも呼んでいるのですが、その生命力に触れて、前に進む力が湧いてくる木を見つけて、自分の中心はどこにあるのか考えるきっかけにしてほしいなと思います。それは新しい自分自身を見つけにいくことでもあるし、自分が大切にしていた、人・もの・ことを思い出す時間が、自然と繋がることなのだと私は思います。

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書籍情報

『いちばんわかりやすい 北欧神話』
『いちばんわかりやすい 北欧神話』

2013年1月19日(土)発売
著者:杉原梨江子
価格:838円(税込)
発行:実業之日本社

プロフィール

コムアイ

歌手・アーティスト。1992年生まれ、神奈川育ち。ホームパーティで勧誘を受け歌い始める。「水曜日のカンパネラ」のボーカルとして、国内だけでなく世界中のフェスに出演、ツアーを廻る。その土地や人々と呼応してライブパフォーマンスを創り上げる。好きな音楽は世界の古典音楽とテクノとドローン。好きな食べ物は南インド料理とグミとガム。趣味は世界各地に受け継がれる祭祀や儀礼を見に行くこと。音楽活動の他にも、モデルや役者など様々なジャンルで活動している。

杉原梨江子(すぎはら りえこ)

文筆家。広島生まれ。日本の木の文化、世界の聖樹、花、薬草にまつわる伝承や神話、思想を研究。ライフワークとして、原爆、戦争、震災を生きのびた木々を訪ねて撮影し、当時の記憶がある人々から話を聴き取り、後世に伝える執筆、講演活動を続けている。日本文藝家協会会員。著書に『いちばんわかりやすい 北欧神話』『被爆樹巡礼~原爆から蘇ったヒロシマの木と証言者の記憶』(共に実業之日本社)、『自分を信じる 超訳「北欧神話」の言葉』(幻冬舎)、『神話と伝説にみる 花のシンボル事典』(説話社)等多数。

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