浪曲師・玉川太福の話芸「日常は生き別れ親子の再会に劣らない」

浪曲師・玉川太福の話芸「日常は生き別れ親子の再会に劣らない」

2020/04/03
インタビュー・テキスト
町田ノイズ
撮影:寺内暁 取材協力:西浅草 黒猫亭 編集:矢澤拓(CINRA.NET編集部)

私たちの些細な日常は、生き別れた親子の再会に劣らない

―浪曲は、浪曲師さんと曲師さんの臨場感あふれる駆け引きも魅力の1つだと思います。三味線の音色が登場人物の鼓動になり、情景の中の雪や雨や土煙になり、芸を彩ってくれる。でも『地べたの二人』はそのダイナミズムを放棄していると言っても過言ではないくらい素朴で。

太福:そうですね(笑)。

―『地べたの二人 ~十年~』というオリジナル作品では、歳の離れた齋藤さんと金井くんという二人の登場人物が「十年?」「丸十年?」「十年と丸十年って違うの?」って言い合っているだけで本当に何も起きない、オフビートとミニマリズムの極致なのに本当に面白い。

太福:大きく言えば僕が面白いと思うのはディスコミュニケーションなんです。2人の人間が普通にいるんだけど、うまく意思疎通ができなくて躓いたり、転んだり、何かささやかな衝突があったりして、でもそれがすごく面白いみたいなものがベスト。なるべく作者の意図が見えない感じでそれをやりたい。実際、私たちは日常の些細なできごとにすごく心を囚われるじゃないですか。それって十分描くに値すると思っていて。生き別れた親子の再会に劣らない、むしろ共感を覚えるのはこっちでしょう、と。

玉川太福

「笑いにすることで救われる」という感覚が根っことしてあるんだと思います。この間の神田伯山さんのパーティーで私の余興が大すべりした、みたいなのもネタにして笑いにすることで自分の中で1個乗り越える。モテないこととか、上手く生きられないことを描いて、それを笑いにする。優しい笑いじゃないですけど、そういう笑いが好きなんです。

伝統の上に乗せているから芸として成立する、浪曲という表現の面白さ

―太福さんの面白さの一つは、落語で言えばマクラ(いきなり落語の本題には入らず、世間話などをする導入の時間)でするような最近のできごとまで、浪曲として作品にしてしまうこともあると思っています。

太福:2018年に『渋谷らくご』で1年間『月刊太福マガジン』という企画をやったんですけど、そこで毎月あったことを浪曲化するというチャレンジをさせてもらったことを続けていて。その流れで『黒豆茶』とかヒット作も生まれました。発明っていうと大げさですけど、自分の武器だからずっとやっていこうと。

玉川太福『地べたの二人 配線ほどき』を聴く

―サウナの熱波師さんのネタもそうですし、伯山先生のパーティーでのほろ苦い記憶を昇華した『サンバが正解』とか、1月下旬にお年玉をあげるあげないで悩むネタとか、直近のできごとを体裁整えずにそのまま浪曲化してましたよね。

太福:やっぱり三味線が入って唸ることで、単なる世間話がお客様にドラマチックに「浪曲」という形で伝えられるんです。三味線が入って、唸って、昔から受け継がれてきた節があるという伝統の上に乗っけているから芸として成立するんだと思っています。私だけの手柄ではなく、浪曲が持っている力ですね。

―太福さんのそういった新作浪曲を創作する姿勢は、ちょっと視点をずらせば、「どんな人間のどんな場面もドラマになりうる」と肯定してくれる優しさがあると思います。それをより強くしてくれるのが「浪曲」という芸の力なのかなと。

太福:そう思っていただけると感無量です。

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講演情報

プロフィール

玉川太福
玉川太福(たまがわ だいふく)

1979年生まれ、新潟出身の浪曲師。2007年に玉川福太郎に入門し、2013年に名披露目。2015年に『第1回渋谷らくご創作大賞』、2017年に『第72回文化庁芸術祭』大衆芸能部門新人賞を受賞した。2017年から創作話芸ユニットのソーゾーシーに参加。2019年からJFN『ON THE PLANET』火曜パーソナリティーを担当。サウナ・スパ健康アドバイザー。

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