元問題児の小国士朗がNHKで学んだ、熱量を公共に生かすアイデア術

元問題児の小国士朗がNHKで学んだ、熱量を公共に生かすアイデア術

インタビュー・テキスト
唐川靖弘
撮影:升谷玲子 編集:久野剛士(CINRA.NET編集部)

YouTuberで思い知った、「熱狂する素人」の強さ

独立後は、まさに八面六臂の活躍ぶり。認知症の人が活き活きと働く『注文をまちがえる料理店』『ラグビーワールドカップ2019』を通じて街作りに取り組む「丸の内15丁目PROJECT.」、がんを治せる病気にするプロジェクト「deleteC」など、様々なテーマに取り組む。

「deleteC」集合写真
「deleteC」集合写真

正直、自分自身がなにか特別なテーマや専門性を持っているわけではないという。自称「CSO」=チーフ素人オフィサーだ。それは、難しいと思われている問題に対して、誰よりも熱狂するサポーターでありながら、枠にとらわれない発想や行動力を持ち込み、多くの人を巻き込む役割。その根底にあるのは、「熱狂する素人のほうが、中途半端なプロよりも強い」という思いと自身への反省だ。

「YouTuber」なる人たちの存在を初めて知ったとき、コンテンツ作りのプロとして、彼らを正直バカにしていたという。しかしご存知のとおりYouTuberは、既存のメディアがおよそ到達し得ない未知の領域をあっという間に切り拓き、いまや小学生にとって「将来なりたい職業ランキング」のNo.1になった。自らの経験や常識にとらわれ、得体の知れないメディアをイケてないと切り捨て、世の熱狂の萌芽に気づかなかった。自分は中途半端なプロだと感じたという。

小国士朗

『注文をまちがえる料理店』で実感した、「誰も見たいことのない風景」作りの面白さ

独立してもう1つわかったことがある。それは、自分が本当にやりたいことは「television(テレビジョン)」だと再認識したこと。NHKに入社してすぐの頃、お笑い以外の番組を見たことがなかった自分の役割を模索する中で、その言葉の意味を調べたことがある。ギリシャ語でteleが「遠く離れた」、visionが「映す」を意味する。番組作りとはまさに、遠く離れたなにもないところからストーリーを形作り映し出す作業ともいえる。そしてディレクターという役割は、誰も見たことのない風景を描き出し、それを制作に関わるあらゆる人々に共有することだ。小国さんがNHKで最も鍛えられたこの力が、いまいかんなく発揮されている。

その一例となるのが、先出の『注文をまちがえる料理店』といえよう。それは、「介護の素人」である小国さんが、「認知症の人びとが働くレストラン」という、誰も見たことがない風景を思い浮かべたことから始まった。認知症介護施設の取材をしていたある日、献立がハンバーグと聞いていたのに出てきたのは餃子だった。「あれ、おかしいな?」と自分では思っていたのに、みんなは平気で餃子をパクパクとおいしそうに食べている。その様子が半端じゃなく素敵に見えた。途端に、ある光景が一気に鮮明に映像となって浮かんできた。

『注文をまちがえる料理店』集合写真
『注文をまちがえる料理店』集合写真

とてもおしゃれなレストラン。入り口には「注文をまちがえる料理店」という看板がある。小国さんがドアを開けて入っていく。オーダーを取りに来るのは、かわいいエプロンをつけたおばあちゃん。「ハンバーグください!」というと、ハイハイっていいながら餃子が出てくる。「頼んだの違いますよ~!」って一緒に笑う。

だから『注文をまちがえる料理店』も、僕はあの映像として見えた新しい風景をただ丁寧に話して、形にしていっただけなんです。

『注文をまちがえる料理店』の様子
『注文をまちがえる料理店』の様子

飲食業では通常、注文をまちがえることが一番ダメなこととされる。はじめ多くの外食サービスのプロが「面白いが、誰も手を挙げないだろうな」と思っていたという。しかしながら、ここがチーフ素人オフィサーの力の見せ所だ。26社の外食サービスの社長の前で15分間のプレゼンをしたとき、「外食の素人」として自分の頭の中にある映像と熱意を語る小国さん。業界の著名な経営者たちがその熱を感じ取ってくれ、実現に向けエネルギーの流れが大きく変わったのだった。

2017年6月、『注文をまちがえる料理店』プレオープンの初日。僕は小国さんに招待いただき、家族で訪問した。認知症の皆さんはニコニコとそれは楽しそうだ。期待に違わず(?)付け合わせのサラダが1つ足りない。いっていいのかな、と気を遣いながらやんわり指摘してみると、「あら、ごめんなさいねー」と笑ってくれた。お互いを思いやり、ハプニングすら楽しみながらおおらかに笑って過ごす。これって、認知症の方だけでなく、人と人とのコミュニケーションや社会全般のあり方にも必要なことなんじゃないか? 通常、レストランで注文をまちがえることはマイナスのことだが、僕たちにとってはプラスの価値に変わっていた。みんながお互いに対して優しい気持ちを持てるって本当に素敵なことだ。

『注文をまちがえる料理店』の様子
『注文をまちがえる料理店』の様子
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連載『イノベーションを生む「うろうろアリ」の働き方』

変化のスピード増す現代において、既存の価値観や会社という枠組みに囚われないない「うろうろアリ」こそがイノベーションをリードする。自由な発想で新たな価値を生み出し続ける彼らの、最先端の働き方を紹介するインタビュー連載です。

プロフィール

小国士朗(おぐに しろう)

株式会社小国士朗事務所 代表取締役・プロデューサー。2003年NHKに入局。ドキュメンタリー番組を制作するかたわら、200万ダウンロードを記録したスマホアプリ「プロフェッショナル 私の流儀」や世界1億再生を突破した動画を含む、SNS向けの動画配信サービス「NHK1.5チャンネル」の編集長の他、個人的プロジェクトとして、世界150か国に配信された、認知症の人がホールスタッフをつとめる「注文をまちがえる料理店」などをてがける。2018年6月をもってNHKを退局、フリーランスのプロデューサーとして活動。

唐川靖弘(からかわ やすひろ)

1975年広島県生まれ。外資系企業のコンサルタント、戦略プランニングディレクターを経て、2012年から米国コーネル大学ジョンソン経営大学院Center for Sustainable Global Enterpriseマネージングディレクターとして、多国籍企業による新規ビジネス開発プロジェクトや新市場開拓プロジェクトをリード。自身のイノベーションファームEdgeBridge LLCを拠点に、企業の戦略顧問や組織・人材育成プログラムディレクター、大学の客員講師としても活動。フランスの経営大学院INSEADにおいて臨床組織心理学を研究中。

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