巨匠オリヴィエ・アサイヤスの勇気。時代の変化を恐れない

巨匠オリヴィエ・アサイヤスの勇気。時代の変化を恐れない

インタビュー・テキスト
常川拓也
撮影:垂水佳菜 編集:久野剛士(CINRA.NET編集部)

重大な変化が起こっている現代において、それを無視して止まり続けることはできない。

オリヴィエ・アサイヤス

―その中で、当時のフランス社会の変容について議論が繰り広げられるエリック・ロメール(フランスの映画監督、2010年に逝去)の『木と市長と文化会館/または七つの偶然』(1992年)が指標になったのでしょうか。

アサイヤス:そうですね。ロメールは、ふたつの一見異なる要素を共存させている作家です。ひとつは、印象派にとても影響を受けている点。季節の変化や自然に影響を受けていて、光の透明感というものを感性に入れ込んでいます。そのようなものが彼の描く世界ではとても重要です。脚本の文体においても無駄なものが削ぎ落とされて洗練されている。彼の作品では、いつも人間の心理描写や人間関係の感情の動きがきっちりと描かれるのです。

そしてそれと同時に、語られていることはシリアスだったり、社会に対しての考察が含まれている。彼は、そのときどきの時代の変化というものにとても敏感でした。『木と市長と文化会館/または七つの偶然』はセンチメンタルコメディーでありつつ、時代に対するジャーナリスティックな視線もあります。私は、『冬時間のパリ』の中でそれを実践したいと思いました。

ただし、私はデジタル化の問題に対して「答え」というのは与えていません。それは観客に考えてほしいのです。問題の複雑さを示すこと、問題提起をできるというのが映画のいいところだと思います。映画というのは、決して答えを与えてはいけないのだというぐらいに考えています。

オリヴィエ・アサイヤス
オリヴィエ・アサイヤス

―確かにあなたは紙と電子、アナログとデジタルのどちらかに優劣のジャッジを下すことは避けていますが、ルキノ・ヴィスコンティ(イタリアの映画監督、1906~1976年)の『山猫』(1963年)劇中の台詞「変わらないために、変わらなければならない」を引用しているのが印象的でした。

アサイヤス:この台詞を語る『山猫』の公爵の視点に私は全くもって同感です。公爵が言っている言葉は、どちらというとギヨーム・カネ演じるアランの見解と通じています。とても根の深い重大な変化が起こっている現代において、それを無視して止まることはできないのだということです。

それは政治の世界でも同じで、アメリカでもヨーロッパでも15~20年前では考えられなかったような最悪の状態に来ている。だからこそ、公爵のあの言葉は、ヴィスコンティがあの作品を撮った当時よりも、いまの社会のほうが一層響くものが大きいと思います。

『冬時間のパリ』ポスター ©CG CINEMA / ARTE FRANCE CINEMA / VORTEX SUTRA / PLAYTIME
『冬時間のパリ』ポスター ©CG CINEMA / ARTE FRANCE CINEMA / VORTEX SUTRA / PLAYTIME(サイトを開く
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作品情報

『冬時間のパリ』
『冬時間のパリ』

2019年12月20日(金)からBunkamuraル・シネマほか全国で順次公開

監督・脚本:オリヴィエ・アサイヤス
出演:
ジュリエット・ビノシュ
ギョーム・カネ
ヴァンサン・マケーニュ
クリスタ・テレ
パスカル・グレゴリー
上映時間:107分
配給:トランスフォーマー

プロフィール

オリヴィエ・アサイヤス

1955年1月25日、パリに生まれる。画家・グラフィックデザイナーとしてキャリアをスタートし、フランスの映画批評誌「カイエ・デュ・シネマ」の編集者として文化とテクノロジーのグローバル化への興味を追求しながら、1980〜1985年、自身の短編映画製作を始める。長編初監督作『無秩序』(1986年)がヴェネツィア国際映画祭で国際批評家週間賞を受賞。これまで、世界的な認知をもたらす、豊かで多様な作品を一貫して発表してきた。『夏時間の庭』(2008年)はニューヨークタイムズ紙による「21世紀の映画暫定ベスト25」に選ばれている。また、映画に関するエッセイ、ケネス・アンガーの伝記、イングマール・ベルイマンとの対談を含む数冊の本も出版している。

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